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ギリギリ義理の妹  作者: 35
1/15

その1 母の友人の娘で幼馴染で妹

「健吾くん、今日から一緒にがんばりましょう」


そう宣言するのは、林順子。俺の母の友人で、家が近くということもあって小さい頃は俺もよくお世話になっていた人だ。


そして順子さんには娘が居る、林水鳥、つまり俺の幼馴染でもある。


16歳で、俺と同じ高校の1年生。俺が17歳なので1つ下である。だが、現在、俺はかなりこの子に嫌われている。


小さい頃は、健ちゃん、水鳥ちゃんと呼び合い、仲良くしていた記憶もあるのだが、人間成長すれば、男子と女子のグループに分かれるのは必然であり、いつのまにか疎遠になっていった。これはよくあることだ。


それでも、親同士が仲がよく、家も近所であればある程度の付き合いは残るはずなのに、彼女はある一定の時期から、俺に対して明らかに態度が悪くなった。


気まずい感じとか、うまく会話ができないとかそう言うことではない。明らかな敵意と明確な無視をされることが目立ち始めたのである。


幸い、近所で親同士が仲が良いとはいっても、家族ぐるみで付き合うというほどではなく、水鳥ちゃんも誰かが見ているところでは、あまり露骨にそういう態度を見せなかったので、問題は起こらなかった。


だが、今回、俺は林家にお世話になることが決まったのである。理由は単純。母が祖母の体調不良のため、母の地元に戻ることになったためである。


我が木村家では、父親が俺が小さい頃に病気で亡くなり、母は俺を女手1人で育ててくれた。


そのため、母は働かなければならなかったので、その点で順子さんにはかなり気にかけてもらっていた。


ただ、あまり順子さんに迷惑をかけるのもよくないということで、俺も多少家事を覚えた。自分のことくらいはできるように。


順子さんも、専業主婦ではなく、働いている人だったこともあり、気にしないでいいとは言われても、俺が気にした。時間があるのに、母と順子さんに負担をかけるのが申し訳なくなって。


今回も、俺は自分のことは自分でできるということで、1人である程度こなすつもりだった。


ところが、順子さんが俺の母に、今回俺を預かることを提案したのだ。


1人で過ごすのは、虚無感がある。ずっと1人で家事を全てこなすのは、かなり重労働。時間が足りなくなるかもしれない。家は近いが隣というわけではないから、何かあったら大変であるなど、いろいろなことを心配してのことだった。


