その13 妹が不機嫌な理由
「ただいま」
告白まがいショックで、今日はかなりのんびりと家に帰った。
「おかえりなさい。今日は仕事お休みだから、私が家事するわね」
家では、母さんが洗濯物の片付けをしながら出迎えてくれた。
「今日は平日なのに休みなのか?」
「フレックスってやつね。社長はプライベートも大事にする人だから、有給も理由さえ言えば取らせてくれるしね」
「休みの日こそ、何もせずのんびりしてればいいのに」
俺のイメージとしては、平日に家事をするよりも、休みの日に家事をするほうが気分としてはだるい。
学校に行ったりすれば、体がある程度動いているので、そのまま家事をしても流れでできる。
だが、休みの日は、ダラダラできるので、家事のために体を動かさなければならないので、面倒くささが増す。
「いいのよ。私は家事が好きなんだから」
だが、母さんは仕事をしているのに、根っからの家事好きで、好きでやるものだから、俺の考えは当てはまらないようである。
「そっか、水鳥はもう帰ってるのか?」
「ええ、今日はお友達と一緒に部屋で遊んでるわ。乱入しないようにね」
「するわけがない。そんなことができるなら、俺には彼女がいるよ」
「え~、そこそこいろいろできて、顔もそこそこなんだから、彼女の1人くらいいそうなのにね。当てもないの?」
「ない…………かな?」
ちょっと返答に間ができたのは、いつもどおり即答しようと思ったときに、ちょっと前の会話を思い出したからである。
「母さん、一応聞いておくけど、今日水鳥と遊んでるのは誰だ?」
「え? 確か紫ちゃんだったかしら? あの子は中学から一緒で仲がいいのよ」
よりによって、このタイミングで紫が家にいるのかよ。会ったらずごい話に困るじゃないか。まだ、こっちの方で整理がついてないのに。こんなことなら、さっさと家に帰って、部屋にいればよかった。
「何~? 水鳥の友達を狙ってるの? 確かに紫ちゃんもかなり可愛いわよね。あれだけ運動してるのに、髪サラッサラだし、締まってるけど細いし、しっかりした子だもの」
「そんなわけない。緑の友達に手を出したら、水鳥と喧嘩になる」
そう、あの告白まがいの問題はそこにある。
仮に紫が何かのはずみで、俺に告白をしてきたら、多分断らないと思う。紫はかなり美人で、教室に来るとけっこう注目されるくらいではある。
ただ、紫は、俺の友人である以前に、水鳥の友人であり、俺と紫に関係ができることは、おそらく今の関係にプラスに働くとは思えないのである。
最近は、まぁまぁ水鳥との関係が良くなっているから、ここで何か余計なことをしたくはない。
紫の前では平常心を保ち、可能な限り意識しないようにすれば、大きな行動は起こらないと思う。紫もまだ、すぐに行動しそうな感じではなかったし、ただの立ち聞きだから、俺の勘違いもありえる。
俺がいろいろ考えるのは自由だ。考えても、外にそれを出さなければ考えていないのと一緒である(自論)
余計なことは考えずにさっさと部屋に入った。紫は帰るとき俺に軽く挨拶をしていっただけだったので、とりあえず自然な感じだったと思う。
「おい、最近たいそうモテている兄さん」
いきなり不機嫌そうに水鳥に話しかけられた。
「なんでお前はここ最近不機嫌なんだ」
「兄さんが私の友達に人気があるのが面白くない」
「別にただ先輩として見てくれてるだけだろ。俺がやってるのは誰でもやろうと思えばできることで、すごいことじゃない」
「だが、私のクラスの友達は、ずいぶん兄さんに相談に来ているようじゃないか」
「まぁそうだな」
水鳥の彼氏騒動のときもそうだが、物事を知っている人間が多くなると、情報が勝手に増えていく。
たとえば、仲間内でしか知られていなかった、俺が水鳥に付き合って、文化祭の準備を手伝ったこととか、祭りの日に、水鳥をおぶって帰っていたとか、一緒に買い物をしていたとか、どこで誰が見てたしらないが、かなり広まってしまった。
その関係で、俺は『頼りがいのある先輩』というカテゴリがつけられてしまった。
加えて、俺が紫と知り合いであったことも大きかった。
水鳥は、友人が少ないわけではないが、学校を離れてまで遊ぶ友人はそこまで多くない。だが、紫はかなり顔が広く、水鳥経由ではなく、紫経由で、知り合いが増えることとなった。
紫を断っていない以上、他の女子に挨拶されても、無碍にはできないので、話をされれば答えなければならないし、適当に答えるわけにもいかないから、ちゃんと話すことになる。そうすると、また評価があがる。
