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装甲少女エア・グレイブ  作者: 大月秋野
第四部 「Q」
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第107話 虐げられた者たち、そして○エル

 バリアの外に旅立ったさやか達一行は、バロウズの無人機と交戦する男の一団に遭遇する。無敵の装甲を誇る攻撃ヘリ『ブラックフライ』が男たちを抹殺しようとした時、繁みから飛び出したさやかがヘリを一撃で粉砕して、彼らの命を救うのだった。


「アンタらの事はウワサに聞いている……まさかこんな所で会うとは思わなかった。ブラックフライを倒してくれた事、心から礼を言いたい。もしアンタ達が来てくれなかったら、俺たちは今頃トマトケチャップになっていただろう……」


 彼らのリーダーと思しき男が前に出る。命を救われた事を深く感謝すると、深々と頭を下げた。他の者たちも、彼に続くように次々に頭を下げる。そして口々に「ありがとう、ありがとう」と感謝の言葉を述べた。


「ここから数キロ南に行った所に村がある。俺たちはそこから来たんだ。もし良かったら、アンタらも来てくれ」


 リーダー格の男はそう口にすると、何処かに向かって歩きだす。他の者たちもそれに続く。

 さやか達は変身を解除して学生服に戻ると、彼らの後に付いていく事にした。キャンピングカーは敵に見つからないよう、断熱布を被せて森の中に隠してあった。


  ◇    ◇    ◇


 男たちの後に付いて三十分ほど歩くと、やがて村を囲むへいのようなものが見えてくる。木の板と土砂をかき集めて作った、その場しのぎのバリケード……それが村一帯を取り囲むように円状に建てられていた。


 唯一の入口らしき門を通っていくと、その向こうには集落が広がっていた。

 家屋はまばらに存在し、その周囲には森や畑が広がっている。車が通るための道路はあったものの、十年間舗装ほそうされていないためか、所々ボロボロに傷んでいる。

 家屋も木造や藁葺わらぶきが多く、ニワトリを飼育する小屋や水をむ井戸などがあり、田舎の風情を漂わせる。


 いかにも限界集落と呼ぶに相応しい村だったが、付近からメタルノイドの襲撃を逃れた人々が集まってきたのか、家屋のまばらさに反して多くの人影がいた。事情を知らなければ、この後に祭りでも行われるのかと錯覚するほどだ。家屋だけでは寝泊りする場所が足りないのか、テントもいくつか設けられていた。


「みんなぁっ! ついに来たぞっ! 伝説の少女が……我らの救世主がっ!」


 一行の先頭を歩いた男は、村に入るや否や、大声でそう叫びながら村中を駆け回る。彼の言葉に反応して、家の外にいた住人全員が一斉にさやか達の方へと振り向く。ある者は驚き、ある者は歓喜して、村がにわかにざわついた。


「あれがウワサに聞く……」

「本当なのか? 見た目はただの可愛い女子高生だが……」

「ブラックフライを一撃で倒したらしいぞ」

「アタシもあと二十歳若けりゃ、今頃は……」

「せがれの嫁に欲しいのう」


 村人たちは遠巻きに眺めながら、思い思いの言葉を口にする。未知の存在に対して興味を抱いたあまり、好奇心に目を輝かせていた。携帯やカメラを使って、彼女たちの姿を写真に収めている者もいた。まるで芸能人が村に訪れたようなはしゃぎっぷりだ。

 さやか達は恥ずかしそうに苦笑いしながらも、あえて彼らの好きにさせる。


 そんな混沌とした状況がしばらく続いた後、湧き上がった群集の中から、一人の老人が歩み出る。年齢は六十歳から七十歳に見え、頭頂部は禿げ上がっていて、背は低い。足腰が悪いのか、杖を使って歩行している。


「私が村長ですじゃ……アナタ方のウワサは、かねてから耳にしておった。よくぞ……よくぞ、この村に来てくださった。今この村は、絶滅の危機にひんしている……もはやアナタ方にすがるより他に、ワシらが生き延びる道は無いのじゃ。おお伝説の少女よ……救世主よ。どうか……どうかこの村を、ヤツらの魔の手から、お救いくだされ……」


 そう口にすると、さやか達の前にゆっくりとひざまずく。


「救世主よ……」

「勇者よ……我らをお救い下さい」


 彼の後に続くように、他の者たちも次々に跪く。やがて全ての村人が、偉大なる神か英雄を心から崇拝するかのように、彼女たちの前にひれ伏した。手を合わせて呪文のような言葉を唱えながら、文字通り神に祈りを捧げている者もいる。


「ちょ、ちょっと!」


 村人の態度の変わりように、さやかが声に出して慌てる。


「どんなウワサを耳にしたか知らないけど、私たち伝説とか勇者とか救世主とか、そんな大げさなモノじゃないからっ! そりゃメタルノイドはやっつけるし、あなた達の事も助けるけど……でも、お願いだから顔を上げてっ!」


 謙遜けんそんする言葉を吐くと、村人たちにひれ伏すのをやめるように懇願こんがんする。まるでファンタジーに出てくる大魔王と戦う勇者を迎えるような村人の態度に、内心酷く困惑した。英雄扱いされる事を心の何処かで嬉しく思う気持ちもあったが、それでも少女からすれば、彼らの行動はやり過ぎに思えたのだ。


