ローズ(ロン)・カーペンター
「さーわーたーり~ちゃぁんっ?! あーそーびーましょ~!」
いないって言って。
アタマを抱えて自作した枕に隠れる私。
もちろん身体は隠れていないけど知ったことありません。ええ。
「ロンはああいう奴だからなぁ」チーアは苦笑いして彼。……今は彼女を出迎える。
180センチを余裕で超えそうな長身で筋肉質な美女はなんと男性らしい。
お人よしの多い異世界人の中では飛び切りのお人よしだが、一番の変人でもある。
「もともとはムキムキでエロいし、女好きの迷惑な奴だったんだが」呪いで女の子になっちゃったそうで。そのまま冒険者を引退したとか。
でも、剣の腕と怪力。クロスボウを用いた精密射撃と、本気になった時の情け容赦のない戦いっぷりは隋一でもある。
程よくしなやかな筋肉と形の整った大きな乳房。長くて形の整った手足にしなやかな身体を誇る彼女は誰が見ても美人の範疇に入るのだが私は生理的に受け付けないものがある。
だってそうでしょ? 背が高いから人よりずっと太くても長くて細くて綺麗な手足に見えるけどムキムキよムキムキ?!
「あら? いないの? 残念だわぁ。ミリアさんからクッキーをもらってきたのにぃ」
しなを作る仕草は最近堂に入ってきたけどやや気持ち悪い。
もともとオカマ口調で相手をからかう悪癖があったらしいけどね。
あのクッキーは美味しい。
最近小石を取り除くようになってますます味が良くなってきた。
程よく甘さは抑えられ、ある種の旨みに近い味わいも持っている。
日本人好みなのだ。
「あ。チア。またお料理教えてよ」「げ」青ざめているチーアの顔が想像できちゃうのが。
「ローちゃんになんか美味しい物作ってあげたいしぃ」「オイ」
本気で嫌そうな声を上げるチーア。しなを作るローズことロンさん。
チーアってロー・アースさんのことたぶん好きなんだろうけど全然進展しないのは彼女に大いに原因があるからだと思う。
ロンさんことローズさん……ああややこしいっ?! はそんな二人にやきもきしていろいろからかって進展を促しているらしいのだが。
「お前、塩蒔くぞ」「よくわからないけど、異世界のおまじないみたいねぇ」
この世界では塩は貴重なので喜ばれた。文化の違いを感じる。
とにかく嫌味が通じない。
人が良い。あと怪力で豪快。
竹を割ったような性格の持ち主でファルちゃんも大好き。
ミックさんの次くらいになついているんじゃないかな。
私は苦手。異世界の礼法を教えてくれとか言い出すし。
あと、私より言葉遣いの習熟が早い。
『サワタリちゃんは謙譲語と尊敬語と丁寧語の使い分けが甘い』
日本人でもできないわよ!? どうしてそこまで極めるのよッ?!
横やりで適切なアドバイスを入れるリンスの学習能力侮りがたしである。
「でも参考になるわぁ。『悪魔皇女辞書』の補填作業がはかどるって魔導士ギルドの人が喜んでいるのよ~」
ちなみにこの人、本気で暴れだすと一時的に呪いが解けてマッチョな男に戻る。
全力で相手したくない。悪い人ではないので余計に近寄りたくない。
「サワタリちゃんって面白いし、大好きぃ」「私は嫌よっ?!」「あ。やっぱりいた」
ひらひらと手を振る彼女にまき割りを命じると片手でテキパキ。
やっぱり異世界に元から住んでいる人だけあって経験のない私より手際が良い。
彼女は程なくして大きな棒を持ってくる。
足の指でそれを挟んで軽く飛び跳ねて遊んでいる。子供の遊びらしい。
あ、竹馬に似ているんだ。でも足の指で棒を掴めるってこの世界の子供は凄いな。
たぶん、靴を履いていない子がいるからだろうけど。
「淑女はしない遊びだけど子供のうちは積極的にやるわね」
ほかにも小石で遊んだり、歌でいろいろな知識を語呂合わせで覚えたり。
思うに、この人はこの世界で子供でも知っている『遊び』を私に教えるのが好きなのだろう。
私はこの歳になるまでお手玉なんてやったことがない。
松ぼっくりで遊ぶ彼女のそばで三つ、四つと増えていくお手玉。
最初は慣れなかったけど気が付けば彼女と私の手の間で複数の松ぼっくりが宙を舞い合っている事実に気付いた。
「小さい頃、女の子らしい遊びなんてできなかったし、ちょっと憧れていたのよねぇ」
大柄な彼女がはにかむ姿は相当怖いのだが、美人には違いないので男の人から見たら違う感想を抱くのかもしれない。
男の子は木刀で殴りあったり石を投げ合ったりして陣地を取り合ったり、魔物から隠れるために水を渡って隠れたり泳いだりといった遊びが多いそうだ。
「弓も鍛えるわよ。自分でご飯を食べれるから」「そうなんだ」
「石を投げる投石機のほうが手軽だけど」「やっぱり」
チーアはヨーヨーも扱うけど、玩具ではなく彼女の感覚ではイタチを取るための猟の道具らしい。
「困ったときはなんでも言ってね。ローちゃんに代わって私が面倒みてあげるから」「結構です」
ウインクして気取って見せる彼女だか彼だかわからない存在に私はキッパリと拒絶の声を出す。
泣いていた。ウソ泣き丸見えだけど。
でも、こういった人がいるから、ちょっとは気がまぎれるのかもしれない。
そう考えると彼だか彼女だかわからないこの人の存在はありがたい。
シネ。




