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装甲少女エア・グレイブ  作者: 大月秋野
第四部 「Q」
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第147話 その村は危険だっ!(後編)

「さて……と」


 さやかは冷静に思い直したように、敵のいる方角へと振り返る。


「フリードマンとやら……地獄だかあんこ喰う騎士だか知らないけど、よくも散々好き勝手してくれたわね。さすがにもう手札は残ってないでしょ……だったら、今からアンタをブチのめさせてもらうわ。何の罪もない村人を手にかけた事、あの世でとくと反省なさい」


 これまで受けた仕打ちに対する恨み節を口にすると、いじめられっ子を殴ろうとするガキ大将のように、両手の拳をゴキゴキと鳴らす。相手の技を全て破った今、彼女に恐れるものなど何も無い。


「……薬物注入ドーピングッ!!」


 背中のバックパックから小型の注射器を取り出すと、迷わず自分の首に突き刺す。中の液体が体内へと注がれると、全身の血管がドクンドクンと激しく脈打つ。体中の皮膚が火照って真っ赤になり、筋肉がムキムキに膨れ上がる。


最終ファイナルギア……解放ディスチャージッ!!」


 全能力三倍モードになると間髪入れずに必殺技を放つ前準備に入る。

 右腕に内蔵されたギアが高速で回りだし、凄まじい速さでエネルギーが溜まっていく。やがて力が完全に溜まり切ると、少女はすぐに敵に向かって走り出した。


『ふざけるな……ふざけるなッ! この脳みそまで筋肉が詰まったファッキンメスゴリラがッ! 全ての策をつぶしたからといっていきがるなよッ! バロウズの中佐までのぼり詰めた私の意地と誇りに賭けても、貴様のはらわたを引きずり出してやるッ!!』


 フリードマンが怒りの言葉を早口でまくし立てる。何としても少女に屈するまいとする男の覚悟が浮かぶ。ひとしきり罵詈雑言をわめき散らすと、左腰のさやしてあったサーベルを抜いて斬りかかった。


『死ねぇぇぇぇぇえええええええええっっ!!』


 よどみ無き殺意に満ちた言葉と共に、巨大な剣が少女に向かって振り下ろされる。


「でぇぇぇぇやぁぁぁぁあああああああああっ!!」


 さやかは負けじと勇ましい雄叫びを発しながら右脚に力を溜め込むと、一気に振り抜いて豪快な回し蹴りを放つ。少女の足先は刃の中心を正確に狙い撃って、寺のかねを叩いたような重い金属音が鳴り響く。


『……グッ!!』


 フリードマンが思わず顔をゆがませる。右手にビリビリとしびれたような振動が伝わり、握っていた剣を思わず手放してしまう。強烈な破壊力で押し出された剣は、高速で錐揉きりもみ回転しながら遥か空へと飛んでいく。

 男は武器をくした事に「しまった」と思いながら慌てて退こうとしたものの、そうするひまは与えられない。


「……トライオメガ・ストライクッ!!」


 さやかが技名を叫びながら、男の腹へと全力の拳を叩き込んだ。


『グワァァァァァアアアアアアアアアアアッッ!!』


 鉄の巨体が悲鳴を上げながら弾き飛ばされる。強い衝撃で地面に激突すると、そのまま何十メートルも引きずられて豪快に大地をえぐり上げた。


 男は体が半分めり込んだまま、仰向けに地面に倒れている。殴られた箇所の装甲は内側に大きくへこみ、そこから生じた亀裂が全身の至る所へとあみ目のように広がっている。すでにビシビシと何かが砕けたような音が鳴り、体の崩壊が始まっている。


『まだだ……まだ終わら……ッ!!』


 それでも力を振り絞って立ち上がろうとするフリードマンだったが、そこに先ほど打ち上げられたサーベルが落下してきて、剣先が彼の腹へと深く突き刺さる。

 その一撃が致命傷となり、男は観念して力尽きたようにグッタリした。


『マ……マサカ、コンナ死ニ方ヲ スルトハ……ダガ、コレデ勝ッタト思ウナ……マダカゲノリーダーガ残ッテイル……ヤツノ名ハ、ミスター……エック……ス……ズズウウゥゥッッ!!』