母も、俺がある程度できることは分かっていても、やはり心配だったのか、申し訳ないと思いつつも、順子さんの案を了承したのである。


順子さんも、俺にとってはもう1人の母みたいなものだし、順子さんも俺を気に入ってくれているから、順子さんについてはそこまで問題はない。


だが、問題は水鳥ちゃんである。


もちろん今回俺が林家に来ることに初め水鳥ちゃんは反対していた。


1つ屋根の下で、家族として過ごすことになるのだから、俺と毎日のように顔を突き合せなければならないのだから、反対するのは当たり前である。

もちろん理由を聞かれても、順子さんも俺の母のことも、水鳥ちゃんは好きなのでそんなことは言えず、いろいろ理屈をこねていた。


だが最終的に、母さんズに説得されたのと、表立って反対できるほどの理論がなく、水鳥ちゃんが折れた。


そして現在ここに至る。すべての手続きが片付いて、今日から家族として新しい家に住むことになるのだ。


「まあ、今日からよろしく。水鳥ちゃん」


「よろしくお願いします。木村先輩……」


呼び方も昔のあだ名ではなく、知り合い程度の呼び方になっている。もうこっちにも慣れたが。


水鳥ちゃんは最近あまりじっくりとは見ていなかったが、とても女性らしくなったと思う。


だが、ちょっと眠そうな半目と、女性にしては低めで、不機嫌そうに聞こえる声は、俺を歓迎しているようには感じられなかった。


「はい、今日はご飯をたくさん作ったわ! 初日だからはりきっちゃった!」


その日は、荷物の整理などを行って、自分たちのものは部屋に運び、リビングやキッチンも整理をした。


大体片付いたところで、夕食となった、順子さんの料理は美味しいから好きである。俺の母も料理はうまい。自分の母親が料理が上手と言うのは、一般的に幸福なことだと思う。


「健吾くんは、料理はするのかしら?」


「まぁそれなりには。うちは母さんも働いてますからね」


仕事で帰りが遅くなって、俺に謝りながら料理を作って、掃除や洗濯をする母さんを見て、手伝おうともしないのは、その子供のほうがどうかしているだろう。


おかげで、俺は同世代の男性はもちろん、女子よりも多少家事がこなせるようになってきたと思っている。


「今できないことはないのかしら」


「大体なんでもいけますよ」


「……年上も年下も?」


急に水鳥ちゃんが会話に参加してきた。


「清純派でも、ギャルでも?」


それに順子さんがのる。


「やだ……、先輩不潔……」


そして水鳥ちゃんが俺を冷たい目で見てくる。


なんだこの流れ。


何? 俺の知らないところで打ち合わせでもしてたの?


いや、順子さんはは結構冗談が好きな人だから、まだ分かる。俺の母もけっこう冗談が好きで、順子さんと話しているのは良く聞く。


だが、どちらかといえばおとなしくて無口な水鳥ちゃんまで、このノリに参加しているのが、信じられなかった。


「あの、俺がいけるって言ったのは、家事の話で。性癖の話ではないです」


「やっぱり恵子の言ったとおりね。健吾くんは突っ込みが得意だって」


順子さんが真面目な顔で意味の分からないことを言っている。なんだ突っ込みって。


「『どんな無茶振りにでも突っ込みを返すスキルはかなりのものよ。雛壇芸人くらいなら、明日からでもなれる』って自慢してたわ」


「ちょっと過大評価がすぎませんかね」


俺はどちらかというとトークは上手ではないぞ。


「ごめんなさい……。家族が増えた喜びにちょっと気分が上がっちゃって。なんか不思議な気分よね。いつも2人でいるところに、男の人がいるなんて」


林家のお父さんは、単身赴任をしているので、あまり家には帰ってこない。普段は2人で過ごしていることが多いらしい。


順子さんが憂いをもった表情をする。まぁ確かに不思議な感覚はある。


「……何でかしら?」


「提案したのはあんただよ! 当事者が忘れるなよ」


「ごめんなさい。家族が増えた喜びに……」


「家族じゃないです、それには近いですけど!」


「息子が反抗期に……。育て方を間違えたかしら……?」


「俺は順子さんにはそんなに育てられた覚えがないです」


「お母さん……。先輩は善悪の区別がつかないだけだ」


「水鳥ちゃん! 止めて!」


「そうは言っても、お母さんのやりたいことはできるだけやらしてあげようと思ってるから……」


「水鳥……」

「母さん……」


「いや、いい空気に持ってってるけど、俺納得してないですよ。順子さんがやりたいことをやるのはいいんですけど、その実害を全部俺に振らないでください」


「木村先輩……、空気読んでください……」


「俺は悪くないと思うんだがな……」


水鳥ちゃんに強く言われては逆らえない。仕方なく食事を続けるのであった。


ちょっと疲れたが、確かに大人数で食事をするだけでもなんとなく幸せを感じるのであった。



「ところで、健吾くん」


食事が終わって片付けも終わり、一呼吸おいていると、母さんが俺に話しかけてきた。


「なんですか順子さん」


「あ、健吾くんだけじゃないわ。水鳥ちゃんも来て」


そして、俺と水鳥ちゃんがテーブルに集まる。


「せっかく家族になるんだから、気遣った呼び方や、話し方はしないほうがいいと思うの」


「俺は家族になった覚えはないんですけど」


「まぁ感覚としてそう思っててくれればいいの。1週間や1ヶ月の付き合いじゃなくて、それなりの期間を1つ屋根の下で過ごすんだったら、それは限りなく家族に近いと思うの」


