ぼくのゆうしゃ
フィリアスちゃん。どこに行くんだい。武者修行かい。
街を出る傍ら、彼方此方から声をかけられました。
淑女が板についてきた私が皮鎧を身にまとっていたり、お父さんが彼方此方で食べ物や私の分の装備品を買い漁るのが珍しかったようです。
それらの品々は私用に伯父が作ってくれた粗末なバックに詰め込まれます。
ところで、伯父は一通りのことはなんでもできるのが自慢ですがバックをかわいらしく作るとかは苦手の模様です。
彼が作る二つのバックのうち一つは重量を無視し、もう一つは大きさを無視できるので併用すれば実質どんなものでも運べるという優れものなのです。
「ファルコ! てめ今度金持って来いって言っただろ! 一度だって持ってこねえッ?! って?! げげッ?! ふぃりあす?!」
涙目でふるふると首を振る父。恐喝されていたのですか。
そんな子供をぽかんと殴り倒したおばさんは肉屋のおばさんです。
彼女は膝を落としてお父さんの両手をしっかり握り、涙交じりで何かを述べていらっしゃります。
ちなみに悪戯ガキは私と伯父さんが捕まえました。
「反省は?」「わ、悪かったよ。ガキ大将」「は?」「ふぃりあす。ほどほどにしておけ」
「弱い者いじめをしない。人からモノやお金を取らない。あとなんでしたっけ?」「ふぃ、ふぃ、ふぃりあすの親父を苛めない」良い返答です。ではお仕置きですね。
「だいたい娘は暴力娘で、こんなチビが勇者なんて信じられない」
悪態をつく彼をぽかんと殴り、肉屋のおばさんは「この方は恩人だと何度言ったらわかるんだ?! ごめんねファルちゃん。元気に育てたつもりが腕白なうえ弱い者いじめをするようなダメな子に」「子供にダメって言っちゃだめなのの。お父さんとお母さんが大好きなまっすぐな子なのの」
そういえば彼は肉屋の露店の仕事をちゃんと手伝っています。父は見るべきところは見ているようです。
「はん? こんな泣き虫チビよりうちの親父のほうが立派な『勇者』だよ! なんたって衛兵様なんだからなっ?!」「だからお前という奴はッ」
ぐいぐいと頭を下げさせようとするおばちゃんに頑として首を下げない彼。
「いこ。フィリアス」「え。ええ?」
思いのほか強い力で引っ張る父に戸惑う私。
「またあそぼうね!」ばいばいと手をふる父。
「おい。この間渡した本の文字、ちゃんと読めるようになっておけよ。てめえの親父はちゃんと読んでいたぞ!」「うっせー! ピート! お前チビのくせに強いからって調子乗りすぎなんだよ!」「言っとくが」「あん?」
伯父はまじめに応えます。小さな胸を張る姿には威厳のかけらもないですが。
「『兄より優れた弟はいない』は嘘だ。その証拠がぼくだ」
「……」
「ぴーと。なんか情けない」
絶句する子供。半泣きのお父さんのツッコミが入り場が収まってしまいました。
後ろ髪引かれる私を二人の幼児の姿をしたオトナが引いて歩きます。
おばさんは前の戦さのとき、まだ生まれる前だったあの子を抱えた身重のまま逃げ遅れ、燃える焔の中でもうだめだと思ったとき。
壁が壊れ、小さな子供が立っていたそうです。
伝説に聞く子供を守る神様を思わせるかわいらしい少年はおばさんを促して逃がしてくれたそうで。
「それが、父さん」「もきゅ」とぼけないとぼけない。
あのおばさんがいろいろよくしてくれるのはそういった理由があるそうです。
もっともあの悪ガキはそんなこと露とも信じていないのですが。
『家族が肝心な時に兵隊でいなかったから』
たまにあの子のお父さんがおうちにお礼に来るけどそれも気に喰わなかったもようで。
「親父はみんなを守ってたんだから堂々としてろ」とか言ってたっけ。
勇者って、いろいろだよね。
「ね。お父さん」「ぐるしい。ふぃりあす」
私の名前はフィリアス・ミスリルと申します。
お父さんの名前は『勇者』ファルコ・ミスリルです。
私にとっての父は世界一の勇者です。
他の子にとっては。ちょっとわかりません。
でも、それでいいんだよね。




