表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お父さんは『勇者』さま  作者: 鴉野 兄貴
『黄金の鷹』と『真銀の隼』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

54/125

私は貝になりたい

「貝を焼く網になる魔法ってない?」


 手習いの一環として魔法を習い始めた私に父はそう尋ねてきました。

網くらいなら器用な父はさっさと作ってしまうのですが。

使い捨ての籠のような網を作るのはとても得意ですし。

「どうして? お父さん手先器用だし要らないでしょ」当時はまだ生意気盛りの私は父に少々冷たかったことを告白します。

「貝、美味しいもん。網になるの」父は網を作る魔法ではなく、自身が網になる魔法を所望している模様で。

「お父さん、貝食べられないよ。私食べちゃうよ」「もみゅぅ」

「じりじり焼かれて熱いかもだよ」「こまるねぇ」

セイザして首を左右にゆっくりふって戯れる彼に呆れる私。

「でも、お握りを焼くとおいしいんだよ」「へぇ」

「バターをつけてもいいし、ミソとかショーユってソースをつけてもいける」父は何かと博識です。ミソは存じませんが。


 この幼児の姿をした男の子は私の父です。

私がもっともっと幼いときは体格がほぼ同じの私を背負って歩いてくれました。

私が幼いときはお兄さんのようにふるまってくれました。

私が子供の時は私がお姉さんぶっていました。

ある程度成長して、父が成長しない種族であるということを再認識したとき、私の心の隅を覆うのは彼と私の血のつながりが無いという、父もその友人も言わない事実でした。

反抗期を過ぎる少し前に本当に彼が私とは血のつながりがまったくない事実を知ります。

こんな小さくて、幼児にしか見えない彼はこれでも。この国一番の勇者様なのです。


 今は、全身を呪詛でおおわれて傷口腐敗の術と戦っていますが。

私は彼の手のひらを握ろうとします。その指先はとても小さくて、頼りなくて。

「お父さん。しんじゃいや」その柔らかくて優しい掌は多くの魔物を傷つけてきたということは知識としては知っていますが実感のわかないことです。

私は。武術大会で木刀を振う。あるいは武者修行にて野の獣と不幸ながら遭遇した以上のことはしていません。

意思を持ち言葉を放つ生き物と戦ったことはありません。

だから、この私の台詞はとてもとても勝手で、わがままなのかもしれません。

それでも私は祈ります。父の意識が戻ることを。あの笑顔を明日も見ることができることを。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