猫と勇者と編み針と。
ある日のフィリアスの日記
お父さんが座っています。ナニをしているのでしょう。
私が近づくのにも気づかず、彼は四つん這いになっています。
「フー?!」「むにゅー!」
猫のポチとお父さんが威嚇し合っていました。
なにをしているのですか。お父さん。
(委細省略)
お父さんが寝ています。
ポチがお父さんの頭の上におなか全体で乗ります。
あれは苦しいと思います。息ができないのでは。
「ぽち。ポチ。お父さんから離れて」この猫は賢いのですぐに言うことを聞いてくれました。
安心して編み針を動かします。
最近編み物もできるようになってきたのですよ。
お婆ちゃん……もといアップルさんの編み物は編み針を使わず一〇本の指すべてを使う編み物ですけど私はまだ未熟です。
なんとかミスがおきないよう、慎重に慎重に。
間違えたらほどいて、またあみなおして。
マフラーを作るのって結構大変ですよね。
お父さんの髪を少し編み込んだ毛糸はとても頑丈で暖かいのです。
もっとも、父や伯父曰く彼らの髪には少々痛覚があるらしいのでめったにわけてくれませんですけど。
「ぺち」「ぺち」あ、ポチが肉球でお父さんの頭をたたいています。
『遊べ。ファルコ』一瞬ポチがしゃべった気がしますが気のせいですよね。
魔導で加工された不思議な水晶製の窓越しだと風を通さず、暖かな小春日和の香りが心地よいのです。
私はロッキングチェアを動かし、猫と戯れる。もとい猫に遊ばれている勇者を目端に収めつつ、編み針を動かし続けるのでした。
私の名前はフィリアス・ミスリル。
お父さんの名前はファルコ・ミスリル。
お父さんは歳をとらない種族で、幼児の姿ですけど。
猫に泣かされていたりしますけど。これでも勇者様なのです。
本当ですかって? 本当ですよ。
でも、勇敢な姿より、私はそんなお父さんがずっと好きなのです。
あっ?! ポチ?! その糸玉で遊んじゃだめぇ?!




