第150話 最強の敵、もう一人のワタシ。(中編-1)
さやかと瓜二つの少女、赤城サヤカは自ら『平行世界のさやか本人』と称して、バエルに忠誠を誓った事を告げる。闇の戦士ゼノ・グレイブに変身すると、圧倒的な力で一行を叩きのめした。
「今の私の力は、アンタ達の二十倍……エア・グレイブルと同程度よ」
そしてどれだけ力の差が開いているかが、彼女自身の口から明かされた。
強化変身エア・グレイブルは、かつてバエルの第一戦闘形態を倒したほどの強さだ。しかも半ば暴走状態にあった『それ』と異なり、今の彼女は理性を保ち、力を完全にコントロール出来ている。それだけでも十分に厄介な存在だという事が伝わる。
もはや戦力差は、食う者と食われる者……アリクイとアリ程度にまでなっていた。
(何という事だッ! それが事実なら、我々には僅かの勝機も存在しないッ! なす術なく皆殺しにされて、世界は闇へと覆われるだろう!)
彼女の言葉を聞いた博士は、ショックのあまり目の前が真っ暗になりかけた。
「うおおおおおおっ!」
絶望的な力の差を突き付けられて、悲観的な空気が広がりかけた時、それを吹き飛ばそうとするように何者かが吠える。直後村の一角にある瓦礫の山がガラガラと音を立てて崩れ去り、そこから一人の少女が姿を現す。美しい黒髪をなびかせて、手には刀が握られている。
「どれだけ力の差が開こうと……たとえ一ミリも勝機が無かったとしてもッ! それでも私は希望を捨てないッ! 貴様などには断じて屈しないッ! この身は砕けて塵になろうとも、最後まで抗ってみせるッ!」
その瞳に熱い闘志の炎を燃やしながら、我ここにありと見せ付けるように勇ましく大地に立った。
姿を現したのは、倒壊する家に呑まれて瓦礫の下敷きになっていたミサキだった。気力で自らを奮い立たせて、瓦礫を力ずくでどかしたのだ。殴り飛ばされて家に潰された時それなりに負傷したはずだが、それを感じさせない気迫に溢れている。
「赤城サヤカッ! 私と勝負してもらうッ! 今から私は全身全霊を賭けた、最大威力の一撃を放つ。それに見事耐えたならば、貴様の勝ち……もし耐えられなかったり、避けようとしたりすれば、私の勝ちだッ! 貴様が自分の強さに絶対の自信を持ったならば、この誘いに乗れるはずだ!」
少女は刀の切っ先を相手に向けながら勝負に乗るよう提案する。敵のプライドの高さを逆手に取った、一か八かの賭けに出るつもりだった。
「フンッ……上等じゃない。良いわ、その賭けに乗ってあげる。その代わり、もし私が勝ったら、何でも言う事聞いてもらうわよ」
サヤカは小馬鹿にするように鼻で笑いながら、ミサキの提案を受け入れた。むろん自分が負ける可能性など全く視野に入れていない。
「……今のうちに好きなだけ笑うがいい。あの世に行ったら、笑いたくても笑えなくなるからな」
敵が誘いに乗ったのを見て、ミサキが安心しながらほくそ笑む。自身にとっては間違いなく成功する賭けに相手を持ち込めた喜びに胸が沸き立つ。揺るぎない勝利への確信を抱くと、両手で握った一本の刀を天に向かって突き上げる。その構えのまま力を溜め込むように数秒間静止した。
「これが私の最大威力の一撃……耐えられるものなら、耐えてみせよッ! 冥王秘剣、断空牙ッ!!」
大声で技名を叫ぶと、高く掲げた刀を一気に振り下ろす。ブォンッと風を斬る音を響かせた後、刀を振った場所から三日月状のカマイタチのような物が敵に向かって放たれる。
サヤカは『それ』を避けようともしない。それどころか余裕ありげに笑みを浮かべたまま、ふんぞり返って仁王立ちしている。
(やった!)
その瞬間、ミサキは勝利を確信した。
空間の裂け目それ自体を飛び道具として放つ断空牙は、物理的に防ぐ手段の無い防御無視の一撃必殺だ。これまで避けられたり穴を閉じられたりした事はあったが、サヤカはそのどちらもやる素振りが無い。数秒後に彼女は間違いなく真っ二つになるのだ。その事実に胸が躍った。
三日月状の斬撃は少女をスゥッと通り抜ける。彼女の体に傷口と思しき赤い線のようなものが、縦一文字に浮かび上がる。
「何……だと……!?」
次の瞬間起こった出来事に、ミサキは驚くあまり目を丸くさせた。
断空牙は確かに命中した。防がれた形跡も無い。赤い線のような傷口は、間違いなく少女に攻撃が当たった事を示すものだ。
だが生じた傷口は僅か一瞬にして塞がり、血の一滴が垂れ落ちる暇すら無かった。そして少女は攻撃を受けた事実など最初から無かったかのように、平然と立っていた。
「防ぐ必要なんて無いわ……たかが傷の一つくらい、すぐ治しちゃえば良いだけだもの」
サヤカがいたずらっ子のようにクスクスと笑う。最初からこうなる事が分かっていて、一見無謀に見える賭けをわざと受けたのだ。
(ああっ……!!)
