拝啓。ラフィエル様
拝啓 ラフィエル・ライト様
簡略式にて時節のご挨拶を省略させていただきます。
こういう形であなたと文を交わすのは考えてみれば初めてかもしれません。
私とあなたはいつも一緒。お父さんを待っている時も伯父さんを懲らしめている時も二人一緒。
お父さんを待ってお屋敷を掃除するのも、料理を教わったのもあなたからでした。
ある意味、お父さんより長く一緒にいますね。
お元気でしょうか。風邪などひいていないでしょうか。
執事に対してへりくだってはいけませんとか言わないでくださいね。
お父さんは無事です。伯父さんもそうです。ぴんぴんしているうえ相変わらずわけのわからない遊びをしながらも『サワタリ』を倒すために活動をしている模様です。
模様ですというのは二人とその同族、父の仲間たちが私が戦うのを避けようとしているため、なかなか彼らの助けを行うことができない環境にあるからとお伝えしておきます。
こうみえても、私は強いのですよ。そう言いたいのですが彼らは私が手を汚すのを避けているようです。
いつぞやのあなたの言葉を思い出しますね。
数百年を生きたあなたにとっては五年やそこらなど一瞬のことでしょう。
でも、あの時あなたに叱られたから私はニンゲンでいられるのだと感謝しているのです。
ニンゲンでいようと思った瞬間でもありました。
こうして書いてみるとちゃんと手紙の礼法を学んだのに、なんでも書いてしまいたくなります。
色々です。わかるでしょう。意地悪とか昔の私なら言ったかもしれませんね。
アナタは肝心なところで鈍いのでちょっとこれからが心配です。
私がいなくなってもあなたは父の執事でいてくれますか。
あ、私が死ぬってわけではないのです。ちょっとあなたを困らせてみたいとは思いますが。
紙面もわずかになり、そろそろ結びの言葉とあなたの今後の幸せを祈る言葉を書かねばなりません。
でも何を書けばいいのでしょう。下からチーアさんやロー・アースさんたちの声が聞こえます。早く父とともに旅立たねば。
これだけは伝えておかねば卑怯な事だけは伝えておきたいと思います。
お父さんとラフィエル。あなたたちは私にとって特別です。
意味は自分で考えてください。アナタも卑怯な人なんだからわかるでしょう。
答えは用意してくれなくて結構です。どうせ私は旅立ちますから。残念!
あ。一応伯父さんもいるか。いれておいてあげよう。泣くだろうし。
冗談はさておき、お屋敷がああなっているのです。
風邪などひかないように過ごしてください。アキさんたちに宿の手配は頼んでいますのでちゃんと頼ってください。
礼儀なんて役に立ちません。だって取り繕った言葉ではあなたやお父さんに伝えたいことの半分も言えないのですから。
でも、最低限のことは書きたいと思って筆を執りました。
乱文乱筆申し訳ありません。
敬具
フィリアス・ミスリル




