第一話:出会い?
「よ〜し、それじゃ各自自分の席に着け〜。」
担任がそう言うと同時に、教室のあちこちからガタガタと音がした。
ここは、わたしが通っている清陽高校。
今、わたしのクラスは席替えをしている。
あ、わたし立宮茜。
一応この学校の生徒会長やってるの。
自分で言うのもなんだけど、テストの成績はいつもトップクラス。
先生からは優等生として扱われてるけど、本当はそんなんじゃない。
普通に校則破ってメイクしてるし、勉強も先生も嫌い。
生徒会長自ら校則破ってどうするんだ、って思われるかもしれないけど、こうでもしないとストレスが発散できない。
わたしのお母さん、7年前に病気で死んじゃったから、今はお父さんと弟の一輝との3人暮らし。
だから、家事は必然的にわたしの役目。
一輝は今小学2年生。
育ち盛りだから、家事も大変。
ろくに遊びに行けやしない。
だから、学校がストレスを発散できる唯一の場所なのよ。
だからあなたも、メイクぐらい大目に見てよね。
さて、と。
自己紹介はこれくらいにしましょ。
わたしの隣は誰かな〜?
………。
げっ。
小松原じゃない!
あ、小松原は、一応わたしのクラスメート。
つっても、紹介できるほど彼のこと知らないんだけど。
いつも大人しいし暗いから、みんなからはオタクだと思われてるわ。
メガネかけてるのが、さらにそれに歯車をかけてんのよね〜。
髪も耳が隠れるぐらいの微妙な長さだし。
別に校則違反ってわけじゃないんだけど、わたし的になんかうざいのよ。
はあ〜。
2学期始まって早々これじゃあ、これからテンション下がる一方ね。
キ〜ンコ〜ン…
「茜!」
「由実。」
この人は、わたしの親友、藤城由実。
…でも、バカなのよ、彼女。
まあ、他にもいいところはいっぱいあるんだけどね。
元気だし、友達思いだし。
「茜の隣、小松原でしょ?2学期始まったばっかなのに最悪だね〜。」
今、小松原は席にいないから、心置きなく話せる。
「あ〜、まあね。ま、しょうがないよ。」
「茜は心が広いなあ〜。わたしなら即先生に抗議する!」
「もう、由実ったら…。」
実際のところ、抗議したいのは山々だけど。
一応わたし、生徒会長だし。
そういうわけには、いかないでしょ。
優等生として。
はあ。
優等生って辛いわあ〜。
「で?由実の隣は誰なのよ?」
「ああ、金子よ。」
「金子ねぇ〜、これまた微妙なのが隣になっちゃったわね〜。」
「でしょ〜?っていうかうちのクラスイモばっかだもん、期待してもしょうがなくない?」
「あはは、確かに。」
「そんなことよりさ、今度の日曜横浜行かない!?あたし、買いたい服いっぱいあるんだあ。」
「う〜ん、そうねえ…。」
もちろんわたしだって行きたいけど、一輝も気になるし。
日曜は家の掃除でもしようと思ってたんだけど…。
「ダメなの?」
由実が不安そうな顔をして聞いてきた。
由実は、わたしの家の事情をよぉく知ってる。
知ってて誘ってくるってことは、わたしのためを思ってなんだろうけど。
う〜ん。
「ねえ、行こうよ〜。たまには息抜きもしないと!!」
「そ―――」
そうね、と言いかけた時、急に暗い声が耳をかすめた。
「あの〜…」
「うわっ!!」
「びびび、びっくりした!」
「あ、驚かせてごめん。でもそこ、僕の席なんだけど…。」
そう、由実は小松原の席に座ってわたしと話していた。
小松原にとって、邪魔なのは当然なわけで。
「あ、そそっか。ごめんごめん。」
由実は大人しく席をどいた。
ま、悪いのは由実だから、当然なんだけど。
…でもねぇ。
「マジびっくりしたぁ〜。ちょ、今気配感じなかったんだけど!怖ぁ〜。」
「ちょ、聞こえるって!」
そう言いながらも、わたしも由実と同じことを思っていた。
小松原って、クラスの男子の中でも声は低め。
いや、声の日草とかいう以前に、もっと他に声のかけ方ってものがあると思うんだけど!
