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装甲少女エア・グレイブ  作者: 大月秋野
第四部 「Q」
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第106話 強襲!量産型ロボ現る

 サンダース率いる西日本侵攻隊を壊滅させたさやか達だったが、バリアの外がいまだバロウズの支配下に置かれている事を知らされる。日本の領土と、そこで暮らす人々の自由を取り戻すため、新たな戦いにおもむくのだった。



 それは彼女たちが旅立って、一週間が経った頃の事……。

 山の中腹にある今は使われていない高速道路に、防刃ベストを着てショットガンで武装した屈強な男が数人いた。うち一人は対戦車ロケット砲RPG―7を手にしている。

 道路の外には広大な森林が広がっており、民家は見当たらない。


 男たちは警戒するように周囲を見回す。ピリピリと張り詰めた空気、真剣な眼差し、全身から漂う殺気は、決して彼らがサバゲーをしていた訳ではなく、命のやり取りをする実戦に備えているであろう事が十二分に読み取れた。


 やがて道路の外にあるしげみの一角がガサッと音を立てて揺れ、そこから漆黒に光る何かがイタチのように飛び出してきた。


「いたぞっ! メタルハウンドだっ! 撃てっ! 撃ち殺せぇぇえええええーーーーーーーーっ!!」


 男のうち一人が大声で叫び、彼の言葉を皮切りに皆が一斉に射撃する。

 繁みから飛び出してきたのは、動物のチーターよりも一回り大きな犬のロボットだった。黒一色に塗られた金属の装甲、引き締まった体格、敵を鋭く睨み付ける眼光は、さながらドーベルマンのようだ。

 四足歩行するそれは人の形を全くしておらず、メタルノイドにはとても見えない。


 人々からメタルハウンドと呼ばれた犬型ロボットは、反復横跳びするように走って、敵の狙いを攪乱しようとする。その動きはかなり俊敏だった。

 やがて弾の一発が右脚の付け根に当たり、金属片が飛び散るものの、痛みを感じる様子は全く無い。


 ロボット犬は銃を持った男の一団へと接近すると、そのうち一人に飛びかかり、地面に押し倒して馬乗りになった。


「グルルルル……グァァアアアッ!!」


 よだれを垂らしてうなり声を発すると、大きく口を開けて、男の首筋に噛み付こうとした。

 だが男は上半身をバタつかせて抵抗すると、咄嗟の判断で犬の口にショットガンの銃口を押し込んだ。


「テメエには鉛玉を喰わせてやるッ! Fuck You(くたばりやがれ)!! このクソ犬がッ!!」


 アクション映画のような台詞セリフを口走りながら、銃の引き金を引く。

 直後ドォォンッ! と山中に響き渡らんばかりの発射音が鳴り、犬の頭部が木っ端微塵に吹き飛んだ。バラバラに千切れた機械の部品が、その死を印象付けるように道路へと散らばる。


「……ッ!!」


 首から上を吹き飛ばされて、ロボット犬は断末魔の悲鳴を上げるひまも与えられず、地面に倒れ込む。そしてそのままピクリとも動かなくなった。


「フゥーーッ……危ない所だったぜ」


 からくも命拾いした男が、安堵の吐息を漏らす。額から流れ出る汗を腕でぬぐうと、犬の死体を蹴り上げながら、ゆっくりと立ち上がった。


「やったな!」


 他の仲間たちが、男の元へと駆け寄る。そして彼が生き延びられた事を心から祝福するように、互いにハイタッチした。

 メタルノイドには核攻撃すら通用しないが、量産型と思しきロボット犬は、通常兵器で十分に対処できる……その事が、彼らに大きな希望を与えた。


 だが彼らの戦勝ムードに水を差すように、ブゥーーンと羽音のようなものが鳴りだす。その直後、犬が現れたのとは真逆の方角にある繁みから、今度は別の何かが飛び出してきた。


「メタルモスキートだっ!」


 男の一人が大声で名を呼ぶ。

 現れたのは全長2mにも及ぶ蚊のロボットだった。人間の大人よりもサイズの大きいそれは、さながらエイリアンのようであり、仮に刺されれば全身の血を一滴残らず吸い尽くされそうな威圧感を漂わせていた。


