12歳になりました
フィリアス・ミスリルです。12歳になりました。
といっても父は相変わらずで成長の兆しも見せません。
端正な顔立ちも透き通るような琥珀色の髪もほっそりとした長い指先。
体格からすれば長くて細い手足。
このまま成長しないと思うと少々どころかすごく勿体ない気がします。
間違いなく、ファルコさん……西方都市国家群の勇者さんより美男子になると思うんだけどなぁ。
ファルコさんと一緒に歩いているとちょっと面白いのですよ。女の人の目線が凄いのですが彼は女性が苦手でして。
ロンさんに言わせれば腹が立つらしいのですが彼はあの性格だからこそ女性にモテる部分もあるのでしょう。たぶん。
私ですか? ええと。その……『女の子にちょっとなった』かなぁ。とだけ。
オトコノコよりちょっと背が高いのは歳相応として、胸が少し。
ほんの少しですよ?! その。膨らみだしてきました。
オトコノコたちは子供にしか見えないと女の子の学友の皆が言いますが私の場合父からしてアレですから。
あ。私自分の父をアレっていっちゃった。まぁいいや。アレだし。
そういうと父は本気で泣き出すのですがちょっといい気味です。
そうして父を苛めているとラフィエルに叱られました。ふん。なにさ。ふたりして。
このまま私は歳をとって。もっと美人さんになってしまって。
男の人に抱かれてほほ笑んで、そして歳をとって子供を抱いて。
それでも父は歳をとらないのでしょうか。あの笑顔のまま私のそばにいてくれるのでしょうか。
それは。とても考えたくないことです。正直言って怖いのです。
私、人間ですよね。妖精さんかもしれませんけど間違いなく父とは種族が違いますよね。
私の本当のお父さんやお母さんはどんな人なんでしょうか。
ひょっとしたら人間ですらないのでしょうか。
指先をそっと空に向けて動かすと小さな風が吹きました。
魔法の力はミック先生やリンスさんやチーアさん。ロー・アースさんに学びはしましたがこれはそれとは少々趣が異なるようです。
私はいったい、何者なのでしょうか。考えてみれば私は5歳以前の記憶がまったくないのです。
私が父やその家族、その友人と思っている人たちは本当はどんな人でどのような理由で縁もゆかりもない私を育てているのでしょうか。
私の名前はフィリアス・ミスリル。
彼の名前はファルコ・ミスリル。
ひょっとしたら私はミスリルの一族じゃないのかもしれません。
ただのフィリアスになったとき、私は誰と歩めばよいのでしょうか。
父が必死で探しているのが市場のはずれに佇みながらもわかってしまいます。
私は彼に笑顔を見せるべきなのでしょうか。謝るべきなのでしょうか。
それともだましていると彼を責めるべきなのでしょうか。
解らないのです。それでも彼が好きな自分が悔しいのです。