俺としては対したことはいっていない。だが、直接俺と会う機会がそこまで多くないことで、表面的に見られるのか、ずいぶんと好印象に変換されるフィルターがあるのか、基本的にいいように取られる。それを否定はできない。
女の子にいい印象を持たれるのは、もちろん悪いわけではない。
だが、自分の自分への評価と、周りの評価があまりにもかけ離れていると、あまり現実感がわかない。ドッキリでもさせられている気分である。
俺の教室は、1年生の教室と近いため、少し出歩いていると、話しかけられて友人といるときでも居心地が悪いことこの上ない。後輩ということもあってか、とても気を使われるので、こっちも気が休まらない。
漫画とかで、ハーレムとかやってる人ってすごいと思う。本当に精神的に来るものがある。嫌なわけではないから、逃れづらいのも、むしろそれを増徴させる。
そして、1番精神的にくるのが、不機嫌な水鳥である。少し仲良くなっていた気がしたのに。
「いや~、兄さんがモテてるから、妹の私も鼻が高いな~」
ものすごく棒読みで言われた。目線もそっぽを向いてるし。
「モテてるっていっても、皆兄的な感じだろ。告白もされたことないしさ」
「まぁ、兄さんは顔は良くて中の中くらいだからな。確かにかっこよくはない」
「……、はっきり言うな」
「だが、それがいいようだ。兄さんは程よく器用貧乏で、何でもこなせるが、完璧ではない。女子としては、あまり何でもやられると、逆に引いてしまう。そして、かっこよすぎると、現実味がなくて、積極的に
動けない。兄さんは、良くも悪くも、ちょうどいいんだ。ほどほど落ち着いているし、しっかりしているようにも見える。器用貧乏は悪く言われるが、要は一応大体のことはこなせるということだからな」
俺はどの作業も、一応及第点はできるが、できる人の仕事と比べれば確かに劣る。あまり器用ではないのだ。
「そんなもんか」
「高校生にもなれば、皆現実的になる。100点よりも、7、8割くらいの男性が良くもなるさ。昔の兄さんはそうでもなかったのにな」
「ああ、俺史上初めてのモテ期ってやつだな。運よく1人くらい告白してくれたら、うれしいな」
「……、相手が誰でもか?」
「相手にはよるかな。俺が選べる立場にないとは思ってるけど、安易にOKを出して、その子の学校生活に支障が出たらまずいしな。水鳥も知ってるだろ。俺が遊ぶには付き合っていないことは」
実は告白はされていないが、お茶の誘いや、相談を兼ねたデートのようなものには誘われたことがある。
だが、俺は基本的にはそれには気軽に参加していない。
俺を慕ってくれている後輩は、水鳥→紫とつながったように、どこかでつながりを持っている実は狭い範囲のことで、誰か1人のお誘いに参加すれば、すぐに噂となり波風が立つ。
それを全部受けれるほど、俺は暇ではないし、失礼にならぬよう丁重にお断りさせてもらっていた。もったいないかと思うかもしれないが、俺のせいで、余計な問題を起こしたくなかった。何より面倒くさい。
紫は、もともと水鳥を介す前から、付き合いがあるので、例外的に断っていない。そのため、紫と普段仲のいい子ともお茶くらいならするが、それくらいだ。
「じゃあ、紫ちゃんが告白してきたら、OKするのか?」
「紫……なら問題ないな。もともとの知り合いだから、波風立ちにくいし、さっぱりしてるから、あまり揉めなさそうだしな」
「…………そうか……」
すると、不機嫌だったのが、少し治まって、今度は落ち込んだ感じになる。
「ん? なんで落ち込んでんだ?」
「兄さんが分かってないからだ……」
「要するに俺が悪いのか?」
「兄さんが悪い」
そしてそっぽをむいて、話しかけても答えてくれなくなった。
「水鳥、機嫌直してくれって。あ、そうだ、今日は母さん帰りが遅いらしいから、外に外食をしに行こう。いい店があるんだ」
「……2人で?」
お、ちょっと水鳥がこっちを向いた。食いついたか?
「ああ、もちろんだ。最近水鳥と一緒にいれないことも多かったし、今日は2人だけでな」
水鳥に対して、仲良くなろうと構っていたのは俺なのに、俺の方から、水鳥と一緒に居られる時間をなくしてしまった責任はあると思っている。
「変な店だったら帰るからな」
「OKOK」
よし、機嫌直ったぽい。
「すぐ支度する。ちょっと待っててくれ」
そして、水鳥と2人で出かけることになった。久しぶりの2人きりである。