あれじゃあ普通ビビるわよ!
ああもう、小松原って、みんなが思っている以上に変人みたい。
これから2ヵ月間、こんな奴の隣で授業受けなきゃなんないわけ!?
はあ〜〜〜〜〜。
これじゃあストレス解消もへったくりもないよ…。
「ヤバ、醤油切れてる!」
夕方になると、わたしは夕飯の準備を始めた。
これは、毎日の日課。
このうちでまともに料理作れんの、わたししかいないし。
ま、作れるっていっても、お母さんが死んでから、必要に迫られて覚えたんだけど。
もう7年も続けてるから、慣れちゃったけどね。
それはそうと、どうしよっか。
ここまで作っちゃったから、買ってくるしかないか。
…でも、外雨降ってるし。
ああもう、なんでこんな時に限って…!!
わたしはバッグに財布をぶち込んで、玄関に向かった。
ちょうどトイレから出てきた一輝と鉢合わせする。
「姉ちゃん、どこ行くの?」
「醤油切れてるから、買いに行ってくる!勝手につまみ食いしないでよ?」
「は〜い、いってらっしゃ〜い。」
わたしは傘をひっつかんで、玄関を飛び出した。
早くしなきゃ、せっかく作ったのに冷めちゃう!
そうだ、今日はこっちの道を行こう!
細いし暗いから、滅多に使わないけど。
こういう時だし、しょうがない。
わたしは暗い道を進んだ。
100mほど歩いたところで、街灯がある住宅街に出る。
ええと、そこの角を右に…
「…あれ。」
角を曲がろうとした時、こじんまりとしたカフェが目に飛び込んできた。
「こんなところに、カフェなんてあったっけ…?」
小さいけど、外観の雰囲気は嫌いじゃない。
えっと、お店の名前は…琴音。
へえ、結構いいじゃん。
こんなカフェがあったなんて、全然知らなかった。
外観からして、最近できたわけでもなさそうだし。
まあ、こんな住宅街のど真ん中にあるんじゃ、無理ないか。
そんなことを思いながらお店を見ていると、中から男の人が出てきた。
「…あれ。」
…店の人かな。
そう思って、彼の顔を見る。
わ。
結構イケメンじゃない!?
背も高いし!
タ、タイプかも…。
「あの…」
わ、わ、声かけられちゃった!
ど、どうしよう!
まだ心の準備が〜〜〜。
「立宮さん、だよね?ひょっとして家、この近く?」
「え?」
た、立宮さんって。
確かに、わたしの苗字は立宮だし。
家もこの近くだし。
彼は何一つ間違ったことは言ってないけど。
ちょちょちょ、ちょっと待ってよ!!
「あの、何でわたしの名前知ってるんですか?」
「何でって…。同じクラスでしょ。」
はい?
お、同じクラスって。
うちのクラスに、こんなイケメンいたっけ?
「席も隣じゃない。」
その言葉に、わたしは全身を凍らせた。
今、席、隣、って、言った、よね?
驚きで、頭が上手く回転しない。
今日、席替えして。
隣になったのは、あの根暗な小松原で。
今目の前に立ってるのは、ハキハキとしゃべるイケメン。
「って、ええええええ〜〜〜〜〜!?」
夜の住宅街に、わたしの大声が響き渡った。
初めまして、あるいはこんにちは。林檎の葉です。
なんか、思ったより長くなってしまいました…。
あれも言わせよう、この文も入れようと思うとどうしても止まらなくなっちゃって…。すみません。
この小説、わたしにとっては結構新鮮です。学校が絡む小説を初めて書くからっていうのもありますけど、やっぱりキャラ的に。
あと、茜が夕飯に作っていた料理は作者としても特に決めてません(笑)なので、読者の方個人個人でご自由に想像してくださいな^^ ストーリー自体にはメニューが何だろうがあんまり関係ないですが。
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