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五月のお題小説「雨音」  作者: 六恩治小夜子
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降り止まない雨音

こんにちは、四月のお題投稿振りの黒猫です。

今回は「雨音」ということで視点をやや変えてみました。

人気の少ない路地裏。その日は雨がしきりに降っていた。

そのせいでか道のあちらこちらには水たまりができていて、小学生とかであるならば踏んで水しぶきを起こしながら帰路につくという遊びをしそうな感じの大きさだ。

人気がもとから少ない道のせいでか、蛍光灯の灯りですらぽつぽつとやや離れたところに見える程度で、明るいとは言い難い。

ここが都会のど真ん中や狙われやすそうな道であったら強姦などが絶え無さそうな道だが、左にはマンションがあり、道幅は広いほうで声は良く通る。近くには交番があるせいでこの道を標的とする人は少ない。居たとしても足元をすくわれるだけなのだから。

「お嬢様!」

そんな道に一際大きく響き渡った、良く通る若干低めのテノールボイス。

白のワイシャツにYの字に開いたベスト。所謂燕尾服を纏った黒髪の彼は、目の前を歩いていくふわりとしたフェミニンのワンピースを来た、栗色の長髪を揺らす一人の女性を追いかけるように歩いていた。

「ついてこないでよ!」

彼女の凛とした怒りで震えた声が彼の動きを停止させる。

それと同時に彼女も大きな声を出すために一時止まった。

「…お嬢様」

「なんで…」

困ったように眉を下げ、お嬢様と呼ばれる彼女へと一歩近づく。だが手が伸ばせるほど近づけるよりも、彼女の怒りが爆発するのが先だった

「なんで皆私の話を聞いてくれないの!?みんなお父様お父様って!全部全部お父様の言いなり!私の意見なんてこれっぽっちも入ってないんだから!執事さんたちもメイドさんたちも、みんなみんなお父様のお人形だわ!」

彼女の叫びは素直なものだった。まだ15歳の少女に背負わせてはいけないものだろう。だが彼女の家族たちは、自然と家庭環境からそうなってしまったのだろう。

彼にとってそれは胸が締め付けられる叫びだった。彼女を守るのが彼の役目。そう彼女の言う”お父様”から言われていたはずなのに、結局のところ彼女の精神状態は良く無かったのだ。

「…お嬢、様」

「こっち来ないでって言ってるでしょ!?」

彼が一歩近づいたことに気が付いていたのか、彼女は震えが止まらない声でそう叫ぶ。

今すぐに抱きしめてやりたい。「大丈夫ですよ」と言ってあげたいと思うのは、もう遅いことなのだろうか?

