窓辺の花
執筆者:影峰柚李
短いです。
私には好きな人がいる。
その人は雨が好きだ。
雨の日は決まって窓の外を眺めている。
私は晴れが好き。
雨はむしろ嫌いかもしれない。
寒くて暗い雨は孤独感を引き立てる。
それでも彼は外を見るのだ。
雨で暗くなった部屋を電球の明かりが照らし、
先生の声が雨の音を消していく中、彼は外を見続ける。
そんな彼の背中を眺めながら私はため息を漏らす。
こちらを向いてくれないから目が合わない。
こんな雨の日だからこそ彼の顔を見て少しでも気分をあげたいのに
彼は窓を見続ける。
今日は晴れだ。
お天気お姉さんがそう言っていた。
彼は机に顔を伏せて寝ている。
窓から見える景色は雨の時より断然綺麗なのに
彼は雨の日にしか外を見ない。
雨が好きなのは変じゃないけれど、私にはわからない。
一度聞いたことがある。
「雨が好きなの?」と。
でも、彼は短く「別に」と返すだけだった。
好きなわけでもないのになぜ彼は雨を見るのだろう
私も彼のように雨を見ていたら、何かわかるだろうか。
……やっぱり雨は嫌いかもしれない。
そう思いながら突然降り出した雨に肩を落とす。
「傘、持ってないや……」
笑顔のお天気お姉さんは時に期待を裏切る。
濡れて帰ろうと意を決した時、彼が私の前で立ち止まった。
「貸すよ」
「え?」
「俺家近いし、明日返してくれればいいから」
紺色の折り畳み傘を私に押し付けると
彼は走って行ってしまった。
少しの間呆然としていたけれど、私は傘を広げて歩きだした。
うん、少し格上げ。
次の日も雨だった。
自分の傘と彼に借りた傘を持って家を出る。
雨なのに不思議と嫌な感じはしない。
それはきっと昨日の事があったから。
でも、学校に着いても彼の姿はなかった。
どうやら雨に打たれたせいで風邪をひいてしまったらしい。
「悪いことしたなあ」
誰も座っていない彼の席を眺めながらため息を漏らす。
家が近いっていうのは嘘だったんだろうな。
風邪が治ったら謝ろう。全力で。
その日は特に何もなく、いつも通りの学校生活だった。
彼がいなかったからモチベーションは下がり気味だったけど。
今日は彼の好きな雨なのに……
今も彼は雨を眺めているのだろうか。
放課後の人がいなくなった教室で一人日誌を書く。
ふと、彼の席に座ってみたくなった。
いつも彼が見ている景色がどんな景色で
彼は何を考えているのか、同じ立場になれば分かるかもれない。
日誌を閉じて彼の席に座る。
彼はいつも少し後ろの方に首を曲げて雨を眺めているので
それを真似て外を見る。
中の光に反射して教室が窓に映り込んでいた。
「あ……」
静かな教室に雨音が響く。
それが大勢の拍手のように聞こえた。
ああ、雨も悪くないな。
雨を見ながら呟いた。