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お父さんは『勇者』さま  作者: 鴉野 兄貴
『黄金の鷹』と『真銀の隼』

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おふろ

 もわもわ。

しゅわしゅわ。

たのしー!


 こんばんは。かようなはしたない恰好で失礼。

ローラ市国に住まう15歳で淑女見習い。

フィリアス・ミスリルと申します。


 もわもわする蒸気に喉を癒し、扉を閉めて暗闇でじっとしていると頭がふわふわ身体がじゅくっと熱くて。うん。最高。

身体にオイルを塗って垢掻きを使い、思い出したかのように時折焼石に水をかけます。

じゅわ~!


 へへへ。

お風呂なのです。

女の子ならお風呂が好きで当然ですよね。

もっともチーアさんのそれはやりすぎですけど。

『浄水』の魔法のかかった水を基にした熱いお湯。

これに毎日入る場合相応の魔力を持っていなければその願いは叶いません。

「でも、関係ないものね」「ほら。しっかり叩きなさい」「はい。ユースティティア様」

私たちは慈愛神殿のサウナで身を清めています。

ここは火の山から引いてきたお湯や、いつも熱い魔法の岩があるのです。

「一般にも開放しているから、時間のたちすぎに注意ね」

のぼせてしまった神官見習いさんとそれを目当てにやってくる一般の方がいらっしゃるとか。

女の子同士ですけど、一般でやってくる方はそういう趣味の方も少なからずだそうで。

「ここ、トイレもきれいだものね」「最新式を用意しているわ」

いわゆる糞壺というものはこの神殿にはなく、よそに派遣された純粋培養の神官さんが泣き言を送ってくるのは常だそうです。

「だんだん、私もここのお勤めが長くなっちゃった」

チーアさんってすっごくきれいだなぁ。

胸も大きいし。でも程々で嫌味じゃなくてきれいな形ですよね。さすが半妖精です。黒髪もミステリアスで瞳の色にあっていますし。

手足も長いけど太ももやふくらはぎには冒険に耐えられる適度な筋肉がついていますし、おなかもすっと縦にきれいに割れていて。

「お前」「はい?」急に男言葉にならないでくださいませ。

「女の裸見て楽しいのか」「いえ。誤解です」お母さんみたいな人ですしね。

「あ。そうだ。お母さん」「誰が母さんだ」ぶーたれる彼女の脇腹をつつく私に「くすぐったいわよ」と言って反撃に転ずる彼女。

一応、チーアさんって英雄譚では『気高き聖獣ユニコーンにまたがり、力なき民に勇気をもたらす女神の化身。黒髪の半妖精にして弓の達人。その指先は弓弦ゆずるをもって魔を払い、打ち鳴らす鍋から漂う至高の香りの料理の数々は人々に笑顔を運ぶ。その名は聖女ユースティティア』なんですよね。

「勝手にみんなで人を聖女にしやがって」「あら。聖女様ひどいおことば」

お蔭で三十路になりそうだと悪態をつく彼女。

でもチーアさんは綺麗ですしそもそも半妖精さんですから歳は取りません。

「歳をとらなくても、周りがどんどん結婚で引退すると思うものがあるわ」「確かに」

慈愛神殿というものは組織的構造的に二十歳、遅くて三十路には結婚して引退することを前提として組織ができているのだそうです。

「何度も高司祭を辞したいと伝えたのよ」「何度も却下されているじゃないですか。いい加減あきらめてください」

「そのうち女神にされちまうッ?!」「独身確定ですね。おめでとうございます」

「毎日毎日よくわからない本の暗誦やら書き取りやらやらされるんだぞ。あいつに」「ふふふ」

持祭さんは若いというより幼い方ですが、学問の覚えめでたいですからね。

その代り持祭でありながら奇跡が使えないとお悩みですけど。

「使えるはずなのです。しかし彼女の内がそれを拒否している節があります」「そうなのですか?」

そういえばエフィーちゃんが仲間が欲しいからって持祭さんをスカウトしていたっけ。


「と、いうか、女神様。限界でございます」「そ、そうね」


 重たい体を引きずるように室内から出て、我先に冷たい水に。

「つめたいいいいいいいいいいいいいっ?!」「うっひゃぁあああっ?!」

淑女らしからぬお声が出てしまうのは、きっと気のせいでございます。

「『教養高く、慈悲深く、聖女の微笑みはいわおも溶かす』」「お前嫌味か」

ぶーたれる彼女の顔はちっとも聖女らしくないのですが、私はそんな彼女がとても好きです。

ああ、さむいさむい。手脚がぶつぶつしているし。もう一回入らないと。

「暑い暑い!」「寒い寒い!」引きどころが難しいところです。

お母さんが得意としていたという新雪を使ったお菓子をふるまわれ、私はそれを口に含んで涼みます。これ甘くて酸っぱくて美味しい。

「新雪は手に入らないから氷を削った。『カキ氷』ってサワタリは言ってたなぁ」「……『サワタリ』?」


 楽しげに思い出を語っているかのような口調だった彼女の顔が一瞬かわり。

「あ。その……何でもないわ。今日は帰りなさい」

しゃくしゃくとそれをきっていた匙が震える彼女の手からこぼれ、それを拾った私に、いつもならぬ様子の彼女はそう言いました。


 サワタリ。

誰だろう。お父さんたちのお友達だよね。

名前だと思うけど変な名前。って人様のお名前に失礼ですよね。


 私の名前はフィリアス・ミスリルです。

お父さんの名前はファルコ・ミスリルと申します。

変な名前を付けない程度の分別は、父にもあった模様です。

「変に名前に気合を入れるより、中身を鍛えたほうが良いじゃない」

父はそう言いました。なるほどと思います。

「サワタリって」「あ。ぼくちょっと明日早いから」

そそくさと出ていこうとする彼の頭を思いっきり捕縛して、『お父さん、今夜は一緒に寝よう』と言ってみるのですが。

「年頃の娘さんが何を言っているのです」じたばた。逃げられました。ちぇ。

そうだ。伯父さんに聞けばわかるか。

でも、あの人嘘吐きだからなぁ。悪気はないのはわかるのですが。

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