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五月のお題小説「雨音」  作者: 六恩治小夜子
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雨と少女と猫

なんとなく書いてみました。 writer by 六恩治小夜子

雨が降ると憂鬱になる。

髪が雨に触れると痒くなる。

全身に当たると全身も痒くなる。

そんな時はすぐにボディソープで洗いたい衝動に駆られる。

嬉しいのは、雨だとバイト先で客が来ないから暇になること。

夜に雨だと寝るときリラックスして眠れるということ。

農家の人には重要だけど、一般庶民の私には関係ない。

けれど、雨は私の心のように流れている。

表情は笑っているけど、心は泣いている涙のように降っている。

天気はまるで私の気持ちを代弁しているみたいだ。





昨日、私は振られた。

好きな男にありったけの気持ちを精一杯込めて伝えた。

けど、男はそっけなく「タイプじゃないから」とだけ言い、去っていった。

こちらに振り向きもせず、そのまま立ち止まることなく雑踏に消えた。

……振られたことは仕方ない。

そう、頭では考えようと自動的に思考が働いた。

でも、心はそれを拒み、まるで胸に穴が開いたような息苦しさを感じる。

辛くて立っていられず、思わずへたり込んだ。

過呼吸と動悸が激しく、肩で息をする私。

通行人は誰も声をかけず、ただ過ぎ去っていく。

雨の中に私を置いたまま、みんなどこかへと行く。

雨はそんな私を優しく包み込みはしない。

服が濡れて、下着が濡れて…心も水浸しだ。

太陽なんかないと思った。




「にゃぁ…」





か細い声が聞こえる。

小さく、とても小さくて、か細い声が。

その場所を耳を頼りにして向かってみる。

すると、小さい空き地にダンボールがあった。

その中に猫が一匹寒そうにしていた。

ダンボールには汚い字でもらってくださいと書いてあった。

色は黒…というよりは灰色に近く、あまり鳴かない。

だけど、こちらを見る瞳は凛としている。

元気ではあるみたいだけど、このままだったら…。





「お前も…私も…同じ、一人ぼっちね。都会の片隅に一人ぼっち…」





街を歩いていると、たまにふと思う。

自分は無色透明のカメレオンじゃないかって。

何物にも染まらず、染められず、ただ歩くだけの意味のない存在。

大勢の中にいると時々思うの。

私がいなくても別に楽しいんじゃないかって。

私がこの世界に存在する意味って何なんだろう。

人間が生きている意味って何なんだろう。

普通に生活して、結婚して、子供を作って、老後を過ごす。

それは…本当に幸せで真に生きている意味になるんだろうか。





「…お前もきっと意味のない物とされたんだろうね」




誰も捨て猫に気づかない。

気づいても見て見ぬ振り。

それが当たり前の都会。

コンクリートは人と人の間に壁を作る。

文明が進めば進むほど、人の心は貧しくなっていく。

抱き上げる。

猫はにゃーと嬉しいのか、悲しいのか、よくわからない声を出す。

その子を腕に抱きしめ、頭を撫でてやる。





「意味のない物どうし、仲良くしましょう…」





雨音は徐々に激しさを増していく。

傘のない私はもうどうしょうもないほど、びしょ濡れだ。

だから、これ以上塗れない為に走っていた。

けど、私の心は晴れていた。










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