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装甲少女エア・グレイブ  作者: 大月秋野
最終部 「Ø」
162/227

第160話 戦慄っ!地獄将軍ロスヴァルト(中編-1)

 監獄の囚人をいたぶるファットマンを倒したさやか達の前に、監獄の真の支配者ロスヴァルトが姿を現す。『バロウズの地獄将軍』と呼ばれ恐れられた彼の実力は計り知れないものがあり、一行はなすすべなく窮地へと追い込まれる。

 このまま何の打開策も見出せなければ、少女たちが倒される事は火を見るより明らかだった。


 物陰から戦いを見守っていたゼル博士が、どうにかしなければならないと焦りを抱く。


(敵の強さの謎を解き明かさなければ……)


 博士はすぐにポケットから機械が付いた眼鏡のような装置を取り出すと、それを顔に掛けて、ロスヴァルトの能力の解析を行う。彼の強さには大きな秘密が隠されていると考えて、それを突き止める事が少しでも勝利の可能性に繋がると一縷いちるの望みを託す。


 しばらくただじっと敵を眺めていたが、何らかの成果があったのか、物陰から飛び出して口を開く。


「……見えたぞッ! ロスヴァルトの周囲に、目に見えない微弱な電流……特殊な磁場が張り巡らされているッ! それがどのような効果をもたらすかは分からないが、その磁場こそが、彼の圧倒的な強さに繋がっている事は間違いないッ!」


 解析により判明した事実を、その場にいた者全てに聞こえるように大きな声で叫んだ。


「特殊な……磁場!?」


 ミサキと一緒に地面に倒れていたさやかが、博士の言葉に耳を傾けながら、上半身を起こそうとする。


「特殊な磁場とか言われても、それだけでは何の解決策にもならんぞッ! 博士ッ! もっと何か情報は無いのかッ!」


 地面に寝転がったままのミサキが、かすように早口で問い質す。対応策さえ見つかれば敵に勝てるかもしれないもどかしさがいらちを生んで、八つ当たり気味に感情的になっていた。


「……すまない」


 博士が申し訳無さそうに謝る。肩を縮こませてガックリうなだれる姿は、何とも言えない哀愁を漂わせる。うつむせた顔は眉間にしわを寄せて気難しい表情を浮かべており、仲間の期待に応えられない非力さに対する苦悩をにじませた。


『フフフッ……』


 ロスヴァルトが一行をあざけるように笑う。磁場を見抜かれた事に慌てる様子は微塵も無い。それどころか、またも余裕ありげに腕組みしながら仁王立ちする。


『……フハハハハッ! 知りたいのなら教えてやるッ! 何故貴様らが私に勝てないのか、その理由をなッ! 知った所で貴様らにはどうにもならんッ! だから、あえて教えてやるのだッ!!』


 自らの能力を明かす事を高らかに宣言する。知られても攻略されようが無いという絶対の自信から、隠し通す気は皆無だった。


『装甲少女はナノマシンによって肉体を強化され、身体能力を常人の十万倍に引き上げられている……それが核の直撃に耐えられるメタルノイドの装甲を貫ける理由ともなっていた』


 前置きとして、まず少女たちの強さの秘密について語る。

 直後不敵に口元をゆがませた。


『フフフッ……だが私が背負っている魔剣ダインスレイヴ……そこから発せられる微弱な電磁波が、ナノマシンの活動に干渉し、肉体強化を出来なくしたのだッ! 分かるか? ようするにだ……私の半径五メートル以内では、貴様らの身体能力は、そこら辺にいる普通の女子高生と同レベルに落ち込んでいるのだよッ!!』


 さやか達の身体機能が、魔剣の力によって一般人レベルまで落とされた事を告げた。


「……何という事だ」


 ロスヴァルトの口から明かされた事実に、博士が愕然がくぜんとする。ミサキ達も、話に聞き入っていた囚人たちも深く動揺し、場がにわかにざわついた。


 彼の言っていた事が本当なら、イージス艦よりも遥かに強い化け物に、普通の女子高生が素手で立ち向かうようなものだ。勝てる見込みなど一ミリも存在しない、天と地ほどの戦力差があった。


「……ふんっ! だったら、その何ちゃら剣を奪えば良いんでしょ! 簡単じゃないっ!」


 一行の中でただ一人、希望を失わないさやかが鼻息を荒くしながら立ち上がる。たとえ絶望的な事実を突き付けられようと、何としても負けまいとする不屈の闘志を胸に抱く。


「どぉぉぉぉりゃぁぁぁぁああああああああっっ!!」


 勇ましくえながら、敵に向かって全速力で駆け出す。そのまま背後に回り込んで剣を奪おうともくろむ。


『……大馬鹿者がッ!!』


 ロスヴァルトはすぐにさやかの方へと向き直り、しかり付けるように怒鳴る。その勢いに任せるように、少女の腹を、足のつま先で思いっきり蹴飛ばした。


「うぼぁぁぁぁああああああっっ!!」


 少女が滑稽な奇声を発しながら、後ろに弾き飛ばされる。地面に落下してゴロゴロと派手に転がった後、強く蹴られた腹を痛そうに両手で押さえながら、ダンゴ虫のように体を丸まらせた。