「一箇所に固まるなっ! 狙い撃ちされるぞっ! 全員バラバラに散って逃げろっ!」


 名を叫んだ男が、他の仲間へと冷静に指示を送る。

 メタルモスキートと呼ばれたそれは、体中に生えている体毛のような針を、目の前にいる一団に向かってマシンガンのように発射する。

 だが彼らは男の指示に従って素早く散開して、相手の攻撃を咄嗟に避けた。


「こっちだ、バケモノ野郎ッ!」


 彼らの中でただ一人RPG―7を持っていた男が、手で招き寄せる仕草をして敵を挑発する。すぐに後ろに振り向くと、一目散に駆け出した。


「ギギギィイイッ!!」


 ロボット蚊が威嚇するようにえる。完全自律型機械でありながら、まるで生物であるかのような挙動を示す。そしてあえて挑発に乗るように、男の後を追った。

 男は全速力で駆けたが、蚊の飛ぶスピードは非常に速く、じわじわと距離が縮まっていく。だがそれが狙いだったのか、彼が浮かべたのは焦りの表情ではなく、思い通りに事が運んだという喜びの笑みだった。


 やがて男は急に立ち止まると、自分に向かって飛んでくる巨大な蚊に、RPG―7の照準を合わせる。


「これでも喰らいやがれぇえええっ!!」


 勇ましい雄叫びと共に引き金を引いて、ロケット弾が発射される。

 弾は相手の胴体に命中し、ロボット蚊の全身が一瞬にして炎に呑まれる。


「ギィィィヤァァァアアアアアッッ!!」


 蚊は化け物のような悲鳴を上げながらジタバタともがき、やがて地面に倒れ伏すと、手足をピクピクさせた後、死んだように動かなくなった。


「ヒャッホウ! ざまあ見やがれ! 俺たち人類の底力を、甘く見るんじゃねえぞ!」


 蚊を仕留めた男が、歓喜の言葉を漏らしながらガッツポーズを決める。とどめを刺すように蚊の頭を踏み潰すと、すぐに他の仲間たちの元へと駆け出す。


「やった!」

「やったな!」

「今夜は祝杯だっ!」


 男を迎え入れながら、皆が喜びの言葉を口にする。敵に一矢をむくいられたという達成感でいっぱいになり、今にも踊りだしたい気分だった。

 だがそうして彼らがはしゃいでいると、今度はヘリコプターのローターが高速で回るような音が鳴りだす。

 男たちが空を見上げると、メタルモスキートよりもさらに大きな何かが、彼らに向かって飛んできていた。


「……ブラックフライだっ!」


 男のうち一人がその名を口にする。表情は青ざめていて、恐怖のあまり手足がガタガタ震えている。彼の反応からは、現れた物体が、今まで戦った敵よりも恐ろしい存在である事を如実に語っていた。


 空からやってきたのは、『AH―64D アパッチ・ロングボウ』に酷似した攻撃ヘリだった。コクピット部分に人は乗っておらず、人類側のヘリを、バロウズが鹵獲ろかくして無人機へと改修した機体らしかった。

 全身黒一色に塗装されていて、尾翼には『B・ARROWS』の文字が刻印されている。


 他の者が恐れおののく中、RPG―7を持った男が前に一歩踏み出す。バックブラストを警戒して後ろに人がいない事を確認すると、次弾を装填そうてんして、攻撃ヘリに照準を合わせた。


「俺たち人間の意地を見せてやるッ! 落ちろッ! このデカトンボがぁぁあああああっ!!」


 大声で叫びながら引き金を指で引いて、ロケット弾を発射する。男の誇りを込めて放たれた砲弾はヘリの胴体に直撃し、かすかにバランスが崩れる。


(やった!)


 その瞬間、男は勝利を確信した。ブラックフライが通常のアパッチと同程度の耐久性なら、これで墜落するはずだった。


 だがブラックフライは一瞬よろめいたものの、すぐに体勢を立て直し、再び男たちに向かって飛行する。砲弾が命中した箇所はわずかに焦げ跡が付いただけで、全く傷付いていない。むろん墜落する様子など全く無い。


「……なんてヤツだ」


 装甲の硬さに、男が思わず戦慄した。自身の想定を遥かに上回る相手の打たれ強さに、あっさりと戦意を喪失し、見る見るうちに恐怖に呑まれてゆく。


 ブラックフライは、ただアパッチを無人機に改修しただけの機体では無かった。その装甲は核の直撃に耐えうるものでは無かったが、原子力空母に匹敵する堅牢さを誇ったのだ。

 明らかに他の二体とは別格の強さに、生身の人間では到底勝ち目が無かった。


「チクショウ……やっぱりダメなのかよ」


 男の一人が声に出して悔しさをにじませる。目をつぶって顔をうつむかせると、血が出るほど強く下唇を噛んだ。


「ああっ……」

「やはり俺たちの力じゃ……」


 他の者たちが、彼に続くように落胆の声を上げる。これまであった祝勝ムードは完全に吹き飛んでいた。攻撃ヘリは既に目前に迫っており、今から逃げても間に合わないという虚無感が、男たちの間に漂う。


