『夢を追う者たち』
おい。ふぁるこ。誰かの声が聞こえます。
「離せ。離して。フィリアス」「ダメッ?! 答えてよッ?!」
「おうちをきれいにしていたら、お父さんが帰ってきたよ! でも、でも。もういやだっ!」
どうしてお父さんばかり傷つくの。
どうしてお父さんが頑張らなければいけないの?!
勇者だから?! そんなの変だよ。おかしいよ!
どうしてお父さんだけが傷つかなければいけないの。
どうしてお父さんがお友達と殺しあわないとダメなの。
どうしてよ。行かないで。行かせないッ?! ここにいてっ!
それはねぇ。父は告げます。
「せ、りーぐとぱぁ、りーぐがぁ。戦うからなんだよぅ」
意味なんてない。わからなくていい。わかっても無意味にしか思えない。
人が戦い合う理由なんて当人たちは真剣だけど他人から見たら理解できない。そしてバカバカしいほど滑稽だと。
私の頭を撫でて呟く父の瞳は慈愛に満ちていて。
「大きくなったね。もう大丈夫」「だめ」
私が大きくなったら、私が結婚して居なくなったら、『サワタリ』と決着をつけるつもりだったの。
私は、邪魔だったの。
彼の手を握る私の手のひらに彼の小さな手が重なります。
「ううん。君は僕に強い力をいつもくれていた。近くにいるときも、離れていてもそばにいた」
「ふぃりあす。お前はそりゃナマイキなガキだが、ぼくは結構お前好きだぞ」私の背から伯父の声が聞こえます。
彼の手に長巻が握られているのがなんとなくわかりました。
「教科書するつもりはないけど、行かせてやれよ」「脅迫?」「そーともいう」
「いやだ」
私は断言します。
「おうちは壊れたもの。待てない。待てと言うならこの場で殺してよ」伯父がたじろくのがわかりました。
「私も、私も連れていって!!!!!!!!!!」
私の名前はフィリアス・ミスリルと申します。
城塞都市国家ローラ王国に住まう淑女でした。淑女を目指していました。
すっと執事が布にくるまれた剣を持ってきます。
いつもの東方片刃剣ではなく、その布をほどかれた刃は彼方此方錆と黒ずみが残っていて。剣ではなく槍の穂先を思わせるそれを。
「お嬢様。お嬢様が成人されたら渡そうと思っていたものです」それは。まさか。
「あなた様のご生母と父である方の形見でございます」まさか、それって。
お父さんの名前は。ファルコ・ミスリル。
この国一番の勇者様で、偉大なる冒険者。
「おーい! ファルコ!」手を振るユースティティア様。いえ。チーアさん。
ロンさん。ミック先生。リンス先生。ロー・アースさん。
偉大なる冒険者。冒険者の代名詞。
如何なる夢をも叶えるとされる喜劇の主人公たち。
「ラフィエルはお待ちしております。この家を守って、お二人のお帰りをお待ちしております。
お嬢様。この世には不変の真理がございます」
お母さんと、本当のお父さん? が遺した剣を握らせ、執事は呟きます。
「ファルコ様たち……いえ。
『夢を追う者たち』に不可能はありません」




