13歳っていいですよね
ここで休憩してもいいかな?
ごきげんよう。フィリアス・ミスリルです。
ローラ市国に住まう13歳。淑女候補なのですが。
私は手ごろな岩に腰かけ、ランチボックスを広げます。
周囲を警戒する光霊さんを解き放ち、『万華鏡』を発動。
手作りのお弁当。汗をぬぐって額に押し上げるは父の友人の不審人物Rさんから贈られた眼球と顔面を守る黒水晶を魔導強化した大眼鏡。服の下には伯父から贈られた謎の毛皮でできた皮鎧。首筋のマフラーは蜘蛛糸でできた装甲繊維。
そしてドワーフ王族から贈られた使い手次第ではミスリル銀の剣をも斬り裂くとされる『東方片刃剣』の大小を腰にさした私。
どうみても淑女ではありませんよね。ふふ。
ローラ市国から遠く離れた森の中は暗く恐ろしく一度入れば戻ってこれないと言われますが私にはもともと大地の磁気を『見る』能力があるため道に迷ったことなどほとんどまったくありません。
磁場が乱れている地域だとほかの子と違って『酔い』ますけど。
「ここ、きれいだな」
一応、妖精さんたちの『きのこの魔法陣』が無いかの警戒は怠りませんが。
鬱蒼とした森の中にある広場は穏やかな日の光と優しい風が吹き。
程よい暖かさ。どこからか聞こえる小鳥の歌声。足元には柔らかい草の感触。
お弁当はとっても美味しくて。あーあ。お父さんと来たかったなあ。
ローラでは早くて12歳。13歳から14歳になると『武者修行』と称して何らかの冒険を行う風習があります。
他国でいうところの成人の儀に近いのですが。
学友のやるように『近所の墓場でお爺ちゃんの墓石に”バカ”って書いた』とか、『お母さんの伯父さんのカツラを奪って南地区の教会の鐘楼につるした』とかそういった莫迦げたいたずらでも大人たちは許容します。
というよりローラの子供たちにとって『武者修行』は悪戯の言い訳として大いに有効という認識で間違いありません。
お父さんの許可がなかなか下りなかったけど、この間の準優勝騒ぎで父もしぶしぶ認めてくれました。
最初のそれはピクニックと変わりませんでしたけど。ええ。
竜族の隠れ谷や天使の村を目指すピクニックというのは珍しいかもですけど。まぁ父ですし。
今日のお弁当は不思議なかごでできたランチボックスに詰まったおにぎりとおかず各種。父の好む『おちゃ』その他です。
けっこう美味しいのですよ。父や伯父さんの使うバックは取り扱いが難しいですけどなんでも入って便利ですし。
「ここで居眠りしてもいいのかな」そういえば、この広場って見覚えがあります。
幼いころ、伯父と一晩過ごした広場ではないでしょうか。だとしたら近くに釣りができる川がありますね。さすがに口の化け物はもう出ないでしょうし。
私の名前はフィリアス・ミスリル。
淑女見習いですけど、勇者の娘。
父の名前はファルコ・ミスリル。
勇者なのですけど見た目は幼児。
私だって淑女修行など忘れて幼心にかえって羽を伸ばしたい日だってありますよ~だっ!
ちょっと冒険者の真似事をしたって許されるでしょう。たぶん。
もともとスペックが高かったフィリアスのお転婆。
ファルコの歯止めが効かなくなってきました。
「だってお父さんの娘だもの」納得。




