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装甲少女エア・グレイブ  作者: 大月秋野
第一部 「序」
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第13話 ヒーローの復活(中編-1)

 愛娘ルミナを失った悲しみに耐え切れず、精神のおりに引きこもったさやか……。

 暗闇の中でひざを抱えたまま座り込んでいると、何者かが声を掛けてくる。


「お前はもう戦わないのか……?」


 それはアームド・ギアに搭載された人工知能と思しき者の声だった。

 その問いかけに、さやかは答えようとしない。


「欲する力を二度までも与えたというのに……一体何が足りないというのだ?」


 なおも不満げに問いかける声に、彼女は今度は少しだけ顔を起こして答える。


「力なんて、もういらない……」


 ……その目にうっすらと涙を浮かべている。


「力なんかいくらあったって、大切なものを守れなかったっ! こんな思いをしてまで戦いたくなんてないっ! もう泣いたり傷付いたり悲しんだり、ツライ気持ちになるのは嫌なのっ! 戦っても大切なものを守れないなら、戦う意味なんてないっ! だから私、もう戦わないっ!」


 さやかは目から大粒の涙を溢れさせながら、胸の内にこみ上げた悲しみをぶちまけるように大声で叫んだ。


「そうか……ならば好きにするが良い」


 その言葉を聞いて、しぶしぶ説得を諦めたかのように声が遠ざかる。


「お前も……ヒーローにはなれなかったか……」


 彼女に聞こえるか聞こえないかぐらいの小さな声で、アームド・ギアがそう口にした。その声には、失望と未練が入り混じったような複雑な感情が篭っていた。それでも今はただ引き下がる事しか出来なかった。




 ……静寂が訪れると、さやかは再び顔を伏せてその場にうずくまった。目を閉じると、ルミナとの楽しかった思い出ばかりが脳裏を駆け巡る。ママ……ママ……と自分を呼ぶ声が脳内再生されるたびに、胸の中が寂しさでいっぱいになる。


