ゆっくりおやすみなさい
私の名前はフィリアス・ミスリル。
城塞都市国家。ローラ伯国ことローラ王国に住まう一四歳です。
どうしてよその国では伯国なのか。資源豊富で前線を担うローラは『車輪の王国』から見ても『血と鉄の帝国』から見てもほしい街だそうで、両国ともに立場上独立国とみなしていないから。だそうです。
でも『車輪の王国』と私たちの国の物流は独立前と変わりませんし、『血と鉄の帝国』だってお父さんたちの活躍のお蔭で最近はおとなしく、けっこうな品々が『白竜の息吹の山』沿いの街道をこえてあちらに向かっているのを散見します。
この間『血と鉄の帝国』で塩が不足したときはお父さんたちが運んでいましたし。
表向きは喧嘩。あるいは無視。
でも普段は仲良く接する。お国のすることって不思議ですよね。
ローラは両国の喧嘩を仲介する役割を今は担っている。そうで。
山国で農作物の収穫が貧相、地下資源豊富。
国民のほとんどが農奴にして帝国兵である『血と鉄の帝国』。
海に面し、世界一の建設技術を持ち、人的資源に優れる。
国民のほとんどが自由民で、志願兵制度をとっている『車輪の王国』ではいろいろとそりの合わないこともあるらしいのです。
父ですか。私の父はファルコ・ミスリル。
この国では『勇者』と呼ばれる、小さな小さな幼児の姿をした人です。
今は傷ついて眠っていますけど。先ほど伯父がくれたミルクが不味かったですね。
いえ、伯父であるところの自称『さいきょーのあんさつしゃ』であるピートの淹れたミルクは美味しかったのですが何らかの薬を混ぜられたらしく。
私はすやすやと父を抱きしめて眠っていました。
「ゆっくりおやすみ。ふぃりあす」伯父の小さな手が頬を撫でます。
伯父も幼児の姿ですが、意外とその掌は固く。
私は父の鼓動の暖かさに。頬の柔らかさにまどろむのです。
私の名前はフィリアス・ミスリルです。
父の名前はファルコ・ミスリル。
私たちの親子仲は、悪くはありません。




