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ギリギリ義理の妹  作者: 35
9/15

その9 おねだり妹

「ふぁぁ~、いつも朝は眠い」


今日創立記念日による振り替え休み。いわゆる休日である。


普通の土曜日日曜日休みにはない、周りが働いている中の休みというのは実に心地がいい。


母さんも仕事が休みで、近所のママ友と出かけている。


夕方に帰ってきて、ご飯も既に下ごしらえを済ませてあるから、作ってくれるとのことであり、お昼は冷凍食品が少しあるから、そちらを食べてもいいし、外食してもいいとのこと。


こういう休みは、のんびりと家で過ごすに限る。パジャマも着替えずに、引きこもるのだ。


たまにはこういう日があってもいいだろう。


「兄さん、今日は暇か?」


俺がリビングのソファーでに座ってゆったりしていると、水鳥が様子を伺うかのように、話しかけてきた。


「ああ、今日は何もしない。どうしたんだ急に」


「暇なら、付き合ってくれないか。外に用事がある」


「何だ突然?」


水鳥から話しかけられること自体、そこまで多くないのに、出かけるのに誘われるなど更にレアケースだ。


「お前、この前祭りのとき、一緒に歩いていたら、カップルみたいに思われるから嫌だって言ってなかったか?」


「あ、あれは、周りにカップルが多く居て、しかも私が浴衣だっただろう。それに、手をつなごうとするし、挙句におんぶされて……、あの時とは状況が違う。普通の格好で普通に歩いて、私が兄さんって呼んでれば兄妹にしか見られないだろう」


「まぁ……、そうか」


彼女のいたことのない俺には真偽を確かめる術はない。とはいっても、確かに周りの環境というのはある。祭りとか、そういうイベントだとそう見られやすいこともあるっちゃあるか。


「どうしようかな……、今日は外に出ないつもりだったんだが」


せっかくの水鳥の誘いを断るのは悪いが、今日は何もしないつもりだったから、ちょっと即答できなかった。


「お願い~、お兄ちゃん~」


「やめろ気持ち悪い」


俺が悩んでいると、水鳥がいつもより数段高い甘い声で甘えてきた。


「気持ち悪いとは何だ。せっかく私が恥をしのんで、シスコンの兄さんのために、理想の妹を演じたのに」


「演じてる時点で駄目だろ。それにキャラにあってない」


「じゃあ、言い直す。つべこべ言わずに、妹の頼みを聞け、兄さん」


「分かった分かった。準備するから少し待ってろ」


「こんな命令形の言葉で、了承するなんて……、とんだMだ」


「聞こえてるからな! 俺はМじゃない!」


まぁいい、別にやることがあったわけじゃない。暇つぶしにはなるだろう。


「で、何をしにいくんだ?」


「ついてこれば分かる」




1時間後……。


「だらしない……、男ならもっと早く歩けないのか……」


「あのな、俺の抱えてる荷物の量を考えろ」


つき合わされたのは買い物。俺の両手は水鳥の買った服などで、完全にふさがっている。


「母さんが車を使えないから、父さんがいるときくらいしか、たくさん買い物できなかったんだが、こういうときに働いてくれる召使いがいると、買い物もスムーズになる、さすが兄さん」


「俺がいつ召使いになった!」


「父さんは、文句も言わず、母さんの買い物を手伝ってるぞ」


「水鳥の父さん……、たまに帰ってくるのだけなのに、そんなに家族サービスをしてるのか……」


単身赴任でたまにしか会わないが、あの人のよさそうなお父さんを、改めて尊敬した。


「まだまだいくところはあるから、きりきり働いてくれ」


「くそー、これはタダじゃ割りに会わないぞ」


「何を言ってる。妹の笑顔が、兄にとっての最大の褒美だろう」


「何を言ってんだ」


うーむ、最近水鳥に甘すぎたか? 


仲良くなろうと思って、うざがられても気にかけてたが、もしかしてそれを逆手にとって、逆に構わせる作戦に切り替えてきたのか?


前よりは仲良く見えるが、その実はどうなのか。俺にも分からん。


ただ、割りに合うかどうかは別として、今の水鳥はちょっと楽しそうではある。それだけで、なんとなく手伝ってもいいかなと思ってしまうのは、俺も安い男だと思ってしまった。


