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ギリギリ義理の妹  作者: 35
5/15

その5 弁当と妹

「ふぅ、これくらいでいいか」


「すごいわね。健吾くんこれくらいできれば、奥さんの手伝いは十分出来るわね」


さっそく次の日、母さんと一緒に弁当作りを行った。


俺がどういうものを作るのか興味があったのか、横で見られていたので、めちゃくちゃ気は散ったが。


母は朝が忙しかったので、弁当は俺が基本的に作っていた。


別に購買などを使ってもいいのだが、俺の教室は購買から遠く、あまりいいものが残らないこと、友人が弁当派ばかりなので、俺だけ購買にすると、周りを待たせること、俺が人ごみが嫌いで、並ぶのも嫌いなことなど、いろいろな理由から、朝少し早く起きて、弁当を作るようになった。


時々ついでに母の分もつくることがあったので、あまり適当なものをつくって母の健康バランスが崩れてはいけないということで、結果的に、バランスのいいものが出来上がるというわけだ。


「母さんには及ばないよ」


母もそうだったが、やはり母親の料理というのは、俺が作るものとは全く違う。


栄養バランスだけではなく、色合いも綺麗で、ちょっとしたこだわりも感じられる。


特に、母さんはかなり料理が上手だったので、見ただけで、いつもの人が作った弁当ではないことが分かってしまう。


まぁ、いい話のネタにはなるだろう。最近母さんの弁当を持っていたから、交換を求められたり冷やかされたりしてたからな。


「私はこれでも十分すぎるけどね。水鳥ちゃんもこれでよかったんじゃないの?」


「いやいや、俺の弁当なんて持って行かないって」


今日は初日ということで、俺が作ったのは自分のものだけ。水鳥の弁当は母さんが作っている。


というより、俺の弁当を喜んで食べている水鳥。まったく想像ができない。最悪拒否されても嫌だし、もうちょっと水鳥の好みを理解し、ついでに水鳥からの評価も上げないと、なかなかその未来はないだろう。


「お母さんおはよう」


「あら水鳥ちゃん? もう家を出るの?」


「今日日直だったの忘れてた。急いでいかないと」


焦ってはいるが、しゃべり方はいつもと同じである。マイペースだな。


「行ってきます」


既に包んであった弁当箱を持って、俺には目もくれず走っていった。


「あらあら、あんなに走ったら髪が乱れちゃうわよね」


「急いで事故とか起こさないといいんだけどな」


俺は逆にいつもより早く起きていたので、のんびりと準備をして家を出た。



そして、昼休み。いつもどおりのメンバーと集まって、昼食を取る。


(さて、皆はどういう反応をするかな)


そんなことを考えていたからか、弁当箱は無意識に開けていて、中身を見ていなかった。


「お、相変わらず今日もお母さんの弁当か? まぁ自分でつくるよりうまいもんな」


「え?」


だが、友人の言葉で我に返り、弁当箱の中身を見てみると、そこには俺の横で母さんがつめていた弁当であった。


そして、今日母さんは昼に外食する用事があるため、弁当を持っていっていない。


これが意味することはつまり……


「まずいことになったかも……」


俺は昼食の間も、その後の授業も上の空で聞いていた。



授業が終わるとすぐに1年生の教室に向かった。


俺が行ってどうにかなるわけでもないのだが、そのまま帰るということが自分の中で許されなかった。



『ねぇねぇ。いったい誰のお弁当なの?』


『私たちだけにこっそり教えて。誰にも言わないから』


水鳥の教室には、まだまばらに生徒が残っていて、水鳥の周りには、何人か人だかりができていた。


「誰にも言わないから、と言う言葉は信用ならない。だから嫌だ」


『でも、お母さんじゃないでしょ。それに、水鳥ちゃんの手作りでもなくて、でも市販品じゃないのは見れば分かるもの。お父さんは確か今家にいないはずだから、家族じゃないはずじゃん』


『彼氏? 彼氏でしょ?』


女の子は、キャーキャー言いながら盛り上がっている。状況は分からないが、水鳥は自分の手作りというごまかしができなかったようだ。そして状況証拠で、彼氏の作ったものと思われているようだ。短絡的過ぎる。


『林さんに、彼氏ができるなんて……』


『男嫌いぽかったのに……。俺たちのマドンナが……』


『あきらめろ。どちらにしても、俺たちじゃ水鳥さんのハートは射止められなかった』


男の方もけっこうリアクションがあった。無愛想だし、男と仲良くしている様子が無かったから、人気がないと思っていたが、どうも隠れファンが多いようだ。まぁ見た目はかなり可愛いからな。水鳥は。


