竜王の加護
「行くのか」「うん」
この光景を見たのは何時だったか。
遠い遠い昔のように思えるし、ごく最近だったかもしれない。
本来は風が無い。本来は匂いがない。重力もなければ暖かさも光もないその空間を光り輝く竜が往く。
「竜大公様。ありがとうなのの」「礼には及ばぬ。そして竜王様を頼む」
ファルコは小さく頷くとその身を竜の背から投げ出した。
やがてその身は竜の加護を受けて高速で進んでいく。大きな光とともに。
青い青い星。広い広い海。白く輝く雲。そして山の緑に谷間の赤。
一人の女。重力も風もなく、声すら出せないはずのその空間でその女は笑っていた。
星を見下ろし、その下でうごめく命たちを嘲笑いながら。
その笑みが歪む。怒りと戸惑い。憎しみを込めて瞳を向ける。
「竜族は不干渉ではないのか。竜大公」その言葉が聞こえたかは知らないが金色に輝く竜は世界の境界を超える声で彼女に告げる。
「世界を滅ぼすものには不干渉を貫くわけにはいかぬ。なぜなら我らの王の意思。竜王殿は我らの神」
まぁよいと『サワタリ』はほほ笑む。
あの鱗と爬虫類と竜と魚と蝙蝠を思わせる姿ではなく、美しい。
女神を思わせる容姿のその姿で両の腕を開いて笑う。
「我を撃ち滅ぼせるならやってみろ?! ファルコ・ミスリル!!」
その両腕に飛び込むようにファルコは一直線に飛んだ。
「サワタリィィィツ?!!!!!!」「ファルコぉぉぉッ?!」
光が爆発し、そのまま流星となって降り注いだ。
流星は空を引き裂き、風を砕いて炎とし、重力を得て荒れ狂う。
雲をゆがめ、雨を撃ち滅ぼし、人の住まう星に破壊の力となって舞い降りた。




