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お父さんは『勇者』さま  作者: 鴉野 兄貴
『黄金の鷹』と『真銀の隼』

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56/125

ちったぁ偉大な伯父を尊敬しろ。尊敬していいんだぞふぃりあす

 かわいらしい幼児の姿をした男は黄ばんだマントを首に巻き付け直し、同じく頭に布を巻きなおす。

「で。いつまで出刃亀しているつもりなんだい? まさかぼくに不意打ちなんて冗談なつもり?」


 病室の壁の一部が揺らぎ、歪み、波打つ鱗と脈動する血管のようなものが出てくる。

その血管の塊は絡まり合い、蝙蝠のような翼を形成した。

「あ。そか。ぼくは正面切って戦うのは苦手だからな~。そうでないなら五回ほど殺してやったし、そうしてやってるのになぁ」

しゅっとおもちゃの剣だったものを抜くピート。剣は長巻となる。

「糞壺に隠れたり壁に埋もれたり、本当にあなたは趣味が悪い」

 嘲笑う魔物の声は意外にも女の声。

醜く歪んだ口のようなそれは確かに笑っていた。

「サワタリ。いい加減成仏しなよ。ぼくはいい加減疲れたぞ」悪態をつくピート。額から汗。

私は不死身だと笑う『サワタリ』と呼ばれた魔物。その笑いは波動となって周囲を揺らす。

ピートは知っている。この魔物は風を。音波を操り、武器にすることができると。

「お前では私に勝てぬ。ファルコのほうが正面切っての戦いは強い。それはお前も知るところだろう?」首肯するピートにほほ笑んで見せる魔物。

「でもまぁ僕だって娘を持つ親なんだ」「……」

「いやあ。臭いとか汚いとかこっちによるなとか散々だけど可愛い娘なんだ」「そうか」

「うちの姪に手を出すなら、死ぬまで相手してやらぁ」

その言葉とともに魔物の手足の爪が長剣のように伸びる。

少し釣り目の憎たらしげな、それでいて相応にかわいらしい顔を引き締め、ピートは構えた。ように見えたが。


 しゅっとその鞘が彼の持つ剣を収める。

「『イアイバトー』は私には通用しないぞ。敵を前にして剣を収めるのか」「不要だね」

肩をすくめてへらへらと笑う幼児の姿をした彼に少し人間的な表情を浮かべる魔物。

「その気があればとっくに僕をれる」「……」

「なんか未練があるなら聞いてやるけど? 姪にもよくしてやるんだ。まぁダメ親父だけにそういうのはわかるからな~。ぼくは温厚だぞ~」「そんなものはない」

「あれ? なんか同じようなことを誰かに言ったことあるの? 謝れなかったの」「私は魔物だ。誰かに謝罪することなど何もない」

そう? そうなの? ねえねえそうなの。首を左右に振り魔物に近づくピート。

「よ、寄るなッ」「みゅ?」弟の真似をしてかわいらしく首をよこに倒してみるピート。

しかし彼がやるとどこか憎たらしいというか生意気というかこの辺は人格がでるのであろう。


 隙だらけ。いつでも倒せるはず。

幼児の姿をした暗殺者を前に『サワタリ』と呼ばれた魔物は攻めあぐねる。

この男は底がしれない。実力だけならだれよりも弱い。

だが一方的にたった一人の相手を殺すだけなら彼女のそれをもしのぐかもしれない。

「『氷の劔』。今日のところは引く」「そう? お茶でも淹れてあげるのにぃ」からかうピートの頬は青ざめている。


 やがて病室から飛び立つ影を見送り、彼はため息。

「わすれもんだよ。『サワタリ』」

ピートの手のひらにはいつの間にか敵から切り取った爪のかけらがあった。

剣を収める際にかすった。かすらせたのだ。

「これで、ファルコもちったぁ持つだろ。ほれほれ感謝しろファルコ。あと僕を超尊敬していいぞフィリアス」

安らかに眠る親子を掌でペチペチたたいて遊ぶピート。そして大あくび。

「じゃ、おやすみー」そういって彼も眠りだした。

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