ファルコ・ミスリル
輝く扉を潜った。
その瞬間私は光の爆発に包まれる。
お米の、お醤油の匂いがする。お母さんの卵焼きの味がよみがえる。
仕事に励むお父さんが見える。学校の友達が塾に走っていくのが見える。
私は、私は、私はあの世界に戻る。戻る。お母さん。今行くよ。
ばちん。
光の爆発は私を弾いた。
焼ける肌。その火傷のほとんどは鱗が防いでくれた。
醜い、きたない。緑の鱗が。
「サワタリ。その」「やっぱり、無理……」「ぴーと?!」
どうしてよ。どうしてよ。
私の目の前には寝台に横たわるお母さんが見える。
病室のあの嫌なにおいがわかる。舌に来るアンモニア臭も。
お父さんが泣いているのが聞こえる。私の涙の味がわかる。
この血があれば、この『縁』があればお母さんは助けられるのに。
この血があるゆえに。この『縁』ゆえに私はこの世界から離れられない。
私の声はお父さんに届かず、お父さんの嘆きは私の心を切り刻む。
私はファルちゃんが作ってくれた異世界を潜る『扉』を叩く。
光の爆発は稲妻となって私を拒否し、弾き飛ばすが私は何度も挑む。
「はなしてッ?! はなしてよピート?! お母さんがよんでいるのっ?! お父さんが泣いているのッ!」「聞こえない。あれはもう幻覚と思ってくれ!」そんなわけないじゃないピート。ファルちゃんも何か言ってよ。
どうしてよ。どうして泣いているの。なぜ謝るのよ。
私は。
私は。私は私は私は。
恋人だと思っていた男を殺した。
『化け物』強すぎると。醜いと。
気が付いたら、私の手は血に染まっていた。
私は笑う。貴様らこそが化け物だと。
醜くて自分勝手で我儘な悪魔だと。
謝らなくて良いよ。
私に故郷を見せてくれてありがとう。ファルちゃん。
殺してあげるから。たっぷり絶望を味あわせて殺してあげるからね。




