妖精のお茶会
『たき火を炊こう』『楽器は持ったかい』
むにゅむにゅ。おとうさん。夜中に楽器で遊んだりしないでね。
楽器と言えばお父さんの同族のらしぇーば? らしゅーば? どちらか忘れましたがその方が得意なのです。
もっとも父も伯父も楽器や歌は本職顔負けでして、父の同族に音痴は基本的に存在しないらしいのですが。
一応。申しておきますが私は音痴ではありません。ただ、ちょっとばかり父の一族ほど歌や楽器の技術に劣るだけです。
……ホントだよ?
『この子はどこから来たんだろうね』『南のヒトのたまる石造りの森から』
『この子を誰が呼んでいるのだろうね』『北の冬山吹雪荒れる山懐。隠され滅びた楽園』
『風が彼女を呼んでいる』『おやいやだね。彼女には翼がない』
『この子の靴を見てごらん。泥と汗にまみれている』
『まるで人の子みたいだねぇ』
『草原を駆け抜ける子供たち』『因果律に愛されし一族の香り』
『風の外套を彼女はどこに忘れたのかね』『心の中に』
『自由への翼をどこに彼女はしまうのかね』『絆の狭間に』
たき火は重要です。
世界に蔓延る悪意。悪気は蔓延して集いて『竜』となり、災害や邪悪な魔物となる。
これは竜大公様の縁者である竜族の彼から教えられた世の理だそうですが、たき火をたくことでこの悪意から身を守ることができます。
薪はエルフ。神族からの贈り物。
古の神気をもって悪なる気を退けて旅人は夜を過ごすことができるのだそうです。
たき火を炊かずに夜を過ごす場合、夢に入り込む悪意や夢魔を退けることができずに狂い死ぬと伝えられ。
でも私、ロー・アースさんから発火の魔術とチーアさんの炎の精霊術を教え込まれているから安心安心……。
……。
……。
寝ぼけた瞳。夢か現かわからない。不思議な夢を見ました。
小さな妖精たち。人の姿もいれば蛙や虫などの姿のものもいます。
彼らは楽器を手に集い、私のそばで円舞を舞いだし、円舞からのびていくきのこがにょきにょきと空に向かって伸びていきます。
甘い香りにこおばしい香り。お酒の香りに甘い飲み物の香り。
乱痴気騒ぎを楽しむ彼らの中央には眠りをむさぼる私。
『妖精の娘に祝福を』『勇気に祈りを。祈りに愛を』『舞えよ舞え。歌え未来』
『乙女の未来は無限に広がる』『未来一つ一つに私はこの歌をささげん』
妖精の円舞を見たものは異世界に連れていかれる。
お父さんはその怖さを散々に語っていましたが自身も妖精さんなのに不思議ですよね。
曰く、自分も妖精の世界に行ってみたいので調べた。そうです。
うーん。うーん。それってどうなのでしょう。
『妖精の娘に祝福を』『勇者の娘に光あれ』『闇夜よ彼女を守りたまえ。悲しみからその細き腕で赤子を守る母のごとく』
私の名前はフィリアス・ミスリル。
お父さんの名前はファルコ・ミスリル。妖精の騎士にして勇者。
私はお母さんのやさしさを。たぶん知らないかもしれません。
でもきっと。私は優しいお母さんになれる。
そんな不思議なぬくもりをいつも体に。心に感じることができるのです。
目が覚めると、あのきのこの輪はなくなっていました。
夢だったのかなぁ。なあんだ。
少し枯れている下生えの輪。こんなものあったかしら? まあいいよね。
今日は森の奥のきのこをいっぱいとって、武者修行の成果としましょう。
毒キノコかどうかは。父に判断してもらいます。
毒見をさせるつもりでは。ないですからね?! もう父を苛めるような歳ではありませんからそのおつもりで。