『勇者』の守る街
「ふぃりあすちゃん!」
肉屋のおばちゃん。
無事だったのですね。駆け寄る私。
私の背の上の祖母である幼女に気付く彼女。
「ちょ、ちょっと? アップルちゃん大丈夫?」
「祖母の命には別状ありませんが」
「はなし……かけっ!」喀血とともにまた祖母から幾重もの光線が広がり、空に収束収斂されていきます。
「はし」走れ。ですよね。わかりました。お婆ちゃん。
気絶していたはずの祖母を抱えて私は駆けます。おばちゃんの手を引いて。
「フィリアス!」
お父さんを苛めていた魚屋の悪ガキです。
「来てくれたかッ?!」「え」駆け寄り私のスカートを掴みます。
「どっちに逃げればいい?!」「えっと」
『鷹の目』とともに光の精霊さんたちを空に打ち出すことによる俯瞰視点を持つ私。
もっとも後者はそれほどではないのですが。
動く指先。明確に焔の先をさします。
「あっち。怪我人とお年寄りは向うがいい」
「わかった! おいみんな! 父ちゃんたちに知らせろ!」
「母ちゃん! こっちだ! 俺が店は守る!」
肉屋のあの子は確か今年で十二歳でしたっけ。
「あんたを置いていけないよ!」
すがりつくおばちゃん。
「俺は男だ! 父ちゃんと約束したんだ。
父ちゃんが街を守っている間は、俺が母ちゃんと店を守るんだって!」
きりっとした顔。強い瞳。
男の子たちって。反則ですよね。
どうして短い間でそんなに綺麗な瞳ができるんですか。
本当に。カッコいいです。
「逃げなきゃ。駄目ですよ」
震え声の私。その声を聴いて彼は笑います。
「うちの父ちゃんは衛視だ。世界一の勇者だ。
その父ちゃんが守るこの街は世界一の街だ。
俺は、その息子だ。なんか文句あるか? フィリアス」いいえ。
首をふる私にほほ笑む彼。
消火設備を発動させて回る衛視たち。
激を飛ばしあい、市場を駆けるうちの悪ガキたち。
「今の言葉を伝えろ!」「この町は俺たちが守る!」
「子供たち! 避難しなさい!」「大丈夫! 俺らには『神様』たちがついている!」
駆け出す肉屋の息子の彼。
私の差し出した指先の彼はふと振り返って笑います。
「無茶はしないって!
それより神官様のところに行くんだろ。
あの本に書いてあった言付け見たぜ!
後でピートに言っておけ!
『俺が間違っていた。やっぱこれからは肉屋でも読み書きが必要だ』ってな!」
「おい! うちの番長の言葉を伝えろ! ローラの子供は負けねえぞってな!」
「アップル。神官様が待っている!」息せきかけてくる女の子は私たちを待っていたのですね。先ほどまで流れていた涙の痕が煤まみれの顔からわかります。
祖母より小さな膝は何度も転んだ傷が。
「カタキを討って!」
誰から聞いた言葉なのか。子供には解るはずのない言葉を。真剣に。
「子供がまだ残っています! 隊長!」「救助だ!」
「走れ! 消火設備の水の爆発に注意せよ!」
この街は堕ちません。
落とさせません。だって。
こんなにたくさんの『勇者』が守っているのですから。
その勇者の帰りを待つこどもたちが、こんなにいるのですから。




