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装甲少女エア・グレイブ  作者: 大月秋野
第四部 「Q」
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第108話 そして少女は団子を喉(のど)に詰まらす

 バロウズの量産型ロボと戦う男の一団を救ったさやか達は、彼らの村へと案内される。装甲少女のウワサはバリアの外にも知れ渡っており、村に着いた途端彼女たちは英雄扱いされるのだった。

 さやか達はその事に困惑しつつも、村が絶滅の危機にひんしている事を知らされ、詳しい話を聞くために村長の屋敷に向かう事となった。


 英雄を見るために集まった群集は解散したものの、それでも村の子供たちが数人付いてきていた。


 やがて一行は農道の突き当たりにある一軒家へと辿たどり着く。そこは木造二階建ての藁葺わらぶき屋根だった。周囲の雑草は丁寧に駆られていたためかろうじて人が住んでいる事は分かるものの、壁は色あせていて、見るからに年季が入っている。縁側の障子しょうじは開けっ放しになっており、虫や猫が自由に出入り出来るように見える。


「ここが私の屋敷ですじゃ……」


 村長はそう言うと、玄関の引き戸をガラガラと開けて中に入る。


「お邪魔しまーーす」


 さやか達は一言挨拶あいさつして頭を下げると、靴を脱いで屋敷に上がる。廊下の床板は踏むたびにギシギシと音が鳴る。体重150kgを超す力士が歩いたら、踏み抜いてしまいそうだ。


 一行は村長に連れられて、床一面にたたみを敷いた居間へと案内される。部屋は旅館の客室くらいの広さで、中央には円形のちゃぶ台が置かれている。


「なにぶん都会育ちのお嬢様がたには、不慣れなボロ小屋ですが……」


 居間まで来ると、村長は自虐する言葉を吐きながら、申し訳無さそうな顔をする。彼は学生服を着たピチピチの女子高生を前にして、田舎の風景は彼女たちにはさぞかし退屈だろうという思いに駆られ、急に謝りたくなったのだ。

 ゆりかがカエルにおびえた事も、その気持ちを一段と強くさせた。


「い……いえいえっ! 全然そんな事無いですっ! むしろとっても素敵な場所ですよっ!」


 さやかは冷や汗をかきながら、慌てて村長の言葉を否定する。余計な気を遣わせたようで、何だか悪い事をした気になった。


「そう言って頂けると、助かるのう……何も無い部屋ですが、ゆっくりくつろいで下され。今お茶と菓子を持ってきますでのう」


 村長は嬉しそうにニコッと笑うと、人数分の座布団を敷いてから、早足で台所へと向かう。外では杖をついて歩いたが、家の中では杖無しで歩いていた。杖は田舎の悪路に対する転倒防止のために使っていたようだ。


「はぁーーどっこいしょっと」


 さやかは中年の親父みたいな言葉を吐くと、だらしなく畳に横たわる。リラックスしたように全身をだらーーんとさせると、畳の感触を味わおうとするようにゴロゴロと寝転がる。時折スカートの中身が見えそうになるが、少女は気にも留めない。

 彼女は村に来てからの出来事で、精神的疲れが溜まったのだ。いっそこのまま畳に埋もれて安らかに眠りたいとさえ考えた。


「まったくもう、さやかったら……」


 だらけた友の姿を見て、ゆりかが呆れ顔になる。

 ミサキ、アミカ、ゼル博士は思わず苦笑いする。

 さやか以外の四人は、先にちゃぶ台をかこんだ座布団へと座る。


 しばらくすると、台所の方からおぼんを手にした村長が歩いてくる。盆の上にはお茶と、くしに刺さった緑色の団子だんごが皿の上に乗っている。


「村でれた葉っぱで作った、お茶と団子じゃ……口に合うかどうか分からんが、良かったら召し上がって下され」


 村長はそう言うと、ちゃぶ台を囲んで座るゆりか達に、お茶と菓子を配る。そして自分も座布団を敷いて、博士の隣に座った。

 さやかはえさに反応する猫のように飛び起きると、すぐさまゆりかの隣に座る。


 彼女たちの中で、真っ先にミサキが団子に手を付けた。


「ではお言葉に甘えて頂くとしよう……ムムッ! 毒は入っていないようだッ! そして……うまいッ! 何といううまさだッ! この世のものと思えない絶品ッ! 草の風味と砂糖の甘みが、絶妙なハーモニーを奏でる……ほっぺたが落ちそうになるうまさッ!!」


 口の中に運ぶや否や、味の素晴らしさをたたえる。あまりのうまさに感動したのか、目をキラキラ輝かせていた。まるで食レポが始まったかのようだ。もしレビューサイトがあったら、彼女は迷わず星を五つ付けただろう。