『人の話をちゃんと聞いてなかったのか!? 貴様らの力は、本来の十万分の一に低下していると言ったのだッ! 私からすればミミズが地べたをうのと同じだッ! そのザマで一体どうやって剣を奪えるというのだッ!? このアホンダラの大たわけがッ! 無策のまま突っ込もうなどと、蛮勇ここに極まれりッ!』


 狼男が怒り気味に早口でまくし立てる。彼からすれば少女がやろうとした事は愚行としか思えず、とても頭の悪い行動に対して、害虫を見るような不快感すら抱いた。


『どうあがこうと無駄な事ッ! もはや貴様らには一片の勝機もありはしないのだッ! あきらめて絶望して、死んでくたばるがいいッ! この私自らの手で、貴様らをあの世へと送り届けてやるッ!!』


 死を宣告する言葉を吐くと、背中にしてあった剣を引き抜いて、地面に突き立てる。


『魔剣の力、目に焼き付けて死ねッ! ダインスレイヴ……サンダーストーム・デストラクションッ!!』


 技名らしき単語を口にすると、大地に刺さった剣から、青く光るいかずちのようなものが放たれる。それは蛇のように地をいながら、目にも止まらぬ速さでさやか達へと迫る。


「危ないッ! みんな、バラバラに散れッ!」


 危険を察知したミサキが、咄嗟に仲間に指示を出す。彼女の忠告に従い、ゆりかとアミカがそれぞれ別の方角に走り出す。負傷して倒れていたさやかもすぐに起き上がり、同様に駆け出す。

 少女たちは目標を分散させる事で、敵の狙いが定まらないようにしようともくろんだ。


 だがそれまで一つの塊だった雷が四つに枝分かれして、逃亡した少女を個別に追尾する。その地を走る速さは凄まじく、さやか達は逃げ切れずに捕まってしまう。


「ぐぁぁぁぁああああああっ!」

「あああああっ!」

「ぎゃぁぁぁぁああああああーーーーーーっっ!!」


 全身を高圧電流で貫かれた少女たちが痛ましい叫び声を上げる。かよわき乙女の絶叫は死の四重奏カルテットとなって辺り一帯に響き渡り、戦いを見ていた囚人たちの心に、悲しみのメロディとなって突き刺さる。


「ううっ……」


 やがてさやか達四人が辛そうにうめき声を漏らしながら、前のめりに地面に倒れる。体中の至る所にブスブスと黒い焦げ跡が付いて、そこから白煙が立ちのぼっている。少女たちは目をつぶって地べたに寝転がったまま、死んだように黙り込んでおり、起き上がる気配は全く無い。


『フフフッ……終わりだ』


 ロスヴァルトが自らの揺るぎない勝利を確信してニンマリする。手柄を立てられた嬉しさのあまり笑いが止まらなくなる。

 もはや死にたいとなったさやかにとどめを刺そうと、誇らしげにふんぞり返った姿勢のまま、彼女に向かってドスンドスンと足音を立てて歩く。


「ま……まだだ……」


 その時うつ伏せに倒れていたさやかがかすかに動き出す。気力を振り絞って体を起き上がらせると、両足に力を入れてゆっくりと立ち上がろうとする。

 手足はガクガク震えていて、呼吸は荒く、目の焦点は定まらない。とても戦う力があるようには見えない。それでも彼女は最後まであらがおうというのだ。


『……馬鹿めッ!!』


 ロスヴァルトは大声で一喝すると、手にした剣を少女に向かって投げ付けた。


「……ッ!!」


 さやかは避け切れずに、飛んできた剣に腹を貫かれる。そのまま勢いに押されて、刑務所の外壁に剣ごと突き刺さってしまう。


「ううっ……ぐうっ……」


 串刺しにされて動けなくなった少女が、苦痛に顔をゆがませながら、体をバタつかせて必死にあがく。あたかも手足をもがれて死にかけたアリのように……。


「……うっ」


 だがやがて力尽きたようにぐったりして、そのまま動かなくなる。


「……」


 場がシーーンと静まり返る。見張りの兵士も、囚人も、ゼル博士も、一言も話さない。少女の傷口からボタッボタッとれ落ちる血が、彼女の死を物語るように血だまりを作る。そこから漂う鉄臭いニオイが、見ていた者の鼻をつく。


