お父さんが私のよそ行きの御服を来て学校にやって来た
うちのお父さんは勇者さま。らしい。
らしいというのは。その。私の話からでよろしいでしょうか。
ちょっとだけ待ってください。
今朝、お洗濯を終わらせた私は授業参観で少し遅く始まる学校に向かい、お父さんたちを待っていました。
学校には沢山の貴族や大商人、神官の子弟がいて、その中に貧乏屋敷に住まう私が混じっているのはちょっと違和感。
それでも私がここで学べるのはかつてこのローラ市国(王国を自称していますが)を妖魔王から守った英雄の娘。だからだそうです。
正直、お父さんと一緒に市場で遊んでいるほうが好きな私には実感が欠片もありませんが。
お父さんは偉大な勇者様。らしいです。
時々練兵場に姿を現して、指導している姿が散見されたり、魔物を討伐するために辺境に旅立って数週間帰ってこないこともあります。
多くの人が誤解しているように、お父さんは英雄談に出てくるような筋肉ムキムキだったり、星も射落とすほどの美男子というわけではありません。いえ、容貌が優れているのは万人が認めるのですが、方向性が少々ちがいまして。
見た目は。その。
そうですね。現在、私の。
私たちの席の後ろでフリフリのスカートと、何故かリボンをつけて、皆の注目を受けて真っ赤な顔で恥ずかしそうにうつむいている可憐な六歳くらいの幼女……がそうです。
「フィリアスちゃんの妹?」違います。それは父です。
「かわいー! 誰だろ!」男ですよ。その子。というか父です。
父曰く彼は妖精の一族だそうで容姿が変化しないだけです。
その愛らしい容姿からご近所の皆様に可愛がられ、慕われ、
悪餓鬼にイタズラされてはピーピー泣いているのがうちのお父さんです。
毎晩酒場やお昼の広場で謳われる勇猛果敢な勇者さまにはどうみても見えません。
というかそのスカート、私の余所行きとして衣装箪笥に仕舞っているはずのものなのですが。
当然ながら夕食の席で私たちは親子げんかになりました。
「どうしてあんな格好できたのよっ?! 妹がいると誤解されたじゃないッ お父さんのばかぁっ?!」
「ふぃりあすが、僕のふく、ぜんぶ洗濯したからじゃないかっ?! なののっ?!」
私の名前はフィリアス・ミスリル。
お父さんの名前はファルコ・ミスリル。
私たちの親子仲は、結構いいと思う。