嘘吐きは泥棒の始まりなのよ
「嘘吐きは泥棒の始まりよ。伯父さん。お父さん」
「泥棒というか、ぼくら盗賊だけど」意外な反論が返ってきました。
こんにちは。フィリアス・ミスリルと申します。
城塞都市国家ローラに住まう淑女見習いでございます。
自らを泥棒と称した我が父と伯父ですが、彼らの代わりに弁解しますと二人は盗賊と同じく忍び込みや破壊工作、諜報などの技術を生まれながら持つという厄介極まりない種族に生まれついているだけで、別に人様のものを取るわけではありません。
なので、間違っても兵士さんや騎士団の手を煩わせないでくださいませ。
「『氷の魔神』とは? うちのお父さんやそのお友達たちとどういった関係があるの」
事あるごとにこの歳まで誤魔化されましたが、彼らが件の魔物と関わっていることは容易に推察できるのです。
「知らない」そうとぼける彼は我が伯父です。悪意はありません。
私は悪意を見抜く力を持っていますが、嘘かどうかはわかりかねます。
「知っていてももうぶっ殺している」大言を吐く悪癖はありますが、この伯父はそういう方です。
「僕もしらな……」「うそつきは……大っ嫌い」
ぎろりと父をにらむとしゅんと頭を下げます。嘘をつく気でしたね。
「『氷の魔神』なんていない」「うそつき」
「いないんだよ」真剣で、泣き出しそうな父の顔。
「じゃ、伯父さんやお父さんが時々討伐に行く、その魔物はどんな相手なの」「言えない」「同じく」
この二人、口が軽いように見えてものすごく頑固なところもあります。
変なところで兄弟ですよね。こっちには聞く権利も知る権利もあると思うのです。
「じゃ、言わないなら今度そいつが出ても二人を家から出さないから」「無理」「ふぃりあす。それは無理だろ。オマエじゃ僕をとめられないからな~」
涙目のお父さんとふふんと鼻をならす伯父を見比べます。
お父さんに聞くのは望み薄。伯父の失言を待つべきでしょうか。
「ふぃりあす」「なによ。おじさん」
「僕が口を滑らせる前に、僕は君の口を封じることができる」ぞく。
伯父の瞳は今まで見たことが無いほど暗いものでした。
泡立つ肌を隠すように腕を抑える私。心なしか歯が鳴っています。
「なーんてねッ♪」
次の瞬間私のスカートが翻ります。
……。頬に血が上っていくのがわかります。耳が熱くなるのも。
お、お、伯父さん。
こ、このセクハラガキィ~!?!
走り出す伯父を捕えることは至難の技です。
恐ろしく彼は脚が早いのです。しかも小回りが利きます。
私は早々に彼を追うのをあきらめました。陽動だと気づいたからですが。
「伯父さんに気をひきつけさせて逃げる気だったわね」半眼で睨む私と所在なさげに瞳を落として人差し指同士を合わせている父。
見た目は幼児ですが、これでも大人なのです。
なので、兄を陽動に使うことくらい、簡単にできるのです。
毎回毎回毎回毎回、伯父さんにはひどい目に遭っていますからいい加減私も学習します。
取りあえずスカート捲りの復讐は後日にして、本題を聞かねばいけません。
「『氷の魔神』について教えて」「ダメ」
父は人差し指は合わせたままではありますが、はっきりと拒絶しました。
「聞けば、関わることになるよ」「聞かせて。私はあなたの娘です」
「ダメ。君は16になったら婚約者を選ぶんだ。そして平和に暮らすんだ」「勝手に娘の人生を決めないで」
「親の心、小シラスって言ってね。ファルコ。結構おいしいんだ」
いつの間にか戻ってきた伯父は白い粒のようなおさかなの干物をまとめて掴んで口に入れています。
それは『子知らず』ではないでしょうか。
「そうそれ」いつもいつも、この伯父はどうして人の会話をはぐらかそうとするのでしょう。
伯父の術中にはまらぬよう、私は父に向き直ります。
「ページ数が少ないんだから早くして」後で日記に書かないといけないのです。




