その3 ツンデレ?な妹
「あら、お帰りなさい。一緒に帰ってくるなんてさすが兄妹ね~」
学校から家は徒歩10分くらい。
バスや電車の駅は、家から反対方向にあるため、ほとんどの学生は、俺とは逆方向に向かう。
そのため友人とは校門で別れて、そこからは1人で歩くということが多かった。
もちろん、仲良く一緒に帰ってきたわけではない、偶然水鳥と校門で鉢合わせしてしまったのである。
下手に避けると余計に変になるので、一緒に帰ってきただけである。
「兄さんが私の後をついてきた。ストーカーだ」
「俺に家に帰るなと?」
「まぁまぁ。2人とも掃除するから気をつけてね。今日はいろんなところが除菌してあるから」
「兄さん、危ないから外に逃げたほうがいいよ」
「誰が菌だ」
それは特定の人に対していじめになる。よろしくない発言だ。
「ごめんなさい、菌に失礼だった」
「俺は菌以下なのか?」
「何を言ってるんだ。大抵の菌は人間より地球の役に……」
「この話はやめよう。そういう方向に持っていかれると困る」
揉めるのが面倒くさい。
「母さん、今日は掃除してるんだね、ご飯私が作ろうか?」
「え、いいの? じゃあお願いしちゃおうかしら~。まだ何も決めてなかったのよね~」
お、今日は水鳥がご飯を作るのか。
水鳥ってご飯作れたんだな。と言いそうになったが、余計なことは言わないほうがいいと思い口をつぐんだ。
しかし、何も言わないと、変な妄想をしていると勝手に捏造されるから、黙っているのもよくない。
少ないとは言え、同じ家に住んでいれば、なんとなく展開が読める。
「制服のままエプロンつけて欲しいな、水鳥似合いそうだし」
だが、アドリブ力は無かったようだ。明らかに言葉を間違えてしまった。
母さんからの、「あらあら~」とでも語っていそうな視線と目が合う。
水鳥を見るのが、怖い。絶対に怒ってる。
「ば、馬鹿……、何言ってるんだ……。家族を口説くなんて……」
「え?」
水鳥は確かに怒ってはいる。
だが、不機嫌さというか、怒気が感じられない。
気になって水鳥を見ると、赤面していた。
「リクエストになんて答えてやらないぞ!」
だが、その後怒って部屋に行ってしまった。
「やっちまった……、余計嫌われる……」
ただでさえ低い評価を更に下げるような真似をしてしまって後悔する。
これは経験不足によるものだ。彼女どころか女友達もいない自分には限界があるとは思うが。
ツンツン。
俺がうなだれていると、母さんが背中をつついてきた。
「大丈夫よ、水鳥ちゃん怒ってないから」
「え? でもあんなに顔赤くして怒ってたぞ」
「あれは照れてるのよ。あの子はツンデレだからね。素直に喜べないのよ。男の子の友達なんて、健吾くんしかいないから、慣れても無いしね」
「自分の娘をツンデレ言うんですか」
「だから、気にしなくていいわよ。多分何か理由をつけて、制服エプロンで料理してくれるわよ」
「俺のこと嫌いなのに?」
「そんなに嫌ってないと思うわよ。本当に嫌いなら、そもそも話したりしないと思うもの」
「そういうもんですかね」
「もし、やってくれなかったら、私が制服エプロンで料理してあげるから」
「母さんが?」
「ええ、私学生時代からほとんど体格変わってないから、まだいけると思うのよ」
ちなみに、母さんこと順子さんは、16歳の娘がいるが、まだ36歳と若く、しかも36歳よりも若い見た目をしている。
さすがに制服を着ると、怪しい店みたいな感じにはなるが、だからと言って無理をしているとまでは言えないレベルである。
「……、してくれるんですか?」
ついそう言ってしまった。幼馴染の母で、自分の母の友人に何を言っているのかと思ったが、母さん若くて綺麗なんだもん。
「母さんに手をだすつもりか……。性欲半端ねえな……」
後ろから恐ろしいほどの威圧感を感じる。
「聞いてたのか」
「モテないからって、母さんに……」
「待て、話せば分かる」
「いや~ん、あなたごめんなさい。でも健吾くん若くて素敵だし、求められたら断れないかも~」
「母さんも説得に協力して!」
今回は俺も悪乗りしてしまったので、あまり強く突っ込めないのが悲しい。
「私がすればいいんだろう?」
「へ?」
「私がやらなきゃお母さんがやるんだろう? だったら、私が制服エプロンを着てやる。だから、お母さんは何もするな!」
「そう♪ だったら水鳥ちゃんお願いね」
「仕方が無い。あんまり見るなよ」
何か知らんが、母さんの言うとおりになった。偶然なのか、必然なのか。
「でも水鳥ちゃん、ちゃんと見せてあげないと、健吾くんが欲求不満で私に頼んでくるかもしれないわよ。私求められたら断れないタイプなの。水鳥ちゃんもそうして生まれてきたのよ」
「最後に余計なことをつけたしましたね。さらっと」
「私の部屋、カギかからないから……」
「何を言ってんですか。本当に」
「19歳差くらいなら、構わないわよ。ぺ○ジーニとオル○婦人みたいな関係もあるし、ちょうそ親友のおかあさんでしょ」
「俺は年の差よりも、法律に引っかかるんですよ。あなたまだ旦那生きてますよね。あと古いです」
「いい加減にしろ、わかった、見てていい。これでいいか?」
「良かったわね。これで、健吾くんにとって最高の結果になったじゃない」
「最高ではない気がします」
ただ80点くらいはあるな。
そして、料理をする水鳥をずっと見ていて、もし自分に将来お嫁さんができたら、こういう風景もあるのかなと、ほっこりして見ていた。いやらしい目では見てないよ。
「はいどうぞ」
水鳥が料理を食卓に並べる。
「お、普通にうまい」
「普通とはなんだ。失礼だろう」
「そうよ、水鳥ちゃんの料理は美味しいんだから。私と比べれば普通だけど」
「母さんも言ってんじゃないか!」
「お母さんはいいんだ。お母さんと比べれば普通なのは事実だから。普通って言うのは、受け取る側がどう感じるかってことなんだから気をつけろ。普通兄さん」
「分かった、今回は俺が悪かった」
「まったく、性癖は普通じゃないくせに」
「おい待て、俺のどこが変態なんだ」
「義理の母や、妹に欲情するやつのどこが普通だ」
「……、実際に行動に移さないならセーフだろ」
「私は実害を被っている。こんなコスプレまがいのプレイを強要されて、その言い草は間違っている」
「でも、そんなに嫌じゃないんでしょ~。もう料理は終わって、皆でご飯食べてるのに、エプロンつけたままじゃない~」
「こ、これは忘れてただけだ! 脱いでくる!」
そう言って、水鳥は席を立ってキッチンの方に行った。
「母さんはさすがだな」
なんだかんだであの水鳥が、母さんの前では手玉に取られている。
「もちろんよ。私はあの子のお母さんだもの。何でも分かるわ」
「まったく……、余計な動きをしてしまった」
そこに水鳥がエプロンをとって戻ってきた。
「今日はご飯ありがとう。そんなに料理好きじゃないのにごめんね」
「いや、別に嫌いじゃない。自分の好きなものつくれるし」
「明日の朝はご飯でいいかしら?」
「パンがいい」
「今日は見たいテレビがあった日よね。早めにお風呂に入るわよね?」
「いや、今日は何もない」
「全然分かってないじゃん!」
騒がしくなったが、ちょっと母娘の関係が見れて、面白い日ではあった。