『神剣』アルダス・ミスリル
おとうさん。おとうさん。
てくてくと歩く幼子と幼児。
幼子は幼児のあとをつける。
「こっちこっちフィリアス」「とーさん。おとうさんまってまって」
短い脚を動かして精一杯歩く姿の愛らしさ。
彼女が父さんと呼ぶ存在はどう見ても幼児だけど年齢的には大人らしい。
とっても可愛いのだけど。
「さーたに」サワタリよ。「さんだに」何そのFFの呪文みたいなのは。
天使みたいな可愛いコ。
年齢は2歳から4歳ほどかしら。
泣きつくように抱き着いて小さな手のひらでその幼児の服をガッチリ。
「完全にくっついているね。ファルちゃん」「うん」
信じられないけど、兄妹じゃなくて親子らしい。
ちょっと赤みがかった髪の額のほくろが印象的な幼女。
栗色のつややかな髪を持つ綺麗な顔立ちと素敵な笑顔の幼児。
「こっちだ。フィリアス。しっかり走る」「まって。まって」
よくわからないけどファルちゃんの同族って早く走るのが重要みたい。
でもその先。池なんだけど。
『ぼっちゃん』あ。
「とうさん! とうさん! あれ?」
慌てて幼女を確保する私。いけない。助けないと。
「ファルちゃんまって?!」学生服を脱ぎ捨てようとする私の目の前でざっぷんという音と共に黒髪の愛らしい少年が出てきた。
「あなたが落としたのはこちらのきんのファルコですか」
ぐいっと差し出されたのは確か盗賊ギルドにいたコ。
少々ファルちゃんに似ているけど。マートって言うんだったっけ。
どうみても幼児だけどヤクザなギルドの幹部という危ないコだ。
「ちがうわ」「正直者ですね」
『ぼこぼこぼこ~♪』と自分で言って幼児は池に潜っていく。
「では、こちらのぎんのファルコですね」
「ちがう~。ほりぃのおじちゃんじゃない!」「おじちゃんって」
幼児に首根っこを持たれたホーリィさんは泣いていた。
というか、ふざけているの?! いい加減に怒るわよ!
「では、こちらのファルコですね」「そうよ! いい加減になさい!?」
怒る私は学生服を脱ぎ掛けていたことに気付いた。両手が絡まっていたからだ。
「あんた。人の下着を」「見ていない」
まっかな顔でふるふると顔を振る幼児。
首根っこを持たれているファルちゃんは『ぶらんぶら~ん!』と喜んでいたが。
「二人とも。見たわね」「みた」「ごめんなのの」
……。
……。
「あなたは正直者です。ゆえにみんなあげます」
アルダスと名乗ったその子は言う。
幼児三匹がふざけて笑う。「ぼくもついていく」
そういって人のスカートを引っ張ったり、勝手に背中に登ったり。
「わたしも! わたしも!」ぴょんぴょん飛ぶフィリアスちゃんを相手にしながら私は叫ぶ。
「ついてくるなぁ?! 四人も五人もいらないからッ?!」「ぐずっ」
ひぇ?! あなたは違うよ!? フィリアスちゃん?!
「さーたに。ごめん」「ちがうちがう?! この子たちの悪戯が悪いからッ!」
思いっきり拳骨を彼女の目の前で放ったのが不味かった。
泣き出す幼女と自業自得の幼児四人その実オトナを女子高生の私がどうしろと?!
「もうっ?! 何とかしてッ?! アキさんアーリィさん助けてぇ?!」私は叫ぶ。
子供なんて嫌いだ。この世界にいっぱいいる偽子供はもっと嫌いだ。




