男親ってモノは娘が心配なモノなんだよ『そうなの?』
私はもう子供じゃないのです。ゆえに酒場で一杯くらい良いじゃないですか。
こんにちは。フィリアス・ミスリルです。現在父と親子げんかの真っ最中です。
「淑女は酒場で呑まないと思うが」黙っていてください。ロー・アースさん。
「それに一五で飲酒は結構きついだろ。まだ身体によくないからやめておけ」
チーアさん。元はと言えば私がお酒の味を覚えたのは。いえ。あえて言わないでおきましょう。
やる気のない周囲の煽りだか励ましを受けながら私たちの口論はさらに熱く。
ひとしきりお互いを罵り終わり、ぜぇぜぇと息をつく私たちはどちらとも言わずにチーアさんに蜜入りの柑橘を頼んでいました。
「言うと思った」すでに用意済みなのがチーアさんことユースティティア様。
「あれだ。酒くらいなら良いだろ。って。なぜみんな俺を見るんだ?」
心底不思議そうな顔を高司祭様はされていました。
彼女は身内の中では酒乱で通っています。
「そりゃそうさ。男親っていうのは娘が心配だからな~」
伯父は私に小突かれつつもそう言ってのけます。「ふうん」
私は彼の頭をがっちりと掴みつつ物思い。この調子で結婚できなかったらもう家事手伝いという名前でお父さんのお嫁さんになってやる。
「なんか不穏な事考えていない?」「なにが」
伯父が言うには男というモノは自分が若いころいかに女の子と遊んでいたか覚えているので基本的に娘が連れてくる男を信用しないというのです。
同時に娘をすごく心配してしまうのだとも。
「本当?」「僕を見ろ」「納得」
尊大に胸を張る幼児の姿をした伯父ですが、私が恵心したように頷くとがっくり。
「でもまぁ何度も娘をくださいとか言われて、やっと今の自分と重なって『ひょっとしたら将来的に精進して今の俺程度には娘を幸せにできるかもしれんな~』と妥協する」「本当に本当?」「あのな。こう見えても僕だって娘を持つ親だ」見えません。そもそも伯父さんいつも遊び歩いているし。あ。だからか。
うーん。
うーん。うーん。
私はあの父の無邪気な笑みとか、無駄な遊びの数々を考えていました。
「そうかな」「ああ。ファルコは違う。なんせあいつ今でも童貞の」「え」
急に取り繕う伯父。冷や汗かいていますよ。
「その。あの。なんでもない」「……」
確かに、お父さんが私を引き取ったのは彼が16から17くらいだったはずです。
あの子供のままで、あの無邪気なままで遊んだり女の子と過ごしたりする時間を私を育てるために。
そう思うと、あの笑みを思い出すだけで泣けて来て。
「あの? もーしもし? ふぃりあすちゃん?!」伯父がぴょんぴょん飛び跳ねながら何事か慰めの言葉をかけていたのに気付いたのは後からでした。
私の名前はフィリアス・ミスリル。
お父さんの名前はファルコ・ミスリル。
私たち親子の絆は。結構強い。
そんなことに気付く程度には。オトナになれたのかな。




