きもちわるくて自分が怖い
「男の子が怖いってか」オンナの考えることはわかんないねと告げる彼。
お父さんやラフィエルと結婚したいと小さい頃はよく口にしてはいましたが。
フィリアスと申します。
私だって親子が結婚できるなんて思っていません。
そもそも私と父とでは明らかな体格差がありますし。
物思いに耽っていた私の眼前に唇を尖らせた伯父の顔。思わずおぞけと共に頬が熱く。
「で。実は結婚できるとわかって男を意識してしまったってとこだな」
伯父は妙に鋭いところがあり、私ですらわかっていなかった私の内心に土足で踏み込むところがあり。
その代償に彼の頭に新しいこぶがふたつほど増えました。ごめんなさい。
「まぁラフィエルはさておき、ちょっとお前は親父を意識しすぎなんだよ」
彼の娘さんも反抗期だそうですが、私と少々扱いが違うらしいのです。
「フェイスはちょとなぁ」「同じテーブルで食べたくないとか言われるって」
彼の場合放浪がひどすぎるので当然の反応かもしれません。
「下着も一緒に洗うなって言われる」「あはは」さすがに私はそこまでではありませんね。
どどんと落ち込む彼の背中をぽんぽんとたたいて労わる私に悪態をつく彼。
「私、本当はもっと」どうしてこんな嫌な子なんだろう。
本当はみんな大好きなのに。
「そんなもんだぞ~。素直になれないのは今の特権だからな~」彼は「食べる?」ミリアさんのクッキーを出してきました。
ポリポリとした歯触りはナッツが入っているから。
さくっとした柔らかい口当たりや口どけしていくその甘味は絶妙な焼き加減。
そういえばおなかがすいていたのですね。私がそれを食べている間伯父は小さな短剣で何か細工物をしています。
「その。あの」「おとこって怖いというか気持ち悪いというか。それが何故か自分の身体にぞぞって来るってか。わかるわかる」
どうしてわかるのよとつぶやくと彼はにやり。
「僕らには額を合わせた生き物の心を感じる能力があるからな~」
先ほど頭突きを誘ってきたのはそういった意図もあった模様で。
「でもなぁ。それって『好き』って気持ちの裏返しだからな」こんなおぞましいのに? 震える身体に伯父の愛用のマントがかかります。
「大丈夫だよ。最初にそう感じるのが親父なら、ある意味名誉さ」そういって笑う彼。
「ふぃりあす~」ほら。呼んでるぞ。どうするよ。
笑う伯父。近寄ってくる足音。
私は。私は……。
『すき』って。思ったよりおぞましくて。気持ち悪くて。怖くて。
自分じゃなくなる不思議な怖さがあって。なのに後ろ暗さが心地よくて。
「あ~。やだやだ。子供のせわは疲れるよ」悪態をつく伯父を軽く蹴る真似をしながら、私は父のもとに。
私の名前はフィリアスと呼ぶそうです。
父の名前はファルコ・ミスリル。
私は父の子供どころか、人間さんでもないらしく。
でも、やっぱり私は父の子供で、伯父の姪でありたいようです。
こういうのはアサマシイというのでしょうか。