可愛い女の子の笑顔って、汚いよな~。仮にそれが妹でも。



「さてと、買い物はこれで終わりだ」


「よ、ようやくか」


なんとかギリギリ持てる量でなんとか、水鳥の買い物は終わった。


「いい時間だから、お昼にしよう。俺も休憩したいし……」


「外食か……、この時間だとどこも混んでるだろう。私あまり、混んでる店は好きじゃない」


「じゃあテイクアウトでいいだろう」


「今日はファストフードの気分じゃない……」


「まったく、姫様はわがままだな。何ならいいんだ?」


「オムライスがいい」


「ちゃんとリクエストが具体的にあるんかい!」


「だから、卵だけ買って帰ろう。ご飯は昨日の残りがあるはずだ」


「しかも手作り!?」


「もちろん、作るのは兄さんだ」


「丸投げ!? これだけ手伝ったんだから、昼くらいは水鳥が作ってくれよ」


「女が料理をすればいいと思ってるなんて……、古い時代の考えだな」


「そういう意味で言ったんじゃないんだが……」


「どこもかしこも、理想の女の子は料理が上手とばかり、猫も杓子も皆そう言う。自分も作るから一緒にやろうとか、それくらいの度量は持って欲しいものだ」


「そういう意見があるなら、せめて手伝えよ。今日の俺はけっこう水鳥に協力したんだから」


「何を言っているんだ? 前自分で言ったじゃないか。兄が妹を助けるのは、当然で、そこに対価や遠慮は必要ないと。つまり、兄さんが私の買い物を私の願いを聞いて手伝うのは、当然のことと思ってるんだろう」


論破されてしまった。自分で言った言葉に!


「私は帰ったら、買ったものの整理をしたいんだ。だから、任せる」


「まったく、しゃあない。家に帰って水鳥がご飯を食べるまでが、買い物ってことにしてやる。だが、今日は昼食までにしてくれ。後は俺の時間にしたいから」


「もちろんだ。午後は私も1人でのんびりするから、兄さんに用事は無い」


さっぱりしてんな。まぁ買い物に付き合ったのが、今日の運の尽きか。



「まぁまぁ食べられなくも無い。レシピどおりで相変わらずつまらない味だ」


「料理に面白さはいらんだろう」


オムライスを作って出してやると、なぜか料理がつまらないと言われる。


俺はまずいものを食うのが嫌いなので、料理は完全にマニュアルどおりに作るのだが、それが水鳥にはおもしろくないようだ。


「文句があるなら、食うな」


「文句ではない、ただ、マニュアルどおり作るなら、料理のレパートリーを増やさないと、味気なくなるぞ」


「確かに母さんは、同じ料理でも、微妙に味や使う素材を変えたりするもんな」


母さんの料理がうまいのは、料理の種類の豊富さにより、味を楽しめることにあると思う。


まったく同じようなものが出てきても、前と味が同じとは限らない。たまにはずれさえなければ、実にすばらしいと思う。


「ふぅ、ご馳走様だ。食器だけは洗っておこう」


「おう、自分のだけ頼むわ」


これで、今日の水鳥姫の召使いは終わりだ。


そう思って、ソファーにもたれかかる。


「あ、兄さん。これ」


すると、水鳥が声をかけてくる。


「なんだ? 今から自分の部屋の整理だろ」


「それは今からやる。だけど、これは兄さんのものだから」


「へ? お前が俺に?」


「うん、お礼だ。今日はありがとう」


「へ? お礼? しかもありがとう? しかも物をくれる? ……? 誰だ?」


「失礼な兄さんだな」


「熱があるのか?」


「……ない」


「卵が古かったか?」


「さっき買った卵だろうが」


「最近悩みでもあるのか?」


「情緒不安定でもない」


「実は生き別れの……」


「……双子でもない」


「じゃあ、本当に、お礼を言ってくれてるのか……」


「そこまで疑うことないだろう」


「わ、悪かった。あ、開けてもいいのか?」


「もう兄さんのだ。好きにしてくれ」


「! こ、これって、俺が最近見てた広告に乗ってた靴だろう。4800円の」


箱に入っていたのは、俺が最近買い換えようと思っていた靴である。


「私はあの店のサービス券を持っているからな。2割引きの3840円での購入だ。買い物上手だとは思わないか?」


「で、でもいいのか? 安くはないだろう?」


「いいんだ。私は無駄なものは買わないから、お小遣いにはちゃんと余裕がある」


「水鳥、ありがとうな。俺のことなんて、なんとも思ってないと思ってた」


「ま、まぁ最近は、さすがに迷惑をかけすぎたからな。いくら、私が兄さんのことをよく思っていなくても、何も返さないのはどうかと思っただけだ。対価がいらないとはいったが、対価をもらうのが迷惑というわけじゃないだろう?」


「ああ、とってもうれしい。ありがとな」


今日水鳥を手伝ったこと、いや、これまで水鳥を助けたことが、今日のことで、全て報われた気分になった。


「4000円弱で……、まったく安い兄さんだ」


水鳥は軽く笑いながら、リビングを後にして、部屋に戻っていった。


安かろうが、なんだろうが、嬉しいものは嬉しい。ああ、いい休日だ!





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