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装甲少女エア・グレイブ  作者: 大月秋野
最終部 「Ø」
159/227

第157話 ファットマンの策略

 残りの敵を倒すべく北海道へと渡ったさやか達一行は、ファットマンに追われていた三人の男を救出する。彼らは装甲少女に助けを求めるため、刑務所から脱獄したのだという。バロウズに逆らう者たちが投獄されて働かされる刑務所……それは人としての尊厳を奪われた、地獄のような環境に他ならなかった。


 男の話を聞かされて、さやかは刑務所にとらわれた人々を助ける事を誓う。

 博士の作戦により所内への侵入に成功した一行だったが、目の前で囚人が拷問されてるのを見て、さやかがたまらずに飛び出してしまう。ゆりか達も彼女を放っておけずに飛び出し、四人はあっという間に量産ロボの群れに包囲される。


 仲間の指示に従いザコの始末を彼女たちに任せると、さやかは敵の包囲を抜け出して、一目散にファットマンの元へと駆け出す。


「ピザまん、今度は逃がさないわ! 私と勝負しなさい!」


 牛頭の前に立つと、強気な態度で戦いを挑むのだった。


『バカタレが……今回は貴様との再戦に備えて、いろいろと準備したのだ。前回と同じだと思ってると、死ぬほど後悔する目にうぞ』


 ファットマンが相手の挑発を軽く受け流す。それなりの勝算があるのか、名前を間違われても怒らない余裕を見せ付けた。


「準備なんかしたってムダなんだからっ! アンタみたいな三下、私がブチのめしてやるっ!」


 さやかが負けじと言い返す。前回の戦いが楽勝だったためか、あえて相手の力量をあなどる言葉を吐く。今の彼女にとって、牛頭など恐るるに足らないというおごりがあった。

 さっさと倒したいと気持ちが焦り、少女は自分から敵に向かって駆け出す。


「どぉぉぉぉりゃぁぁぁぁああああああーーーーーーーーっっ!!」


 威勢の良い雄叫びと共に、右拳によるパンチを繰り出す。少女の気迫が篭った一撃が相手の腹に叩き込まれると、ダイナマイトが爆発したような音が鳴り、発生した衝撃波が周囲に伝わって、空気がビリビリと振動する。


 あまりの迫力に、周りで戦っていた者たちが一瞬ピタッと足を止める。

 拳が衝突した姿勢のまま数秒が経過し、場がにわかに静寂に包まれる。

 その瞬間、さやかは勝利を確信した。だが……。


『クククッ……』


 ファットマンが邪悪に口元をゆがませる。以前なら吹き飛ばされる威力の一撃を受けたにも関わらず、その場から一歩も動いていない。殴られた箇所の装甲は数ミリ内側にへこんだだけで、とても手傷を負わせたとは言えない。


「そん……な……」


 さやかが思わず唖然あぜんとする。想定外の装甲の硬さにショックを受けたあまり、冷静な思考が働かず、敵の真ん前で棒立ちになる。


『フンヌァッ!』


 ファットマンが掛け声を口にしながら、すきだらけになった少女の腹を、足のつま先で思いっきり蹴飛ばす。


「うぼぁぁぁぁああああああっっ!!」


 さやかが奇声を発しながら豪快に弾き飛ばされる。地面に落下して全身を強打すると、その勢いのままローラーのようにゴロゴロ転がっていく。


「さやかッ! 今助けに……グッ!!」


 ミサキ達はすぐに救援に向かおうとしたものの、主君が優勢である事を知って勢い付いた量産ロボの群れが、彼女たちの行く手をはばむ。


「ううっ……ゲホゲホッ!」


 さやかが辛そうに何度もき込む。強く蹴られた腹をいたわるように手で押さえながら、気力を振り絞って立ち上がる。内蔵を圧迫された衝撃で吐きそうになるのをこらえるのに必死だった。


『フンッ……馬鹿が。俺が前回敗れた強さのまま再戦すると、本気で考えたのか?』


 痛みに耐えようとする少女を眺めながら、ファットマンが鼻で笑う。


『貴様に敗れて刑務所に帰った後、俺は装甲の厚さを二倍に、さらに材質もより強固な物へと変えたのだッ! 今の俺の防御力は、以前のおよそ五倍ッ! もはや貴様ごときのパンチなどで、致命傷を与えられはせんのだッ!!』


