ぷにぷに
お外は雨です。
こんな日はおうちでガリ板にお絵かきをして遊びます。
こんにちは。フィリアス・ミスリルです。
ローラ王国に住む12歳です。
先ほどまで一緒に幼稚な絵を描いていた父ですが現在私の腕の中に。
彼の丸い耳はとっても柔らかくて触り心地が良いのです。先端が少しとがっているのは妖精さんの一族の証だそうで。
「ぷるぷるしていて楽しい」「やめて~」嫌々をして涙目の父を無視して私は彼の耳たぶをつついて遊びます。
隣にすっと音もなく立つ執事は止めようともしません。
本当の意味で問題な場合だけは止めるとは彼の弁。
「らいど。だずげて」ぱたぱたと短い手足をぱたつかせて涙目の幼児は私の父です。
もっとも血のつながりはありません。でもすごく私をかわいがってくれるんです。
私ってお父さんに素直になれない嫌な子なのになぁ。
「うーん。チーアさんやアキさんが遊びたくなる気持ちがわかる」「やめて」
揺り椅子に座ってひとしきり遊んだ私は気が付いたら彼を抱きしめて眠っていた模様です。
いつの間にか父が羽織っていた毛布を抱いて、自室の小さな寝台に移動して眠っていた私は執事に聞きました。
「お父さんは?」「『氷の魔神』の被害を抑えるために旅立たれました」
そう。一言言ってくれたら謝れたのに。
「旦那様はそういうお辛いことはお嬢様には一言もおっしゃいませんからね」知ってる。だから大好きだけど。大嫌い。
思いついたように私は執事の服のすそを引いてみます。
小さいころの記憶より彼はずっと小さく。変わらず優しく。
「ラフィエルも嫌いになっていいかなぁ」「わたくしごときがあえて言うことはできませぬが家事の邪魔だけは行わないよう、切にお願いします」ふふ。
フィリアス・ミスリルです。
周りの男の子は子供ばっかりでつまらないです。
でも、一番身近な父とラフィエルはもっと子供みたいなんです。
こういう場合、ほかの女の子みたいに誰に恋すればいいのでしょうね。
「まずは旦那様としっかり話し合うことが肝要ですよ」それができないから困っているんじゃない。もう。
お父さん。
無事に帰ってきてね。
勇者の娘がそんなことを祈って良いのか。疑問ですけど。
魔物にだって家族や子供がいる。
そんなことがわかる程度には私も大人になってきました。
私って勝手な女の子ですよね。
お父さんの名前はファルコ・ミスリル。
城塞都市ローラ王国はローラ伯を助けて独立に導いた勇者の一人です。
そして、私にとって最も身近で、もっとも遠い他人で。父で。勇者様で。
恋人ってどんな人が良いかなと思うと漠然ながらも考えてしまう人なのです。
同時にすっごく反発心が湧きますけど。ええ。




