【過去話】おやしきを手に入れました(999文字)
「うげえええ」
チア。またはチーア。
本名はユースティティアと名乗る少女は嫌そうにつぶやいた。
「まさか報酬がこんなぼろ屋敷とは」彼らのリーダーである青年であるロー・アースは苦笑い。
「歴史のある建物のようですね。ひょっとしたら街よりも」青年が建築様式の違いから年代を推定するに都市より建物のほうが古いのではないかと己の意見を表明する。
「今からお掃除? お掃除してから引き渡してほしかったわぁ」長身。やや筋肉質の美女が悪態をつきながら口元に布を巻き、喉を傷めないようにと配慮する中、銀色の髪のエルフが『良い家。古き精霊の祝福を感じる』とエルフらしいコメントを放つ。
壮絶な埃の臭いに喉をやられそうになりつつ彼らは蜘蛛の巣の残滓を掃い掃除を開始しようとしているが。
「餓鬼族の巣の『掃除』のほうがマシだな」と悪態が少なからず漏れる。
「姫様に言ってやりたいね。掃除してから渡せって」悪態をつくチアに。
「掃除をするから今すぐ挙式を。そういわれるでしょうね。勇者殿」揶揄を放つ半妖精の青年。同じ半妖精の黒髪のチアは『ぶっ』と噴きだした。
楽しそうな笑い声を放つのはファルコという幼児の姿をした少年と彼の連れである幼女だけ。
埃の塊を指で取り除いて絵を描いてみせたり、破れたカーテンにぶら下がって遊んだりとご満悦。
おんぼろの絵画の後ろに回って紳士の声真似をする二人に苦笑いする仲間たち。
「おーい。掃除手伝ってやるんだからお前もちゃんとしろ~」チアの台詞に喜色満面。
ぱたぱたっ! と歩み寄るファルコの手には巨大な樽が。
どすん。その幼児の姿に似合わぬ怪力でそれを仲間の前に置いた彼。
同時にもうもうとした埃が舞い立ち、げほげほと仲間たちはたまらず咳をする。
その咳の原因をエルフやチア、青年が魔術で取り除き、青年たちが襤褸と使用に耐えるものの区別をつけていく中、ファルコは樽の中身を空けて笑う。
「みて! 塩漬け肉!」何年前のものだ。
こんなもの間違っても食べられるとは思えない。
「だいじょぶ! ぼくらびんぼーだから!」
無理だから。チアはあきれる。
こんな奴に子育てなんてできるのだろうか。あきれるチア。
「おとーさん。もっとあそぶ」幼女が呟く。
「今日は探検だよ」「たんけんってなにぃ?」幼女が不思議そうな顔をして問う。
「このお屋敷の中を調べるんだ。面白いものを見つけたら優勝」「やる~」
喜ぶ幼女にほほ笑みながら気の良い冒険者たちは掃除を再開した。




