欲
「あなたが欲しいんです」
一瞬なにを言われたのか理解出来なかった。
良き部下だと思っていた相手に突然空き部屋に連れ込まれ、押し倒された。そんな状況で冷静でいられるわけがない。
「い、いや、…いや、いや、いや、いや、」
「お、おちつけ!おまえはおかしい!!よってるのかそうだろそうなんだろ!?!」
俺にのし掛かっている馬鹿デカい図体から逃れようと身を捻ったりしていると、ギリギリと床に縫いつけられている手に力が籠った。
痛い。それに怖い。
自分の倍はある大男にマウントポジションをとられていることに、本能的な恐怖を感じる。
「ッヒ、」
耳を舐められた。
ハアハアと興奮しきった荒っぽい息遣いが耳にかかる。部下であるはずの男は何も言わない。ただ、俺の耳に唇をつけ、舌で丁寧に形を確かめるように執拗に舐めしゃぶっている。
少しふっくらとした耳たぶを緩く噛み、感触を確かめるように何度も歯を立て、舌で舐め、ちゅぅっと音がなるくらい吸い付く。そんなことを暫く繰り返していたが、満足したのか、今度は耳の中にまで舌が伸びた。
耳を犯されている。ぐちょぐちょと耳の中で舌が一つの生き物のように蠢めいている。
「ッウァ、や、や、めろ…よぉ」
ぞわぞわっといいようのない不快感が背中を撫でるようだった。
「っお、おい、葛切。お、おまえは、酔ってるんだ。こ、こんなおっさん、相手にしたら後悔するぞ。」
情けなくも恐怖で声は裏返り、震えていた。
俺の言葉なんて聞こえてないように、葛切の舌は首筋へと移る。
女のような柔らかさのない男など舐めまわして何が楽しいのか、葛切は僅かに口角を釣り上げていた。楽しくて堪らない、そんな言葉が聞こえてきそうだ。
舌は首筋を辿って顎へ。
無精髭が舌にあたる感触を楽しむように、涎でベタベタになるまで舐め回された。正直、気持ち悪い。
「…?葛切?」
ふと、顎を舐めていた舌がなくなり不思議に思って、いつの間にかキツく閉ざしていた目を開けた。
葛切は顔をあげ、自身を落ち着けるように深く息を吐き出している。手の拘束はなくなっていた。