おちゃ おつきさま でんせつのゆうしゃ
父や伯父のたしなむ遊びは理解不能のものが多く、特にお茶の淹れ方の遊びはちょっと複雑で私の手に余ります。
あの緑色の不思議な液体のおいしさは最近やっと理解でき始めたところですがとにかく苦いのです。
そして厳密できれいな手順と言うのが決まっているのみならず、会話などにも作法があるそうで。
「うつわをまわすの」「けっこうなおてまえなの」
「こよいのちゃがまは」「まるでまつのあいまからきれいなおつきさまがみえるようなのの」
父や伯父の感性に従えばこのおんぼろの窯には松の文様が施されており、その地味な姿がかえって夜の星や月の輝きを脳裏に描ける。そうなのですが。
「ゴミですよね。これ」
相変わらず二人とも変なものばかり持ち帰ります。
「ごみじゃないんだよ~ふぃりあす~」「うむ。僕らにとってお茶は重要なんだ」
本当かなぁ。でも二人とも暇があったらどこからか湯呑を取り出してきますね。
「この地味さがね、そうぞうりょくを鍛えるんだ。ふぃりあす」伯父がいうとどうしても疑ってしまうのは私の悪い癖ですね。
お茶。緑のお茶は父の同族や北方の凶暴な騎馬民族がそれをたしなむので父の同族や彼らがそれを育てて異国に販売しているというのが一般的な考えですが、本当は東の果ての国にある植物の葉を飲用のために処理したものを父の同族たちがその健脚と妖精の舟を駆使して輸入してくるそうです。
「野菜を取らないと病気になるんだけど、それを補うことができる」「眠気覚ましにもなるし気持ちが落ち着くんだよ」
とにかく、すごいものみたいです。
「脚気を防げるんだよ」それは嘘ですね。
「あれ。人間の学校では伝染病って言ってるけど嘘だぞ。
チーアに聞いてみな。野菜をしっかりとれば防げるんだ」
学校で嘘は教えません。伯父さん。
確かにチーアさんことユースティティア様は偉大なお医者さんでもあらせられます。
ローラの大きな施療院は『車輪の王国』の戦神神殿のそれを参考につくられていて、お医者さんを育てるための学校も付属しているのです。
戦乱の爪痕が残るこの国では医者を志す若いお兄さんお姉さんに加え、各国から派遣されてきた各神殿の神官たちが信仰の垣根を越えて学んでいる姿を見ることができます。
「うそをついていなくても、そう信じていたらうそより困るし、にんげんのいうことのほとんどは『そうだと信じていること』なんだよ。ふぃりあす」
尊大に胸をはる伯父はいもむしごっこに飽きて柄杓で水を幾度もすくってぴちゃぴちゃと遊ぶ父を指して小声で息をひそめ、こうつぶやきました。
「『アレ』。酒場で謡われる物語では超絶美形の長身で、魔剣『霧雨』を振り回す伝説の勇者なんだぞ」
大いに納得できる案件でした。
私の名前はフィリアス・ミスリル。
お父さんの名前はファルコ・ミスリル。
私たちの親子仲は。結構いいと思う。
ちなみに、私の父であるファルコ・ミスリル。
そしてお父さんの旧友でもある『西方都市国家群』の勇者さんは名前が同じ別人なのです。
一緒にしている方が少なからずいらっしゃるようですが当人たちはあまり気にしていない模様ですよ。