 だがさやかがいくら必死に頼んでも、村人たちはやめようとしない。彼らからすれば、大げさでも何でもなく、少女は自分たちを救ってくれる英雄だった。東方の魔王たるバエルに支配され、絶望と恐怖に呑まれた悲しき暗黒世界に唯一差した、生きる希望の光だったのだ。


「それより村長……私たちに村を救って欲しいのだろう? であれば、村を襲う危機とやらについて、詳しく話してくれないか?」


 さやかとは対照的に落ち着いた様子のミサキが、状況を前に進めようと、冷静に問いかける。


「そうですな……立ち話も何なので、私の屋敷に案内しましょう。付いてきなされ」


 村長はそう口にするとすぐに立ち上がり、杖をつきながら、村の奥の方へとゆっくり歩きだす。さやか達五人も、大人しく彼の後に付いていく。

 英雄を見るために集まった群集は、ぞろぞろと彼女たちの後に付いていこうとする。


「……これっ! 皆もいつまでもこんな所におらんで、そろそろ仕事に戻らんかっ! 彼女たちは見せ物ではないぞっ! 崩れた塀の修理とか、食料の調達とか、やる事はまだいくらでも残っておるじゃろう!」


 村長は後ろを振り返って群集を見回すと、強い口調で叱り付ける。村人たちはもっと彼女を見ていたかったと口々に不満を漏らしながらも、仕方無さそうにすごすごと引き上げる。それでも数人の子供たちは言う事を聞かずに付いてきたが、村長も彼らを追い返す事はさすがに諦めた。


 農道のはるか彼方に見える、小さな一軒家……村長の屋敷と思しき建物を目指して、一行はただひたすらに歩く。

 さやか達がふと真上を見上げると、雲一つ無い晴れやかな青空が広がる。太陽の日差しがまぶしくて、思わず目をつむりたくなる。周囲の田畑からは虫や鳥の鳴き声が絶え間なく聞こえて、夏の到来が近い事を予感させる。


 いつ来るとも分からないメタルノイドの襲撃におびえる希望無き状況でありながら、視界に広がる田舎の風景は、それを感じさせないほどのどかだった。


「いやぁっ!」


 一行が歩き続けていると、突然ゆりかが情けない声を漏らしながら飛び退く。恐怖で顔を引きつらせながら、すがるようにさやかの腕にしがみ付いた。


「どうしたの? ゆりちゃん。バエルがスカートの中でも覗こうとしてた?」

「あ……あれ……」


 突然の出来事に、さやかが顔をキョトンとさせながら冗談を吐く。

 ゆりかは冗談にツッコむ余裕も無いほど怯えながら、さっき自分が立っていた地面を指差す。

 さやか達が目をやると、そこに一匹のカエルがいた。子供の手のひらに乗るほど小さく、上半分が緑色で、全身がテカテカ光っている。時折クケケケッと声に出して鳴く。


「なぁーーんだぁーーっ、バエルじゃなくてカエルじゃーーんっ。ゆりちゃん、こんなの全然怖くないよ。ほれほれ」


 さやかは拍子抜けしたように言うと、カエルをそっと手のひらに乗せる。そして満面の笑みを浮かべながら、友の前に突き出した。


「ひぃぃっ!」


 苦手なカエルを目の前にデデーンと出されて、ゆりかが顔を青ざめさせる。手足の震えが止まらなくなり、目にはうっすらと涙が浮かぶ。

 典型的な都会っ子でインドア派の彼女は、虫やお化けが苦手であり、同様に爬虫類も苦手だった。それら小さな生き物が徘徊する田舎は、彼女には馴染みの無い場所だったのだ。


「いやぁぁああああっ!」


 少女が大声で叫びながら、本気のビンタを放つ。


「へぶるぅぁぁあああっ!!」


 友の全力の一撃を喰らい、さやかが滑稽こっけいな奇声を漏らす。ベチーーンと叩かれたほほをフグのようにれさせながら、錐揉きりもみ回転して豪快に吹っ飛ぶ。その衝撃で宙を舞ったカエルは、咄嗟に道路に着地すると、慌てて田んぼの方へと逃げ出す。


「さやかのバカぁっ! もう知らないっ! おやつのプリン、絶対分けてあげないっ! 次からポテトチップス買っても、さやかの好きなコンソメパンチじゃなくて、うす塩にするんだからっ!」


 ゆりかは顔を真っ赤にして怒りだすと、大声でわめきながら、早足で農道を歩きだす。


「待ってぇーー、ゆりちゃぁーーん」


 さやかは顔をパンパンに腫れさせたまま、平謝りしながら友の後を追う。はたから見るととても痛そうだが、彼女は全く気にしていない。

 首から上が真っ赤なフグのようになった少女が農道を駆ける光景は、とても異様だった。


「もし本当にバエルがこんな所にいて、我々のスカートの中を覗いたら、ある意味物凄く怖いのだが……!?」


 ミサキは二人のやり取りを眺めながら、恐ろしい想像をしてきもを冷やす。


 アミカは先輩たちの奇行を目にして、ただ苦笑いするしか無い。こんな所にバエルがいる訳ない、とツッコむ気力は湧かなかった。むしろ本人の預かり知らぬ所でネタキャラ化が進行する敵の首領に、同情の念すら抱いた。

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