 自身が大幅に強化された事を告げて、相手の力量を見誤った少女の浅はかさを心から侮辱した。


『そして貴様を倒すために用意した切り札……それがこれだぁっ!!』


 ファットマンはそう叫ぶや否や、手にしたムチを少女に向かって振り下ろす。


「くっ!」


 さやかは咄嗟に避けようとしたものの、わずかに反応が遅れてしまい、彼女の右足に鞭が蛇のように絡み付く。


「ぎゃぁぁぁぁぁぁああああああああーーーーーーーーっっ!!」


 直後バチッと音が鳴って、少女の全身が青白い光に包まれた。天にも届かんばかりの絶叫が放たれて、体のあちこちに黒い焦げあとが付いて、ブスブスと白煙を立ちのぼらせる。

 鞭から伝わった高圧電流が体を貫いたのだ。少女はその痛みに耐え切れず、前のめりに地べたに倒れてしまう。


「うぐぅ……」


 そして目をつぶってうめき声を漏らしたまま、ミミズのように体をよじらせて横向きになる。


『フフフッ……フハハハハハハァッ! 見たかぁっ! これが貴様を殺すために用意した電撃鞭の威力よッ! そのパワーは落雷に匹敵するッ! たとえ貴様の皮膚がはがねのように硬かろうと、電流を遮断する事は出来んッ! スピードで大きく劣り、バリアも張れない貴様には、この攻撃を防ぐ手段は無いのだッ!!』


 ファットマンが鞭に仕込んだトラップを誇らしげに解説する。自らの揺るぎない勝利への確信を抱いたあまり、嬉しさで笑いが止まらなくなる。


『フッフフフーーーン、フッフーーーン』


 高まったテンションのままに鼻歌をうたいながらスキップを踊りだす。


『オラァッ!!』


 地面に寝転がったさやかの前に立つと、彼女の横顔を足で思いっきり踏み付けた。


「ぐぁぁぁあああああっ!」


 物凄い体重で圧し掛かられて、さやかが悲痛な叫び声を上げる。牛頭がグイッと足を押し込むたびに、メリメリと骨が砕ける音が鳴り、少女の顔面が大地にめり込む。そのまま力を入れたら地中に埋まってしまいそうな勢いだ。


 ミサキ達は量産ロボの始末に手間取っており、救援に駆け付けられない。もはや少女の生き死には、牛頭のさじ加減一つで決まる形となった。


 勝ったな……ファットマンはそう考えて、ニンマリと笑った。


『この程度の実力しか無い女に、フリードマン中佐やミスター・エックス様がお敗れになられたなど、とても信じられん……お二方とも、俺を遥かにしのぐ実力を持っておられた……この女も決して弱くはないが、彼らを倒すほどでは無かった。それが何故……』


 自分よりずっと格上の上司が倒された事に、かすかな疑問を抱く。


『だがまあ良い……それほど輝かしい戦歴を持つこの女を始末すれば、俺様の昇進は間違いない。ロスヴァルト将軍と並ぶか、もしかしたら上回ってしまうかもな……ハハハハハッ』


 手柄を立てて出世した将来を思い描いて、笑いが止まらなくなる。


『さて……ではそろそろとどめを刺すとしよう。クククッ……案ずる事は無いぞ。貴様の仲間にもすぐに後を追わせてやる。あの世で全員一緒に仲良く暮らすがいい。貴様らを亡き者とした後、死体をズタズタに切り裂いて、見せしめにバラいてやる。そうすれば囚人どもは絶望の奈落へと突き通され、もう二度と脱走しようなどとは考えまい』


 少女を残酷に始末する事を想像して、興奮のあまり鼻息を荒くさせた。


 なんて悪趣味な男だ……ミサキは量産ロボと戦っている最中ながら、ファットマンの言葉を聞いて、内心深くいきどおる。すぐに救援に向かえない自分の無力さにもどかしさを感じたあまり、思わず下唇を噛んだ。


『赤城さやかッ! 俺様に逆らった事を後悔しながら、ブザマに死んでいけぇぇぇぇええええええっっ!!』


 牛頭は死を宣告する言葉を吐くと、足に力を入れて少女の顔面を踏みつぶそうとする。

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