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お父さんは『勇者』さま  作者: 鴉野 兄貴
『黄金の鷹』と『真銀の隼』

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魔神なんていない

 「めたねたはやめるんだふぃりあす」

また伯父が異世界からの『でんぱ』を受けている模様です。

御機嫌よう。フィリアス・ミスリルです。

城塞都市国家ローラに住まう淑女でございます。

「ぐりぐりぐり~」「がんばれぴーと」ちょっと見苦しい状況ですが。ええ。


「あいててて。どこが淑女だよ」「次はほっぺを引っ張るわよ」


 ぶうたれる幼児の姿の伯父に口元をしかめて見せる私。

おろおろとしている幼児は実のところ私の父であり、ある種今回のいさかいの原因でございます。

「魔神について教えて」「やだ」「やだ」平行線ですね。

「ミリアさんのクッキーあげない」「やだ」「やだ」

「ごはんつくってあげない」「自分で作れるんだが。フィリアス。ぼくの料理の腕を知ってるだろうが~」「やだ」「なんでだファルコ~?!」

伯父の料理は確かに美味しいのですが、時々謎の食材が混じりますからね。


 「あのさ。フィリアス。別にファルコは悪気があって黙っているわけじゃないぞ。そりゃ~ちょっとお前に言えない理由があるし、言うわけにはいけないし、言ってもわかんないだろうし……言えば関わることになるから結婚して家を出ていけって言ってるんだよ。そーでなければ子離れできないこいつがそんなこと言うワケないじゃないか~」伯父にしては長台詞です。

でも、そういうことって私が判断すべきことです。オトナなのですからたとえ危険でも覚悟の上です。

「って、言ってるぞ。おい。弟」「みゅ」「みゅじゃね~。ちゃんと娘に応えないと愛想つかされるぞ」「それはいあ」うるうるとした目つきの父ですがなかなか口を割りません。

「うちのフェイスを見てみろ。ぼくと顔もあわさないぞ。子供のころは『とーちゃ~』ってめっちゃ懐いてたんだぞ」「それ、ぴーとに原因あると思う」

獅子という遠方の魔物は、千尋の崖から我が子を落として教育する。

……とは言いますが実践しても怪我ひとつしないのは伯父や父の一族のみです。

フェイスちゃんも苦労しています。ええ。


「魔神っていうのは異世界からの敵だよ。フィリアス」


 びくっとなった涙目のお父さんを制して伯父は真剣な顔で告げます。

「続ける? 言っておくけど関わると死ぬよ。『深淵を覗くものは深淵に見つめられている』っていうんだ。君は深淵というより自由の空に飛び立っていく子だからね。たぶん合わない」「お願いします。でも、伯父さんじゃなくて」お父さんの口から知りたいです。


「魔神なんていない」


 震える小さな手のひらを思い出したように握り。

お父さんは怒りと悲しみのこもった眼で私たちをにらみあげます。

「サワタリは悪い子じゃない」「知ってる。だがアイツもうくるってるからな~」サワタリ?

「うん。前に倒した魔神と同じ能力を持っている。食った生き物の能力を奪う力を持っている。最初は弱いヤツだったんだが飛躍的に強くなってね。あと不死身で何度でも復活する」

それは、理屈上絶対に勝てないのではないのですか。


「友達なんだ」「だったというべきか、なんというか。あ。僕は六回くらいフィリアスに食って掛かってくるアイツをぶっ殺したけど、そのたびに強くなってるからな。もう勝てないし」


 ケタケタと笑う伯父は投げやりな表情を見せます。

「『鉄と血の帝国』との最後の小競り合いを知ってるよね」

そういって彼は父に顎を振って見せます。後は説明しろということの模様です。


 本来ならローラが消滅するほどの戦になるはずだったその小競り合いはお父さんたちの活躍によりほとんど敵味方とも死者は出ずにおさまった。そううかがっているのですが。

「たまに『魔王』って名乗る化け物が出るけど、本物の『魔王』はこの世界には今まで出現していないの」

妖魔王は魔王ではないのでしょうか。そう問いかけたいのですがここでは我慢です。

「でも、まももの王を名乗るだけあって強いの」「それは桃ですよね」「おいしいの」

はい、続けてくださいませ。

「その、魔王を名乗る奴を倒しに行ったんだよな。お前ら」父は首肯します。

『車輪の王国』『鉄と血の帝国』その争いを操る魔物の気配を察知した父たちは暗殺者まがいの手段でその魔物を討ったそうですが。

「サワタリはみんなのために戦ったの」「お父さんたちより強かったのですか」彼は首を縦に振りました。

「ぼくにもせきにんあるけどな~」伯父は厳しい顔で言ってのけます。

「聞いたことない? 『異世界の食い物を食うな』って」「あったようななかったような」

もしかして、伯父の魔物の料理を食べたのですか。そのサワタリさんは。

「ああ。その代償にヤツは魔物の力を得た。ただ、元の世界に戻る力をどんどん失っていった」

それでも、大切な人のため、好きになった人のために『彼女』は魔物を喰らい続け。

「さいごはなまでたべていたの」倒した『魔王』をも食べるサワタリの瞳は狂気が宿っていたと。


 あとはサワタリは魔物と同じように思われるようになった。

そのあまりの強さを目にした人々が『ばけもの』とつぶやき、軽く諌めるつもりで殺してから、彼女は本物の魔物となったと。

「何度も止めようとしたの」「何度も殺してやった」

「だめだったの」「あいついつになってもジョーブツしないからな~」

がっくりしている父と『お手上げ~』とふざける伯父。


 ちょっと二人の話は要領を得ないのですが、その。

「異世界という存在があると?」「ぼくらだって妖精の末裔だ」ですね。

「魔神とはその異世界からやってきた動物や植物、人間のなれの果て?」「ある種の『竜』でもあるね。気まぐれな魔気の吹き溜まりが異界からナニモノかを呼び寄せる。そしてそいつらはある種の竜化現象を起こす。それも耐性が無いから異常に強くなる。『竜』っていうのは『気』や自然現象の具現だ。魔物だって弱いけど『竜』って竜大公のところのガキが言ってただろう」「サワタリは最初は、普通だったの」

むしろ弱かったなと続ける伯父。

「サクラやその娘とは違ったな」「?」

ほかにも私の知らない『魔神』がいる模様です。

「たいていは無害なんだ」「そ、そう」「多少鬱屈しているものはあるけどな。そりゃそうだね。向うはこっちよりもっと平和らしいよ」

なんか、余計ワケがわからなく。幼児の姿の二人に聞いても要領のよい返事が返ってくるとは限らないのです。ましてはいつもぽーっとした父は珍しく感情的になっていて、いつもは見た目に反して理路整然と話すところがそうではなく。

「つまり、その」「サワタリは魔神じゃない。友達だよ」

『サワタリ』なる魔神は、元人間ということでしょうか。

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