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お父さんは『勇者』さま  作者: 鴉野 兄貴
『黄金の鷹』と『真銀の隼』

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『実はそこにいた』

「不覚だ」


 『サワタリ』の爪がアルダスさんを易々と切り裂きました。

アルダスさんが吹き飛ばされ、一言告げて意識を失っていくのを私は呆然と見ていました。

「『神剣』をついに倒した……もうこの世に我が脅威はない」

ぼたぼたと血にまみれた爪を伸ばし、『サワタリ』たちは一歩づつ私の元へ。

「お前はすぐには殺さん。犯して切り刻んで、送信幻術であいつにたっぷりと見せてやる」


 炎に赤黒く、腐臭とともに照らされる長い爪には肉片、骨のかけら。

『闘わなければ。戦わなければダメ』

動けない。恐怖で動けない私の手のひらに不思議な感触。

錆びた短剣。槍の穂先。

私は迷わずその穂先のナイフを『サワタリ』に向けます。

「なんだそのオンボロは。そんな刃が私の鱗を貫くと思うか」

 恐怖を一瞬上回ったのは怒り。

『怒りは恐怖に立ち向かう勇気』お父さんの言葉がよみがえります。

お父さんに私を託して死んだ両親の形見を嗤われた怒り。

荒ぶる怒りを上回ったのはお父さんとの思い出。

淑女としての教育。常に落ち着いて。荒ぶる怒りは波紋のように。

やがて通り過ぎれば穏やかな水面みなも

嘲笑う彼女を無視して。淑女なら微笑みを。


「怖い。確かに怖いわ」


 そもそも、そのお顔がいけません。

女性とも思えぬ下品な発想もいただけませんわ。

「でも、もっと怖いことを考えたら、私は勇気を出せる」

「お父さん。伯父さんッ! フィリア母さん! エアリスお父さん!! 私に、私に勇気をください」

「あいよっ?!」


 え?

もぞもぞ。

私のスカートの奥に妙な感触。

「ひゃっ?!」お尻をまさぐる冷たい小さな手のひらに跳ね上がる私。

はからずして大きな隙を見せた私は死を覚悟したのですが。

「意外とケツでかくなったな~」もぞもぞとスカートから幼児が一人。

黄ばんだ布を頭に巻いて、同じくぼろぼろの黄ばんだマント姿の彼は。

「『実はフィリアスのスカートの中にいた!』」

鼻を抑えつつ、ちょっと胸を張って私たちの間に立ちました。

威厳のかけらもなくふんぞり返って。


 おー。じー。さー。ま~~~~~~~?!

ぐっと親指を突き立て、『サワタリ』の群れに気取って見せる彼。

スカートとエアリスお父さんの短剣を握り、羞恥に震える私。

「すぱっと快傑かいけつ! すぱっと参上! 人呼んで最強のあんさつしゃ!」

すぱっ。すぱっと軽々ポーズをとり、『サワタリ』たちに向けて投げキスをする幼児。

言うまでもなく。

私の。……私の伯父。ピートです。

「なにするんですか~~~~~~~~~~! この変態~~~?!」

 私が情け容赦なく彼の背を蹴ってしまってもたぶん罪はないです。

「ふはははは。無理やり因果まげて来たから死にそうだ。正直戦えない。ぼくは因果を曲げる力があんまりない~」何をしているのですか。ナニヲシニキタンデスカ。

「死にに来たかピート」いらだつ『サワタリ』に『チチッ』と指を鳴らして見せる彼。

「違うね。可愛い姪っ子を助けに来たのさ」ウインクして気取る彼。


 ええと。普通に考えたら好きになっちゃうくらいカッコいいのかもしれませんけど、その。あの。

「『神剣』すら倒した今の我らを倒せると?」「貴様や『軍師』では足止めにもならぬ」「もうすぐ『光速』や『竜槍』も死ぬ」

嘲笑いつつ近づく『サワタリ』達にはその、伯父ではたぶん勝てはしないのでは。

気持ちは、気持ちはすっごくうれしいけど。


 みんなみんな死んでいく中で、彼の明るい顔はとっても励みになりますけど。

「おじさん、逃げて」「だが、ことわる」彼はさっと剣を抜き。

「アルダス。逃げろ。あとフィリアスはアップルを背おえ」

だめだよ。だめだよ伯父さんはだめ。

だって、だっておとうさんと同じくらい、ときどきお父さんよりも私のわがままに。

「貴様では時間稼ぎにもならん」「そうかい?」


 嘲笑う『サワタリ』の群れに『くいっ』と左手を動かして挑発して見せる彼。

そしてこうつぶやいたのです。

「いいか。『弟に勝てる兄は存在しない』」「はい? 気が狂ったのか」「狂ったか? それは質問とみなす。

ぼくがくるったかどうかあててみなよ。ハイワイ旅行に招待してやるぜ」

私には、炎に包まれる伯父の背が。彼が笑ったように感じました。

「まあいいから、上をみろ~。舌をみろ~? ざまぁみろ~」「貴様の手には乗らない。時間稼ぎにもならぬわ」


 彼は楽しそうに呟きます。

「え? みないの? しっかたないなぁ。とっても綺麗なのに」

おどける幼児と鱗と血にまみれた魔神の群れ。


 きらきらとする光が炎を消していきます。

音もなく舞い降りた光が波のように広がり、伯父さんが教えてくれた極光オーロラとなって広がり、さわやかな香りとなって人々を癒していきます。



ごう。


 夜闇を引き裂き、焦げた香りを感じたのは後の事でした。

空気が歪み、暴風が私たちを吹き飛ばし、粉みじんになった『サワタリ』たちの中央には。


「みゅ」「遅いわ。愚弟」


 ぽこんと剣の柄で殴る伯父。泣き出す幼児。

その柔らかい髪を私はしっています。

その笑顔に包まれて私は育ってきました。

その小さな手のひらの暖かさを私は存じています。

彼の作るシチューはとても美味しくて、一緒にお花を育てて楽しんで。


「お、お、お父さん!!!!!!!!?」

そこには、先にサワタリの討伐に向かったはずの父。

ファルコ・ミスリルがたっていたのです。

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