 絶望した彼らを嘲笑うように、ブラックフライが機首下に備え付けられた30ミリ機関砲を男たちへと向ける。機械の駆動音が鳴り、砲身が火を噴こうとした瞬間……。


「諦めないでっ!」


 何処からか、そんな言葉が発せられた。

 それとほぼ同時に一人の少女が道路脇から飛び出し、男たちをかばうように攻撃ヘリの前に立ちはだかった。

 青い機械のような装甲をまとった若き少女は、両手のひらを前方にかざして、男たちを包み込むようにドーム状の巨大なバリアを張る。


 直後30ミリ機関砲が爆音と共に火を噴いて、秒間何十発もの弾雨が高速で放たれる。だが弾丸はバリアを貫通する事が出来ず、キンキンという金属音と共に跳ね返って、道路へと散らばった。


「おおっ!」


 男たちが歓喜の言葉を漏らす。悪魔の機銃によって蜂の巣にされる未来を想像しただけに、死を避けられた事に深い喜びの感情が湧き上がる。

 彼らにとって少女は救いの女神だった。自分たちを死の運命から救うために、天がつかわした美しき奇跡か何かのように思えたのだ。


「……」


 攻撃を防がれても、ブラックフライは慌てる様子を全く見せない。一度旋回して反対側に回り込むと、少女たちから一定の距離を保ったまま、射撃を続行する。

 バリアが永久に張れるものではない事を知っていたのか、少女が力を使い果たすまで撃ち続けるつもりのようだ。


「このままじゃ、俺たち……」


 男のうち一人が、不利な状況に追いやられたと感じて焦りだす。一旦は希望に湧き上がった彼らの表情が、見る見るうちに不安の色に染まっていく。ぬか喜びだったか、と落胆してひざをつく者もいた。


 だが少女の表情は希望を失っていない。それどころか勝利を確信したようにニヤリと不敵に笑っている。


「あともう少し……」


 何かを待ち構えているかのように、そう口にした。


 やがて少女がバリアを張ってから数分が経過した頃……。


「……オメガ・ストライクッ!!」


 突如そんな叫び声が放たれて、道路脇にある繁みから、何かが高速で飛び出してきた。赤い色をした『それ』は、砲弾のようにブラックフライに激突し、直後ドォォーーンッ! と地を裂くような轟音が、辺り一帯に響き渡る。

 ブラックフライはその衝突に押されるように道路に墜落し、爆発して炎上しながらバラバラに吹き飛んだ。


「おっ……おおおおおっ!?」


 男たちが、歓喜と驚きが入り混じった声を上げる。一瞬何が起こったのか、全く理解できなかった。彼らには、赤いイタチか何かがヘリに飛び付いたように見えたのだ。


 やがてヘリが墜落した場所から、一人の少女が歩いてくる。ブラックフライが無人機である以上、乗組員であるはずはない。


 少女は赤い装甲を身にまとっていた。その姿を見て、男たちは、彼女こそがヘリを墜落させた人物なのだと理解するに至った。


「さやかっ!」


 青い少女はバリアを解除すると、仲間と思しき彼女の元へと駆け寄る。彼女もまた相方のようにこころよく迎え入れて、互いに強く抱き合った。


「……敵は片付いたようだな」


 その言葉と共に、一人の男が遅れて駆け付ける。白衣に身を包んで、長身で白ひげを生やした知的な姿は、『老紳士』という言葉がよく似合っていた。

 彼の後に、ヘリと戦ったのとはまた別の二人の少女が付いてきている。


「さやかさん、やりましたねっ!」

「ブラックフライとやらは、強かったか?」


 思い思いの言葉を口にすると、さやかと呼ばれた少女の元へと集まる。そして労をねぎらうように彼女の頭や肩を手でポンポン叩いた。


「……」


 四人の少女と一人の老人を前にして、男たちはしばらく茫然ぼうぜんと固まった。突如現れた素性の知れない一行に困惑したあまり、命を救われた事への感謝すら忘れていた。

 だが彼らの素性に心当たりがあるらしき一人の男が口を開く。


「あっ……アンタらは、まさかっ!」


 ……それは日本の領土を取り戻すために旅立った、他でもないさやか、ゆりか、ミサキ、アミカ、ゼル博士だった。

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