「あ…………」


俺は男の方に一瞬目を向けて、わずかに水鳥から目を離していた。


そのほんの一瞬の間に水鳥は俺に気づいて小さな声をあげていた。


だから、俺は水鳥の目線に気づいて離れるのが一瞬遅れてしまい、それが、水鳥のクラスメイトが水鳥が一瞬硬直して視線を定めた方角に、気づくだけの時間を与えてしまった。


「あ、あの人って、木村先輩じゃない?」


しかも運の悪いことに、その気づいた女子は俺のことを知っていたようだ。俺は部活に入っていないし、生徒会活動もしていないから、そこまで目立つわけではないのだが、学校というのは、少なからず多からず、偶然顔見知りになる確率の高い場所である。


その子は、俺の友人が所属する部活の後輩であった。確かに見覚えがある。


「え、あ、あの人、水鳥ちゃんと一緒にいるの見たことあるよ!」


そして、今度は俺のことを直接知らなくても、見たことがある人からの情報が入る。


この2つが関わって、1年生の教室は異様な空気になる。


はじめの子と俺は、ただの顔を知っているだけの、友人未満の関係。これはよくあること。


次の子は、ただ、俺と水鳥が一緒にいたのを見ただけ。別に水鳥だって、俺以外の男子と2人で何かすることは、普通にあるから、これもそんなに変ではない。


だがこの2つが合わされば、木村先輩という人が、水鳥と一緒にいた、という情報となる。


そして、この彼氏騒動の流れがあれば、必然的に発生する質問がある。


「え? もしかして、木村先輩が、水鳥ちゃんの彼氏ですか?」


やっぱり。しかも、俺1年生の教室を心配そうに覗いてんだもん、余計に怪しい。


「え、ち、違うぞ」


「え~、でも心配そうに、水鳥ちゃんを見てて、何の関係もないってことは無いんじゃないですか?」


「確かに、木村先輩が、1番林さんと一緒にいるところの目撃証言が多い気はするもんな」


「一緒に帰ってるのも見たことある」


まずい。この流れはまずい。


「違う。この人は、私の兄さんだ」


そこで水鳥がうんざりとしつつあきらめも混ざった表情で、そう言う。


「え?」


「何度でも言う。兄さんだ。彼氏じゃない。兄さんだから、一緒に居てもおかしくないし、一緒の方向にかってもおかしくない」


「でも、水鳥ちゃんって1人っ子だったよね。それに苗字も違うし……」


「複雑な家庭の事情があるんだ。兄さんの両親の都合でな……」


そこで、水鳥は少し眉毛を下げて、悲しそうな言葉で言う。


確かに嘘は言っていないが、それだとすげー意味深に聞こえる。


「そ、そうなの……、デリケートな問題なのね」


「ああ、兄さんもそれを知られたくないから、周りの友人にも話していない。そうだな、兄さん」


「そうだ、俺も周りに気を使われたくないから、言ってない」


嘘は言ってない嘘は。


「だから、みんなもこのことは黙っていてくれ」


「も、もちろんだよ。そんな家庭の事情があったなんて。じゃあお昼のお弁当は……」


「兄さんが作った。どうやら、ただお世話になってるのが悪いということで、母さんを手伝おうとして、自分のお弁当を作ったんだが、私と兄さんのが入れ替わってしまった。ただそれだけ」


その言葉に全員が一応の納得を示したのか、俺や水鳥に謝りつつ、教室を離れていった。




「ごめんな、水鳥」


一緒に下校をしながら、水鳥に謝る。


「まったくだ。おかげで、余計なことをたくさん話してしまった。私の友人は信用できるし、クラスメイトにも、デリケートなことを言いふらすようなクズはいないから、大丈夫だとは思うが……」


「本当に悪かった。わざとじゃない」


「そんなこと言わなくても分かってる。兄さんが故意でそんなことをしないことくらいは分かってる」


「そっか、ありがとな」


「礼なんか言わなくていい。わざとするような奴は、すぐにでも家から追い出すだけだ」


「今後はこういうことないようにするから」


「当たり前だ。ただでさえ、家で大迷惑を受けてるのに、学校でまで……」


その日は、夜までずっと水鳥は不機嫌だった。


俺は悪いとは思ったが、学校で少し水鳥と話せて、その関係を周りに知ってもらえたことに少しだけ嬉しさを感じてはいた。


ちなみに、どこで尾ひれがついたのか、水鳥がブラコンである説とか、俺が自分で弁当を作ったことで、1年女子の中で、評価があがるとか、余計なことがあって、その噂が落ち着くまで、ずっと水鳥の不機嫌は治まらなかった。

評価、ブックマークありがとうございます。


5話投稿時点でジャンル別ランキングベスト100に入れていただくことが出来ました。やはりランキング入りはとても嬉しいです。



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