ミサキはショックのあまり目の前が真っ暗になった。
ただ防御力が高いだけでも厄介なのに、その上更に自己再生までしたのでは、始末に負えない思いがあった。完全に敵の手のひらで踊らされていた状況に、もはや勝てる方法が見つからず、目眩がして気が遠くなりかけた。
「さてと……勝負は私の勝ちで決まりね。だったら約束通り、好きにさせてもらうわよ……はぁっ!」
サヤカは賭けに勝った事を告げると、掛け声と共に手のひらから赤い光線のようなものを放つ。それは電撃のようにジグザグに曲がりながら飛んでいき、ミサキの全身に蛇のように絡み付いた。
「ぐっ! なんだこれは……ぐぁぁぁあああああっ!」
咄嗟に抵抗しようとするミサキだったが、直後彼女の全身に高圧電流が流れ込んだ。体の芯から引き裂かれるような痛みに襲われて、少女はたまらずに大声で叫びながら地面に倒れ込む。殺虫剤を撒かれて死にかけた虫のように手足をピクピクさせた。
「フォース・ライトニング……ギアの高速回転により生じた電気を、攻撃へと転嫁した技……こんな器用な芸当、こっちの私には出来ないでしょうね」
サヤカが自身の放った技について得意げに語る。それはゼノ・グレイブが独自に習得した、電流を自在に操る術に他ならなかった。
「ううっ……」
ミサキが地べたに寝転がったまま、全身をぐったりさせる。気力で起き上がろうとしても、手足が言う事を聞かない。首から下の器官が全く動かせず、まな板に寝かされて調理を待つ魚のようになってしまった。
「ウフフ……お姉さんがたっぷり可愛がってあげる」
動けなくなった少女を眺めながら、サヤカがペロリと舌なめずりした。獲物を狙う蛇のように目がギラギラしている。良からぬ企みをしている事は火を見るより明らかだった。
サヤカは仰向けに横たわったミサキの元まで来ると、その場にしゃがんで相手の顔を覗き込む。
「可愛い……食べちゃいたくなるくらい」
艶っぽい表情を浮かべて、うるんだ瞳でじっと見つめていたが、やがて顔を近付けて唇にキスをした。
「んんんっ……!」
ミサキは唇を奪われた事に内心深く困惑したが、何の抵抗も出来ず、相手のなすがままにさせる。相手の舌が口の中に入ってきても、それを噛みちぎる力すら残っていない。ただ吐息を出すので精一杯だったが、それが却って相手の情欲を掻き立てて、舌の動きがエスカレートする。
ミサキは悔しくてたまらなかった。長い戦いの人生の中で、男に敗れて犯された事など一度も無いというのに、事もあろうに女に犯されようとしているのだ。しかも貴重な乙女のファーストキッスまで奪われた。彼女にとってこれ以上の屈辱が、果たしてあっただろうか。
少女は貞操の危機にありながら何も出来ない自分の無力さに腹が立った。怒りと悔しさのあまり、目から大粒の涙が溢れ出す。
ミサキがすすり泣きしても、サヤカは行為をやめようとはしない。キスするのにも飽きたのか、触れ合っていた唇を離すと、少女の頬に流れた涙の雫を、舌でペロッと舐める。涙に含まれる塩分がおいしかったのか、猫のように頬を何度も舐め回す。完全に少女を自分の所有物にしてしまったかのようだ。
今度は少女の胸元から臍までのラインを人差し指でつーーっとなぞると、股間に手を伸ばそうとする。
「や、やめっ……!」
ミサキが思わず声に出して嫌がる。顔は恐怖で引きつっていて、親に叱られた子供のように怯えている。
明らかにレズっ気のある女が、かよわき乙女の秘所に何をしようというのか、考えただけで体の震えが止まらなくなる。
「ウフフ……やめる訳無いでしょ。アンタをたっぷりと辱めて、戦士のプライドをズタズタに引き裂いて、私に逆らった事を後悔させてやるのよ」
むろんサヤカが少女の懇願を聞き入れるはずが無く、冷酷な言葉を突き付ける。
ねっとりした笑みを浮かべた女が、少女の股間をレオタード越しにいやらしい手付きでまさぐろうとした瞬間……。
「そこまでよっ!」
二人の背後から、行為を止めようとする声が発せられた。
サヤカが慌てて立ち上がって後ろを振り返ると、殴られて地面に倒れていたはずのゆりかが、槍を両手に握って構えたまま、二本の足でしっかりと大地に立っていた。癒しの力によって治したのか、痛みが残っている様子は無い。
さやかとアミカも治療を受けたらしく、少し離れた場所から彼女たちを見ている。
「このスケベゴリラッ! それ以上ミサキを辱める事は許さないッ! ここから先は、私が全力で相手させてもらうわ! たった一度策を破った程度で、勝ったつもりにならないでッ!」
変態的な行為を罵りながら、敵意に満ちた瞳で相手を睨み付けた。大切な仲間を性的に貶めようとした事を、心の底から許せないと思う正義の怒りが、言葉の節々から滲み出ていた。
「ぺっ! せっかくのお楽しみを邪魔するなんて、無粋なマネするわね……」
サヤカが腹立たしげに、唾を吐き捨てながら言い放つ。横槍を入れられて興が冷めた事にかなり苛立った様子で、面倒臭そうに頭を左手でボリボリと掻き毟った。
「良いわ……だったら相手してあげる。望み通り、アンタから地獄に落ちなさいッ!」
鬱憤を晴らそうとするように、死を宣告する言葉を突き付けた。




