その2 家の妹と外の妹
「はぁ、まさか水鳥があんなキャラだったとは」
部屋に戻って一息つく。ボケ2対突っ込み1では俺の体力が持ちそうにない。
部屋に戻るときに順子さんにこっそり聞いたが、水鳥は外では大人しめだが、家ではあんな感じらしい。
まぁこれをきっかけに水鳥と昔みたいに仲良くなれるかもしれないし、しばらく頑張ってみよう。
もともと昔は可愛い妹みたいなもんだったし、その関係になるのはあながち悪いことでもないかもしれない。
ガサゴソ……。
次の日の朝、俺が目を覚ますと、俺の部屋に1人侵入者がいた。
「水鳥。何してんだ」
上半身を俺のベッドの下に埋めて、腰だけが動いていた。
「ベッドの下を見ているんだ」
「何でだ?」
「聞くのか……。エロ本探しに決まっているじゃないか」
「まぁなんとなくそんな感じはしていた。だが、なぜお前が探すんだ」
「兄さんの性癖を理解していないと、危険だからな。私は妹とは言え、血のつながりはない。つまり妹なのに違法性がないから、合法的に背徳なことができてしまう。これを危険といわずなんという」
「そんな見境がないような人間なら、17歳で彼女がいないわけないだろう、俺は草食系なんだよ」
「だが、エロ本は巨乳メイドに、巨乳巫女、巨乳和服と実に分かりやすいな。露出が少ない巨乳が好みか」
「見つけてんじゃねぇよ。しまっといてくれ」
いやだって、そういう本を家に置いとくのもどうかと思ったし。まさか初日から探されるとは思わなかったし。
「まぁいい。起こしににきてやったんだ。母さんが兄さんが寝起きが悪いから起こしてきてくれって言うから仕方なくだ。だから、さっさと布団から出て起きろ」
俺は朝寝坊をすることはないが、目覚めは悪い。だが、こんなことをされてはすぐ目が覚める。
「ああ、分かっ……」
言われるがまま起きようとしたが、とあることに気づいた。
いつもは1人で着替えてからだから気にならないが、寝起きで女性の前に立つことは下半身的な理由でとてもまずいのである。
「どうした? さっさと立て」
「本当にすぐ起きるから、ちょっと待っててくれないか」
「うるさい。私は朝余裕をもって動きたいんだ。その貴重な時間を使ってるんだから、速くしろ」
布団を剥ぎ取られそうになる。
「お、お願いだから待ってくれ。本当にすぐ起きるから、今から着替えるから」
そして何とか死守することに成功した。
「あらおはよう、妹に起こしてもらえて気持ちいい目覚めだったでしょ」
順子さんが満面の笑みで俺を迎えてくれた。
「自分で起きるから今後は水鳥に来させないでくれ。せめて俺の部屋くらいは俺のプライベートにさせてくれよ」
「あそこはお父さんの部屋なのに。もう自分のもののするとはひどいな。確かに、お父さんは部屋にほとんど入らないから、あまり父さんの部屋って感じはしないが」
「そういうつもりで言ったわけじゃないんだが」
「健吾くん。旦那の部屋は大丈夫だった?」
「ええ、まるで新築みたいで」
「良かったわ。一応健吾くんが住むから、掃除をしておいたのよ」
「ああ、ありがとう……、母さん」
「いいのよ、健吾くん」
家族体験とはいえ、実にお母さんと呼ぶのは恥ずかしい。
ちなみに、俺は実の母を母と呼ぶので(変わっているとはよく言われる)、順子さんを母さんと呼ぶことで差別化している。意味はないが、必要性はあると思う。
母さんはとても綺麗好きで、家はとても綺麗である。
「旦那の部屋の、荷物を全部物置に置いて、ファ○リーズをして、絨毯とカーテンを全部新しいものに変えて、窓とドアを2日間全部開けっ放しにして、扇風機を天井に当てて、埃を全部落としておいてあげたのよ」
「それはもはや、あなたの夫の部屋とは言えないんじゃ……」
自分の部屋には自分の香りというものがある。俺も家に戻ってそうなっていたら、悲しくなる。
「水鳥ちゃんありがとう。でも健吾くんに何か迷惑なことをしたのかしら?」
水鳥にお礼を言いつつも、少したしなめて俺に気を使ってくれている。やはり親だから、平等に扱ってくれているのかな?
「兄さんが、エッチな本を出しっぱなしにしてあって、しかも布団が下半身辺りがちょっと盛り上がってて……」
「健吾くん。ちょっと話があるわ」
「めちゃくちゃ甘い!」
内容大嘘なのに、俺を真っ先に疑ってきた。
「冗談よ。水鳥ちゃん。健吾くんに変なことをしちゃ駄目よ」
「むー、兄さん、ごめんなさい」
さすが親だ。水鳥がきちんと俺に謝ってくるなんて。
「へんな起こし方をして、エッチな本探して、財布からお金とってごめんなさい」
「おい、俺の知らない事件が1個あるぞ」
「よし、これで終わりね!」
「終わってない! 今から余罪を追及するんだよ!」
ちなみに、財布の件は水鳥の冗談でした。
「いってらっしゃ~い」
母さんに見送られ、俺と水鳥は学校へ向かう。
「…………」
「…………」
2人きりになると特に会話が無い。
別にいまさらだから気まずくは無いが、先ほどまで普通にしゃべっていたから、何か違和感がある。
「なぁ」
「……話しかけるな。私は兄さんのことが嫌いだ」
敬語ではないし、呼び方も兄さんのままだが、家族になる前と同じ拒絶の言葉を向けられた。
「家族で過ごしてんだから、少しは仲良くできないのか」
「無理だ。家では気を使うのが面倒だから一応兄さんと呼ぶし、家族である以上、自然な会話の流れになれば無視はしないが、仲良くはできない。母さんとの絡みで勘違いしているかもしれないが、私と兄さんは相容れない。兄さんが悪いから」
そう言って、俺の前に出て速く歩く。
「はぁ、相変わらずか」
俺はうんざりとした顔でため息をついた。
「……、私にこれだけ言われてヘラヘラした顔するなんて気持ちが悪い」
「うんざりしてんだよ。ちゃんとそう書いてあるだろ?」
「兄さんの顔がうんざりしてるのに、ヘラヘラしてるように見えるからいけないんだ。うんざりしたように見られたいなら、ヘラヘラしろ」
そうか。自分のうんざりした顔なんてあまり改めて見ないから、もしかしたら水鳥のいうとおりなのかもしれない。
ためしにヘラヘラした顔をしてみた。
「……、何でニヤニヤしてるの……」
「これはヘラヘラだよ!」
「もうどんな顔しても変だから、余計なことするな」
「ひどいことを言うな。日本が銃社会だったら撃たれてもおかしくないぞ」
「その妙に気取った言い回しは突っ込みをほめられて調子に乗ってるな。というか、何で私についてくるんだ。ストーカーか?」
「目的地が一緒だからだよ! 俺に学校に行くなと?」
こんなことをしているうちに、学校についてしまった。一見一緒に登校したように見えるかな?
第1話の時点でブックマークをいただき、ありがとうございます。