「えっ、そんなにおいしいの!? よーーし、私も食べちゃうぞーーっ! ほむっ、ほむほむっ……うまっ! うまっうまっ……んっ! ぐっ……ぐるじい……」


 ミサキがうまそうに食べるのを見て興味を示し、さやかも団子に食らいつく。味に舌鼓したつづみを打つと、欲望にあらがえずに次から次へと団子を口に運び、危うくのどを詰まらせそうになった。


「さやかさん、しっかりして下さいっ! 水ならここにあります!」


 心配になったアミカが、慌ててコップに入った水を差し出す。

 さやかは水をゴクゴクと飲み干して団子を流し込むと、苦しみから解放された喜びで、フゥーーッと一息つく。


「き……気に入ってもらえたようで、何よりじゃのう」


 一連の光景を眺めて、村長が思わず苦笑いした。

 団子の味を気に入られた事を喜びつつも、あまりの食い付きの良さに、若干引いていた。彼の中にあった都会育ちの美人女子高生というイメージは、『残念な美人』へと変わりつつあった。


「あ……どうか彼女たちの事は気にしないで、話を進めちゃって下さい」


 引き気味の村長に、ゆりかが気持ちは分かると言いたげに、話を前に進めるようにうながす。せめて自分とアミカと博士だけはまともであらねばなるまいと、内心決意を固くした。


「そうですな……では話すとしましょう。村を襲う危機について……」


 サッと気持ちを切り替えたように、村長の表情が真剣になる。目付きは鋭くなり、眉間にはしわが寄り、一刻の猶予ゆうよも無いのだという緊迫感が伝わる。

 さやかとミサキも遊んでいる場合ではないと場の空気を読んで、団子を食べるのをやめて彼の話に聞き入る。


「少し長くなるが、聞いて下され……」



 バロウズがこの星に来たのは十年前……だがその時すぐに村が襲われた訳では無かった。連中も、こんな辺鄙へんぴな田舎を奪ってもしょうがないと思っとったのじゃろう。大都市への交通もうは断たれたものの、我々は自給自足を行い、それなりに平和な日々を送っとったんじゃ。


 ……じゃがその平和は、半年前に突如破られたッ!


 ヤツらは村から数キロ離れた場所に、量産型ロボを作る工場を建ておった!

 貴方がたが先ほど倒した、ブラックフライとかいう無人ヘリ……そして犬や蚊のロボット……それらを作る工場じゃよッ!


 ヤツらはロボットを作るのに人手が足りないと抜かして、村の若い大人を数十人さらっていきおったッ! しかもそれだけでは飽き足らずに、ロボットを量産すると、今度は性能テストと称して、ロボット共に村を襲わせたのじゃッ!


 ヤツらの襲撃によって、どれだけ多くの命が失われた事か……むろんワシらも、ただ黙ってやられた訳じゃない。必死に抵抗しようとした。したんじゃ……。



「今はかろうじて持ちこたえておる……だが襲撃がこの先何度も続けば、村は疲弊ひへいし、いずれは滅びるじゃろう」


 力なく言葉を終えると、村長はガックリと肩を落とす。そして悲しげな表情を浮かべたまま、顔をうつむかせた。話の途中では怒りをこらえ切れずに目を血走らせて、ギリギリと音を立てて歯ぎしりしたが、最後は失意に打ちのめされたようにショボくれていた。


「……」


 村の実情を知らされて、さやか達は思わず沈黙する。

 村が危機にひんしていると聞いても、これまではのどかで平和な場所という印象が心の何処かにあった。だが事態は予想以上に深刻なのだと知り、そんなイメージは一瞬で吹き飛んでしまった。


「……村長っ! 任せて下さいっ! 私たちが、さらわれた人たちを必ず連れ戻して、基地を作った連中をブチのめしてみせますっ!」


 さやかが真剣な表情を浮かべたまま立ち上がる。その瞳は熱い闘志で燃え上がり、何としても村を救うのだという気迫に満ちている。村の人たちを不憫ふびんに感じたあまり、自分がどうにかしなければならない思いに駆られた。

 それと同時に彼らを苦しめるバロウズを許せない怒りが湧き上がり、今すぐにでも敵と戦いたそうに拳をギリギリと握り締める。


 ミサキ、アミカ、ゼル博士も少女の言葉に同意するようにうなずく。


「でも村長さん……さらわれたっていう割に、村には結構人がいたみたいですけど……」


 ゆりかが素朴な疑問を口にする。確かに彼女が指摘した通り、一行が来た時には村にたくさん人がいた。それは滅びかけた村というイメージとかけ離れた、活気に満ちたものだった。


「彼らは村の若い衆がさらわれた後、よその村から流れてきた連中じゃ。近隣の村は、ことごとくメタルノイドに滅ぼされたと聞いておる。それで皆ここに集まってきたのじゃ。今まで攻撃対象とならなかった辺鄙へんぴな村が、皮肉にも人類最後のとりでとなってしまった……もしここが落とされれば、もうおしまいじゃ……」


 ゆりかの疑問に村長が答える。明かされたのは、村が実質的な避難民の受け入れ先になっている現状だった。

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