「……ルミナに会いたい」


 さやかがふいにそう口にした。

 すると、彼女の前に広がる暗闇の中に、突如として大きな光が現れた。最初はあやふやな形をしていたその光は、やがて一人の少女の姿へと変わっていく。


「……ルミナっ!」


 その少女は、さやかが誰よりも会いたいと願った、死んだはずのルミナだった。


「ルミナぁっ! 会いたかったよぉっ! 生きてて良かったっ! うわぁぁあああんっ!」


 さやかはすぐさまルミナを抱きしめると、ボロボロと大粒の涙を流しながら嬉しそうに泣き叫んだ。

 死んだと思っていた娘に会えたのが、よほど嬉しかったのだろう。もはや人生で他に欲しい物など何も無いと言わんばかりの勢いだった。

 ルミナはそんな彼女に抱かれてはにかみつつ、少し申し訳なさそうな顔をした。


「ママ……ごめん。わたし、しんじゃった。ユウレイになっちゃったみたい……」


 悲しい現実を口にする。やはり彼女が死んだという事実に変わりは無いのだ。現実世界で体を失った以上、さやかが彼女と会えるのはこの精神世界の中だけなのだろう。

 それでもさやかは、なおも嬉しそうにルミナを抱きしめる。


「もう幽霊でも何でもいいっ! こうして会えただけで、十分嬉しいよっ! 私、もうここから出ないっ! ずっとここでルミナと一緒に暮らすのっ!」


 そう言ってルミナをしっかりと抱きしめて離さない。完全にこの閉ざされた世界に引き篭るつもりでいた。

 彼女に抱きしめられて、ルミナもしばらく幸せそうに微笑んでいたが、やがて真剣な眼差しになる。


「ママ……うれしい。でも、ママずっとここにいちゃダメ」


 そう言って暗闇を指差すと、何か映像のようなものが映し出される。それはエア・ナイトに変身したゆりかが、二体のメタルノイド相手に苦戦している姿だった。

 彼女は息が合った敵の連携攻撃に追い詰められていて、散々に痛めつけられている。このまま何の助けも入らなければ、なぶり殺しにされてしまいそうな勢いだった。

 それはもはや戦いなどと呼べる代物ではなく、一方的なリンチ……あるいは公開処刑と呼ぶに等しかった。


 友達が殺されそうになっている光景を見せつけられて、さやかの胸が一瞬ザワつく。


「ママのともだち、いまひとりでたたかってる。ねむってるママのために、ひっしにがんばってる。ママ……おねがい、たすけにいってあげて」


 ルミナの言葉に、さやかはにわかに表情を曇らせる。


「でも私……ルミナを幸せにできなかった。こんな私に戦う資格なんて、無いよ……」


 そう言って落ち込んだように顔をうつむかせる。


 彼女自身、友達を助けに行きたい気持ちが無い訳ではない。それでも今は深い挫折を味わい、自信を失った気持ちの方が大きかった。

 それほどまでにルミナの死は彼女の心に暗い影を落とし込んだのだ。本来ならば、二度と立ち直れないほどに……。


「ルミナがばくだんってしっても、ママはかぞくといってくれた。わたし、うれしかった。わたし、とってもしあわせだよ……ママがしあわせにしてくれたの」


 ルミナは自信を無くして落ち込んでいる彼女を、優しく抱きしめながらそう言い聞かせた。ママに愛された事への喜びに満ち溢れた、とても穏やかで幸せそうな笑顔を浮かべながら……。


「ルミナ……」


 ……少女の優しい言葉に、どれだけ心を救われた事か。さやかはたまらない気持ちで胸がいっぱいになる。それは胸にポッカリ空いた大きな穴が急速に塞がっていくような、心が満たされた感覚だった。


「ううっ……ルミナ……ルミナぁっ! うわぁぁあああんっ!」


 ルミナをしっかり抱きしめたまま、嬉しそうにわんわんと大声で泣きわめく。

 愛する娘を幸せに出来たという実感は、これまで彼女が心の奥底に抱えていた苦悩を取り除かせ、失った自信を大いに取り戻させた事だろう。


 ルミナは泣きじゃくるさやかの頭を優しくでながら言い聞かせる。


「わたし、ずっとママのなかにいる……あいたいとおもえば、いつでもあえるよ。だからママ、たたかって。ヒーローになって、ママのともだちをたすけてあげて」


 その言葉に、さやかは涙で濡れた顔を何回も袖で拭うと、満面の笑みで答えた。


「うん……私、ヒーローになって戦ってくるっ!」




 ……目を覚ました時、さやかは病院のベッドの上にいた。

 周囲はメタルノイド出現の報に、にわかに慌ただしくなっている。


「私……もうくじけたりしない」


 さやかは病院の放送を聞いて敵が出現した場所を確かめると、決意を固めた表情で病室を飛び出していった。




 その頃港のコンテナ置き場で戦っていたゆりかは、敵の連携攻撃に追いつめられて、体のあちこちに深い傷を負っていた。


「ぐうぅっ……」


 苦しげな声が口から漏れ出す。傷口からは真っ赤な鮮血を滴らせ、足元には血溜まりが出来上がる。息遣いはハァハァと乱れて荒くなり、足には力が入らず、頼り無さげによろめいている。槍の柄を支えにしなければ、立っていられないような状態だった。


 そんな満身創痍の彼女を前にして、二人は既に勝った気でいる。


『フフフッ……そろそろ限界のようだな? 二対二ならまだ勝機もあっただろうが、我ら兄弟を一人で相手にするなど自殺行為に等しい。貴様の敗北は、戦いが始まる前から決まっていたのだよっ! ハハハハハハァッ!!』


 ファイザードがそう言って余裕の高笑いをする。

 確かにはたから見ても、ゆりかに勝機があるようにはとても見えない。このまま何の手も打てずにやられてしまうのではないか、と判断できる材料の方が多かった。

 それでも彼女の目は闘志を失ってはいない。


「始まる前から決まってたって? フフフッ……笑わせてくれるじゃない」


 そう言って、口元に不敵な笑みすら浮かべている。


「先に言っておくわ。アナタ達を倒すのなんて……私一人で十分よっ!」


 その時、彼女の目がクワッと大きく見開かれた。


 ……それは決してヤケクソから出た言葉ではない。彼女の目には、己の勝利を信じる光が確かに宿っていた。

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