 無念そうに小声でつぶやくと、自分の背後にいるらしき男の名を口にして息絶える。その直後木っ端微塵に爆発して、跡形もなく吹き飛んだ。


 ……後には彼を貫いて地面に突き刺さったサーベルだけが、墓標のように残されていた。


「……アンタにはお似合いの末路よ」


 自分の剣にとどめを刺された男の死に様を眺めながら、さやかが冷たく言い放つ。彼女にしてみればまさに天罰が下ったという思いがして、溜飲が下がった。


「……ッ!!」


 次の瞬間、少女は思わず絶句した。他の仲間たちもポカンと口を開ける。


 ふと村の中を見回すと、多数の村人が一箇所に集まって、立ったまま彼女たちの方を見ていたのだ。ゾンビのようなボロボロの姿になっておらず、穏やかな笑みを浮かべて少女たちを見ている。だがその体は今にも消え入りそうにうっすらと透けていて、幽霊だという事は一目瞭然だった。


 幽霊の存在を否定するのは簡単だ。まやかしを見せられていない保証も無かった。だがそれでも、彼らは間違いなく『そこ』にいたのだ。少なくともさやかは、彼らを本物の幽霊だと解釈した。


(……ありがとう)


 村人のうち一人がそう小声でささやくと、満足したように天へと昇っていく。他の者たちも後に続くように天に昇る。やがてその場にいた全ての村人が成仏した。


「ああ……そうだったんだ」


 村人の最後の言葉を聞いて、さやかはようやく確信する。


「あの人たちはずっと……おばあちゃんに会ってからずっと、私たちを見守って……助けてくれてたんだ。毒を飲まされそうになった時も、肉団子に苦戦した時も、助言して……何度も助けてくれた。もしそれが無かったら、私たちは今頃とっくにやられてたよ……」


 さやかの頭の中に響いた謎の声……これまで幾度か力を貸してくれた者の正体が、殺された村人の霊だったと知る。彼らが自分たちを心配して助けてくれていたのだと実感し、胸の奥から熱いものがこみ上げて、じんわりと目に涙が浮かぶ。


「こっちこそ、ありがとうだよ……敵を倒せたの、貴方たちのおかげだもん……私、貴方たちの事忘れないよ……グスッ……一生ずっと忘れないから……だからせめて、安らかに眠ってね……ううっ……うっ……うわぁぁぁぁああああああん……」


 感謝の言葉を口にして村人の冥福を祈ると、こらえきれず瞳から大粒の涙が溢れ出す。崩れ落ちるように地面に両ひざをつくと、そのまま子供のようにわんわん声に出して泣き続けた。


「……」


 彼女の話を聞いて他の仲間たちも状況を理解し、沈痛な面持ちになる。目を閉じて村人に深く感謝すると、少女を慰めようと周りに集まり、頭や肩を手で優しく撫でる。ゆりかは少女を包み込むように両手でそっと抱き締めた。


「おお……魂が天へとかえっていく。ようやく……ようやく終わったんじゃな」


 一行が悲しみと感謝の念を抱いていた時、さやか達に忠告をうながした老婆がひょっこりと姿を現す。


「お前さん達が無事かどうか気になって、後を追ったんじゃよ。そしたら爆発音が聞こえてな。そうか……ついにヤツを倒しなさったんじゃな。これで村の皆の魂も浮かばれる……ありがたい事じゃ」


 さやか達を追ってここまで来た事を告げると、村を滅ぼした怪物が倒された事、それにより村人の魂が成仏した事を察する。化け物を倒して同胞の仇を取ってくれた少女たちに感謝するように何度も手を合わせて拝んだ。


「おばあちゃん、これからどうするの?」


 さやかは涙をいて立ち上がると、今後について問う。


「死体をこのまま野ざらしには出来ん……アタシは墓を作って、みんなをとむらう事にするよ。どれだけ手間が掛かってもな……それが終わったら、何処かよその村にでも行くとするかのう」


 老婆はこれから自分がやろうとする事を伝える。


「私たちも手伝うわっ! ここの人たちにはいろいろと助けてもらったから、そのくらいのお礼はしなくっちゃ! 私たちみんなでやれば、きっとすぐ終わる仕事よ! だからおばあちゃん、安心してっ!」


 さやかは右腕に力こぶを作りながら、屈託の無い笑顔を浮かべて言う。他の仲間もニッコリしながら賛同するようにうなずく。みな村人の亡骸を弔う事に乗り気だった。


「おお……ありがたい、ありがたいのう」


 老婆はまたも感謝して深く頭を下げた。


 一行は数日掛かって村人全員の墓を立てて亡骸を埋葬し、それが終わると老婆を近隣の村へと車で送り届ける。そして本州に残る最後の敵を倒すべく旅立つのだった。


 もう二度と同じ悲劇を繰り返してはならないと、強い決意を胸に抱きながら……。

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