「間違っては無いですね」


母がいつまで実家にいるかは分からない。


「私の呼び方は、健吾くんは健吾くん、水鳥ちゃんは水鳥ちゃん。これは普通ね。だけど、あなたたちの呼び方はちょっと家族らしくないわよね」


「え?」


「だって、家族みたいな関係になったってことは健吾くんと水鳥ちゃんは兄妹ってことになるわ。それなのに、ちょっと2人の呼び方はちょっと距離がないかしら?」


「まぁ確かに、俺は水鳥ちゃんに木村先輩って呼ばれてるから、家族じゃ違和感がありますね」


水鳥ちゃんから冷たい目線が飛んでくる。俺は悪くないし。


「う~ん、それもそうだけど、健吾くん、あなたもそうよ」


「は? 別に変じゃないですよ」


俺には兄弟姉妹はいたことはないが、友人と過ごしている限りは年下の弟や妹を名前で呼ぶことはそこまで変だとは思わない。


「普通年下の弟や妹がいたら、呼び捨てじゃないかしら?」


「いやいや、そういうのもあるでしょうけど、それは家族次第ですよ。別にちゃんをつけても変じゃないとは思います」


「でも私は変だと思うの」


これは水掛け論だな。俺も順子さんを論破できるほどの理論はないし。


「じゃあ水鳥ちゃん本人に決めてもらえばいいですよね。別に家族で呼び捨てにしないことは俺は変じゃないと思います。だが、水鳥ちゃんがそう呼ばれても構わないってことなら、俺は呼びます」


「そうね。水鳥ちゃんが嫌なら私も無理強いしないわ」


よし、さすがにこれ以上は順子さんも無理強いしないな。


なら大丈夫だろう。俺は水鳥ちゃんに嫌われているのだから、呼び捨てなどされたいはずがない。


「じゃあ水鳥ちゃん、健吾くんに呼び捨てで呼ばれるのは嫌かしら?」


「そんなことない。だから、好きに呼んでくれ」


まさかの裏切りが待っていた。


「な、なんでだ水鳥ちゃん!」


「は? 妹をちゃん付けしたいのか? シスコンだ。気持ちが悪い」


「そんな変なことじゃないだろ! 水鳥ちゃんの友達だって、弟や妹を呼び捨てにしない子はいるだろ」


「いるが、気持ち悪いと思っている。だから、私は一応兄になる人間に、ちゃんで呼ばれたいとは思わない」


「でも……」


「健吾くん、往生際が悪いわよ。さっき自分で言ったわよね。水鳥ちゃんが呼び捨てで呼ばれたくないなら、断るって。それはつまり水鳥ちゃんがちゃん付けで呼ばれたくないなら、それには従うって意味よね」


順子さんの言葉に反論ができない。確かに先ほどの発言は水鳥ちゃんの意思を尊重するという発言だ。


「分かった。じゃあなんて呼べばいい?」


「グリーンでもヴェールでもウィリディスでもグリューンでも好きに選べ」


「じゃあ水鳥な」


「私の精一杯のボケを無視するなんて……」


「もしかして意味が分からないのかしら……、やだ……私の息子の学力低すぎ……?」


「手元を隠さないでください! それは年収じゃないですか!」


「うわ……、私の父さんの年収……意外と高い」


「さすがですね!」


おそらく使用例は違う。


「いや、知ってるよ。皆、緑って言う意味だろ。ただ、そんな恥ずかしい呼び方で呼ぶくらいなら、普通に呼ぶ」


「恥ずかしいとは失礼だ。私もきちんと考えたのに」


あ、落ち込んだ。いかん。もしかしたら、水鳥……なりに考えたことかもしれない。


「悪い言い過ぎた。友達から、そういうあだ名で呼ばれてるんだな」


「は? そんな変な呼び方するやつはこちらからお断りだ」


「さっきの発言はなんだったんだよ……。もう水鳥でいいだろ」


「……、好きにしろ」


「はい、じゃあ次は水鳥ちゃんの番ね。さすがに木村先輩じゃおかしいもの。昔みたいに健ちゃんはどうかしら?」


「それは恥ずかしい、ちょっと子供っぽすぎる」


「そう……。じゃあ、お兄ちゃんって呼ぶ?」


おい、それはさすがに難易度が高すぎるんじゃないのか? と突っ込もうと思ったが、どうもこの家族では、俺の発言は逆効果になりやすい傾向がある。


余計な発言はやめてだんまりしておこう。


「……、木村先輩……、さっきまで変なことがあると止めてたのに急にだまるなんて……。私にお兄ちゃんって呼ばれたかったんですか。そういうプレイが望みでしたか……、最低ですね」


どちらにせよ逆効果になるのか!


