精霊のいたずら
「お菓子をくれないといたずらすっぞ。ふぃりあす」
普段通りの伯父です。ええ。
私が無視すると彼はぶーたれていました。
こんにちは。フィリアス・ミスリルです。
城塞都市ローラ市国に住む淑女見習い。現在クッキーを作っている最中です。
これはお父さんの糧食だから駄目だよ。おじさん。
「おとうとのものはぼくのもの。ぼくのものはおとうとのもの」じゃ、あげない。
そういって胸を張る彼に背を向けると脇腹をくすぐられ。ちょ?! おじさんったら?!
「このセクハラガキ」「横暴だ。姪のくせに暴力とは卑怯だ。淑女のくせに」
ぶーぶー文句をたれる彼はどこからか大量の本と踏み台をえっちらほっちらといいつつ厨房に持ち込み、私と一緒にクッキーの素材を練っています。
型抜きをするといって彼は普段手で形を整えている私の代わりに星形や四角の変わった型を取り出し。
「あ。それ便利そう。貸して伯父さん」「だめ。汚すだろ」けち。
「こうやってバターを塗っておくとくっつかない」「へえ」
ちがうちがう。ふぃりあす。同じ形だけど全然違う。この波型が口当たりの決め手なんだ。
忘れていました。伯父が料理に煩い事実を。
自分自身はトカゲ食べたり焼いたムカデをほお張ったり魔物を食べたりと悪食の限りなのに。
「そうそう。知り合いの上位巨人の夫婦から美味しいジュースを分けてもらったんだぞ。『貴腐』っていってね。すっごくしゅわしゅわして美味しいんだ」「またでたらめを」
伯父の冗談はいつものことですが、こういうのはいただけません。
私には悪意を見抜く力がありますが、悪意のない悪戯は防げるものではなく。
「で。おじさん。これは何をしたの?」「パンの精霊のいたずら」
ふわふわ。ぽっこんぽっこん。
その小麦粉の塊はとっても柔らかく膨らみ。
「これ、ミリアさんのところのパン」「だね」
「すっごくいい香り」「だから貴腐て言ったのに」
焼いたら美味しいよね。というよりすごくおいしそう。
「良ければ、焼き加減も教えてやって構わんぞ」お願いします。
私は素直に彼に頭を下げるのでした。
私の名前はフィリアス・ミスリル。
お父さんの名前はファルコ・ミスリル。
私たちの親子仲は、ちょっといいほう。
あ。大ぼら吹きの伯父さんのことは尊敬はしていないけれど、嫌いじゃないですよ。
「なんだそれは~~~~~~~~~?!!!!!!」「あ。聞かれていたッ!? てへへ」