 赤城さやかは死んだのか……そんな考えが囚人たちの頭をよぎり、全身に悪寒が走る。


『オイそこのお前……そうだ、お前だ。お前ちょっと、あの女が死んだかどうか確かめて来い』


 沈黙を破るようにロスヴァルトが、兵士たちの中にいた一人の男を呼び付けて、少女の生死を確認するよう命じる。

 男は一瞬嫌そうな顔をしたものの、上司の命令には従えず、しぶしぶ少女の元へと向かう。


 兵士が近くまで来ても、さやかは全く動こうとしない。目を閉じてグッタリとうなだれたまま、気絶したように固まっている。剣が刺さったままの腹からは、致死量を超えたとしか思えないほどの血が流れている。


 男はさやかのほほを手でペチペチ叩いたり、胸に耳を当てて心臓の鼓動を確かめたり、まぶたを開いて瞳孔を見てみたりした。


「……間違いありませんッ! 赤城さやかは確実に死んでいますッ!」


 やがて少女の死に疑いようが無い事を、大きな声で伝えた。


「ああっ……そんなぁ」


 英雄ヒーローの死を知らされて、囚人の一人が悲嘆に暮れる。


「もうだめだぁ……」

「なんてこった……おしまいだぁ」


 他の囚人たちも後に続くように嘆きの言葉を漏らす。落胆したようにガクッとひざをついて、シクシクと声に出してすすり泣く。深い悲しみに打ちのめされて、絶望で胸が張り裂けそうになる。

 彼女なら世界を救うだろう……そう信じた英雄の死は、囚人たちに計り知れないショックをもたらす。


 博士も苦悶の表情を浮かべたまま、顔をうつむかせる事しか出来ない。最後の希望を絶たれた悔しさのあまり、血が出るほど強く下唇を噛んだ。


『フフフッ……フハハハハァッ! やった! ついにやったのだ! バエル様ですら成しなかった偉業……赤城さやかを……我らに逆らいし愚か者を、遂に殺したのだッ! 者ども、喝采かっさいせよッ! 世界は恐怖と絶望に呑まれ、混沌の時代が訪れるッ! 我らが支配する暗黒の理想郷……バロウズの時代がッ!!』


 ロスヴァルトが天を仰ぐように両腕を広げて、高笑いしながら勝利宣言する。むべき宿敵を倒せた嬉しさでテンションが最高潮になり、演劇じみた台詞セリフが口から飛び出す。


「オオーーーーーーッ!!」


 主君の勢いに乗るように兵士たちが歓声を上げる。手にした銃を高く掲げてバンザイしたり、拳を強く握ってガッツポーズしたりして、勝利の喜びにひたる。仲間の兵士を胴上げしている者もいた。

 その場にいた兵士と囚人の反応は完全に真逆のものとなった。


『さて……壁に刺さった剣でも引き抜くとしよう』


 ロスヴァルトはふと思い出したように、少女の亡骸に向かって歩き出す。


  ◇    ◇    ◇


 赤城さやかの意識の中――――。



 ううっ……暗い……冷たい……寒い。


 ここは何処? 戦いはどうなったの?

 暗くて何も見えない……手足に力が入らない……寒い。

 意識あるのに、体が言う事を聞かない……自分の体じゃ無くなったみたい。


 なんか前にも、これと同じ感覚あった。

 そうだ……あの時だ……バエルに殺された時だ。

 やだなぁ……このまま起き上がれなかったら、私本当に死んじゃう。


 私が死んだら、きっと囚人がみんな殺される。

 ゆりちゃんも泣いちゃう。ミサキちゃんもアミちゃんも博士も、みんな悲しむ。そんなのイヤだ。絶対にイヤだっ!


 イヤだイヤだイヤだっ! 絶対にイヤだっ! イヤだぁぁぁぁぁぁああああああああーーーーーーーーーーーーっっ!!


  ◇    ◇    ◇


「……うぁぁぁぁああああああーーーーーーーーっっ!!」


 死んだはずのさやかがグワッと目を開いて、大きな声で叫びながら暴れだす。


『なっ……何ぃぃぃぃぃぃいいいいいいいいッッ!?』


 ロスヴァルトが驚きのあまり狼狽しながら、慌てて後ろに下がる。完全に死んだとばかり思っていた少女が突然動き出した事に、ゾンビに襲われたようなショックを受けて、危うくパニックにおちいりかけた。機械の体であるにも関わらず、心臓がバクバクと激しく鳴ったような錯覚を覚えて、目眩めまいがして気が遠くなりかけた。


『なっ、何故だッ! 何故だッ! 何故なんだぁっ! ききき、貴様は間違いなく死んだ! そのはずなんだ! なのに何故生き返った! 貴様はゾンビか! アンデッドか! 不死鳥か! それともコンティニューでもしたのか! ええい、とにもかくにも、訳が分からんッ! 一体何がどうなってるんだぁぁぁぁぁぁああああああああーーーーーーーーっっ!!』


 少女が生きていた事が到底受け入れられず、頭を抱え込んで早口でわめき散らす。

 いっそ夢か幻であってくれ……男はそう願わずにはいられなかった。

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