「本当ね。私健吾くんが止めてくれると思って発言したのに。まさかシスコンだったなんて」


絶対嘘だ。


「別に俺だって好きに呼んでもらって構わないぞ」


「じゃあ眼鏡野郎で」 「採用ね」


「待て待て。家族としての距離感の設定はどこにいったんだよ」


「この家では私がルールよ」


「独裁は反対だ!」


いまさらの突っ込みの気もするが。


「私はお母さんに従います」


水鳥、順子さんにイエスマン、もといイエスウーマン説。


「わかった。絶対王政でもいい、だがな、1つだけ言いたいことがある。俺は眼鏡をしてないんだ」


「そんなに重要なことじゃない。私が眼鏡野郎と呼ぶのは眼鏡野郎だけだから、他の人との区別はできる」


「だが、俺は眼鏡をしてないんだ。それだと呼ばれても反応できない可能性がある」


「最低だ。それをいいことに都合の悪いことを無視するつもりだ」


「頼むから俺個人で俺を判断できるものにしてくれ。それに眼鏡してないのに、眼鏡野郎で反応したら、俺が周りから色眼鏡で見られるだろう」


「うまいことを言ったわね。さすがよ」


「順子さん、もうその辺はあきらめますので、せめて場を掻き回さないでください」


「まったくわがままだな。じゃあ、制服ピチピチ男子で……」「採用ね」


「だから、俺はデブじゃないんだ。頼むから俺を良く見てくれ」


「……………………」←俺を見る水鳥


「……………………」←俺を見る順子さん


「……………………」←順子さんを見る水鳥


「……………………」←水鳥に見られたことに気づいて、水鳥を見る順子さん


「……………………」←テレビを見る順子さんと水鳥


「………………………………………………………………………………………………………………………………」←その間皆と順番に目を合わせている俺





「…………しゃべれよ!!」


テレビの音以外何も聞こえない状況に耐えられず、突っ込んでしまう。


「さすがね。タイミングも間も完璧だった」


「全然嬉しくないです」


「思いのほか体毛が薄いし、あまり筋肉質じゃないから、男性ホルモン不足男でいいんじゃないか?」


「順子さんに水鳥。俺の見た目の描写が無いからって、好き勝手言うのやめてくれないか。もしこれがラジオとかだったら、俺がどんな人間かと思われるだろう」


一応誤解の無いようにいっておくが、俺は170センチで60キロで、髪も普通にカットしている普通の男だ。何の言い訳だ。


「何か意味の分からないことを言い出した。どうしよう、すらっとしてて、肌もまだ綺麗で髪がサラサラでロングヘアーで美人な母さん」


「兄さんがあんなんじゃ心配よね。小柄だけど女の子らしいスタイルで、肩くらいまでかかるくせっ毛が特徴の、童顔で可愛らしい水鳥ちゃん」


「あんたら汚いぞ。俺だけ大損してんじゃないか」


しかもなまじ誇張でもないのが、余計に腹が立つ。肝心なところで突っ込めない。


「じゃあもう兄さんでいいかしらー」


「はい、そうしますー」


「健吾くんこれで満足かしらー」


「兄さんこれからお願いしますー」


何か俺が悪いみたいになった。全部棒読みで言いやがって。なんとなく納得はいかないが仕方ない。


これまでの常識はあまり考えずに、いろいろ慣れていこう。新しい家族と生活するというのは、家が必ずしも安住の地ではないことを理解した。なんとなく理解するのが年齢にしては早すぎた気もしなくないが。


「ちなみに、私のことも母さんって呼んでね。あと敬語は禁止ね」


最後にさらっと1番難易度の高いことを言ってきた。よって、俺には2人目の母さんと呼ぶ人ができた。


もともと短編予定でしたが、すこし長くなったので連載にしております。

あまり長い作品ではありませんので、お暇でしたらお付き合いください。



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