「守る守るって言って、結局はお父様に言われたことしかやって無くて行動は全てマニュアル通り!…貴方こそ本当のお人形ね」

くるりと振り返ってそう吐く彼女の顔は涙と鼻水でぐしゃぐしゃになっていた。

溢れんばかりの、今までため込んできた感情。

きっと彼女はそう言うことを言いたかったわけでは無いのだろうが、一度出てきた言葉はもう止められなくなっていた。

彼の動きがピタリと止まり、困惑の表情から目を見開くき悲しそうな表情へと変化する。

はっとした時にはもう遅く、彼女は自らの袖でたまった涙を拭うとまた前を向いた

「…とにかくついてこないで。操り人形に守られる筋合いわないもの」

彼女はそういうともう後ろを向くことなく歩いた。彼が追いかけることは無かった。

だが彼女が曲がり角を曲がったとき、下を向き、唇を噛みながら小さく

「…すみません…」

と呟いた彼の声がしきりに大きく反響したように聞こえた。


人通りが少なく交番が近くにあるものの、その道を抜けてしまえば、交番は近くに泣く人通りの少ない道で、色々と行うのには絶好の場所だ。

何も考えずに無心で彼女は歩き続ける。

考えたくなかった。傷つけていることは分かっているのだから。

彼女はこの場所が認識できなくなるほどには、目の前の自分のことしか今頭にないのだ。

「…あれ?キミ一人?」

不意に声をかけられたことにより、彼女ははっとする。

きょろきょろとあたりを見渡して、ここが自分の知っている場所でないことに気が付く。

そうして恐る恐る声の主のほうへ向いた。

金髪の長髪で、洋服がダサいわけでは無いのだが嫌な感覚が抜けきらない。そんな見た目をした彼はにやりと微笑んだ

「だったら俺らと遊ばない?丁度女の子探してたんだよねー」

後ろには複数人の影が見え、ざっと3,4人と言ったところだろうか。みな同じような容姿をしていて、彼女は一目散にこの場から去りたくなった。

「…結構です。帰路ですので」

冷ややかな声色と目の色でそう返すとくるりと踵を返し来た道を変える。

だが彼のてが彼女の手をつかんだ。

「いいじゃん少しだけ、ね?」

「帰らないと怒られてしまうので」

振り払おうとしても振り払えない手。きっと悋――執事――よりも強いのかもしれないという嫌な感覚にさらに襲われる。

容姿端麗な彼女はやはりいろんな人の目に留まるようで、普通ならばここで怒ってもおかしくないのだが、彼は引かなかった。

だがどんどん手を掴んでいる力が強くなっていく。

「…いたっ…」

「な、いいだろ?」

「…ごめんなさい、無理です」

微笑んでいた彼の目が豹変し、さらに力が強くなる。血が止まっているのが分かり、右手の鈍ってくるのが分かる。

「少しだ…って言ってんのにさぁ…」

彼の左手が上に上がる。叩かれる、そう思った時――

「あのさぁ~」

彼の手が降り降ろされることを予想していた彼女は思わず目を瞑る。

が、彼の手が降り降ろされることは無かった。と同時に聞こえた聞き覚えのあるテノールボイス。

「おれの大事なおじょーさまにてぇ出すことは許されねぇよォ」

若干ろれつが回っていなく、ほんのり顔が赤いが燕尾服を着た黒髪。

「…悋」

凄くお酒が弱いはずの悋で、いつもお酒は断っていたのに、今日はやけ酒だろうか。

そのせいでか雰囲気はとてつもなく大きく深く、怖い雰囲気が醸し出されていた。

その雰囲気に圧倒荒れないのがこういう不良である。眉をひそめた彼は「はっ」と鼻で笑えば悋の手を取った。

「あのさぁ、誰だか知んないけど、口出ししないでくんn…」

突如、悋の左手が彼の頬へと見えないほどの速さで飛んでいっていた。

彼は悋の手を取るしかなく、ややフッ飛ばされ地面に叩きつけられる。

むくりと身体を起こし、頬を押えながら悋の目を見据える。

「…にゃろぉ」

瞬間彼の雰囲気は怒ったような雰囲気に変わる。

彼女が動きを始めた時にはもう遅かった。彼の右ストレートと悋の左ストレートが交差してまじりあう。

そうして距離を取ったかと思うと、彼は距離を詰め左で、悋は蹴りを入れるとある意味の騒動のようになった。

だが結果は悋が優勢。…そのまま時間は進んでいき、最初に気絶をしたのは相手方の方だった。

起きなくなるのを確認し、脈が正確に動いていることを確認すると、悋は彼女のほうへとつかつかと歩み寄った。

そうして近くにあった壁に押しやり、首元をきゅっと掴んできて話し始める

「こっちがどんだけ心配したと思ってんだよ。こっちっだってな、したくねぇおもりとかやんなきゃいけねぇんだよ。ぎゃーぎゃーうるせぇお前の面倒とかもうこりごりなんだ。いい加減その気まぐれと言うことコロコロ変えるのやめねぇとこのまま首絞めるぞ」

彼女は彼の話が終わるまで、目を見ながら話を聞くことしかできなかった。

ただ感じたのは、それが彼の本心であったこと。

彼女は罪悪感と緊張の糸が切れたのか両目に涙が溜まってた。

家やマンションなどが雨でしっとりと濡れる。

雨が降り止むことは無く、雨音は鳴りやむことはなかった。

寧ろ、より一層雨音だけは強くなったような気がした。

お嬢様と執事。本当の関係であったなら間違いなく解雇処分です。


雨音って雨の音の他にないのかな、と考えてみたところ、偶然”涙”のフレーズが浮かびまして、そのまま執筆させてもらいました。

誤字脱字あったらすみません、〆切間近で急いでおります←

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