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乙女譚  作者: 毛野智人
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(五)

 デメテルがオリュンポスを去ってからしばらくすると、大地はすっかり変わり果て、神々でさえその有様に溜息を禁じ得ない状態になってしまった。大地に根を張る全ての穀物、草花の一切が実ることを止めてしまったのだ。大地の恵みはデメテルの力によって成されていた。大地の女神の怒りを買うとここまでの惨状に至るのだということを知らしめるには十分であった。

 神々の頂点にあるゼウスにとっても、流石にこの事態は見逃せない。大地母神に一刻も早くオリュンポスへ戻ってもらわねば、大地が枯れ果ててしまう。デメテルを何とか連れ戻すためにも、ゼウスはここのところ伝令神ヘルメスを遣わし彼女の行方を探させていた。

「デメテルの居場所は?」

 オリュンポスの玉座からゼウスはヘルメスに問うた。ヘルメスは今し方デメテル捜索の巡行より帰還したばかりだ。

「ご安心下さい、ゼウスよ。この度はかなり有力な手懸かりを得ました」

 ヘルメスは羽を畳んでゼウスに報告する。

「デメテルは人間に身をやつして地上を彷徨していたようですが、エレウシスという地に行き着き、どうやらそこに自身の神殿を建てさせたとか。今はその神殿に篭っているとの噂を耳にしました」

「成る程。私に刃向かうための居城を得たというわけか。それで、何故そこへ赴いてデメテルと話をつけて来なんだか」

「デメテルはゼウスに並々ならぬ憎悪の火を燃やしているご様子。ゼウス直属の遣いである私が参ったとしても、交渉には応じて下さらぬでしょう」

「では、どうせよと申すか?」

「奥方の遣いであるイリスに伝令を頼んでみては如何でしょう?」

 イリスは虹の女神であり、ゼウスの妻ヘラの忠実な部下である。

 無論、ヘルメスはデメテルの神殿の側までは行ったのだ。しかし、空から観察した限りでは、自分が声をかけたとて、とても門戸を開けてくれそうな雰囲気ではなかった。それだけデメテルの心は固く、閉ざされていた。ならばゼウス直属の自分が行くよりも、同じ女であり浮気者のゼウスの勝手に苦しんだ経験のあるヘラの側の者を遣わした方が、少しは話を聞いてくれるのではないか。そう思っての提案であった。

 ヘルメスの案にゼウスは頷いた。

「お前がそう言うならそうしよう。そのためには、ヘラに頭を下げねばならんがな」

「恐れ入ります」

 ヘルメスは苦笑しつつ辞儀をする。

 きっと第一声は叱責の言葉だろうな、とヘルメスは想像した。

 その後、ゼウスはヘラにデメテルの説得を頼んだが、案の定ヘラは素直に首を縦に振ってはくれなかった。ハデスにペルセフォネを強奪させたゼウスの企みの卑劣さを甲高い声で難詰し、これまでのゼウスの不誠実を一つ一つ列挙しながら責め立てたという。それでもゼウスが頼み込んだので、ようやくイリスの派遣を承諾してくれたのだった。

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