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お父さんは『勇者』さま  作者: 鴉野 兄貴
『黄金の鷹』と『真銀の隼』
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大人になるのが怖い話

「そろそろフィリアスにもこれを渡しておかないとな」


 チーアさんはいつになく真剣な顔をしてやってくると妙な葉っぱを何枚か。

なんですかこれ。シューロ? でしたっけ。確か餓鬼族の王国で栽培されているって伺いましたが。

確か細かい繊毛を持っていて止血したり実を食べたり絞って真水を作ったりできると学校の先生に聞きました。

「詳しいな」「お父さんとかかわりがありますし」

チーアさんは苦笑いすると「最近おなか痛いとか血が出てたとかないか」とか謎のセリフを。

……あれ?


 私はかねてから不安に思っていたことを彼女にぶつけます。

こういうことって『あのこ』とアキさんとかにしか言えないのですよね。

お父さんやラフィエルに話すのは。なぜか怖くて。

「あれですか? 学校で女の子たちだけ集めて話した話」「へぇ。この国ではそういう風に教えるんだ」

男の人とどうやったら子供ができてしまうかとか、子供相手でもそれを強要する変態がいるということの再確認。

ほかにも女の子の身体の話とか。


 うちはお前のところと一緒で男親だからなぁ。

お前のことが他人とは思えんのよ。ほら、このしゃべり方のほうが気楽だし。

チーアさんはそうおっしゃいますけど、たぶんチーアさんの素のほうは優しい女の子のしゃべり方だと思うのです。本人には内緒ですけど。

「気楽なのはしゃべり方じゃなくて旧知のみんなじゃないですか。チーア高司祭様」「ちぇ。気取りやがって。小うるさい持祭のあいつの真似しなくても」

そう言って頭をかく彼女は男の人みたいですが、そういった仕草は本当の彼女のそれではないのです。

伊達に高司祭なんて若くしてやっているわけではないのですよ。

「というより。『高司祭さま』って言われたら一人しかわたしの頭の中にいなくて」そのギャップが大変だと明かすチーアさんだけどチーアさんはチーアさんでお国のみんなに好かれていると思うのです。

たぶん、その女の人はとてもステキな人だったと思うのですけど。

「あと、舐めちゃいけない。アレ痛えししんどいんだ。もう慣れないうちはほとんどうごけねえ」「あら。高司祭様。ひどいお言葉遣い」気取って見せる私に苦笑いのチーアさん。

本当はユースティティア様っていうのですが、お父さんのオトモダチはみんなチーアとかチアとか呼ぶんです。


「あいつはあほか」「人の父親を莫迦にしないでください」


 本気で怒るわたしに「悪い悪い」と告げるチーアさん。

子供のころのように肩車をしようとスカートの中に入った話をするとあきれる彼女。

「懐かしいな。俺もそのころ、男がすっげー怖かったよ」「……なのですか」

正直、チーアさんが強いなんてかけらも思いませんが、それでも彼女は父の仲間なのです。国を救った三人の勇者の一人ですし。

「そうそう。お前の親父やロー・アースが俺の寝ているところの近くを通るたびに飛び上りそうになってさ」「うん」ちょっと他人ごとではないのです。

わたしも先生からあんなに脅されて男の人を見るのが怖くなっちゃったから。

「でも手を出してこないのさ。なんかかえってムカついてね」「え」

あはは。今なら笑い話だねと語る彼女にぽかん。そういうものなんですか。

「特にファル……お前の親父には世話になった」「父に伝えておきます」

いいよと笑うチーアさん。「まぁ。そういうわけで俺も高司祭様と同い年になろうとしているんだけどな」ふふ。その人、すごくステキな人だったのですね。

「うん。まぁ……そうね」「教えてください」私が見上げると彼女は困ったようにつぶやきます。

「でも、私生活はちょっと……な人だったわ。どこか子供っぽくて危うい人」「表には出さないのが淑女でございます。大好きだったんですよね」

 にこりと笑って返答を待つ私に。

なんだよ。今から腹黒かよ。まぁいいや。

そういってチーアさんは素敵な女の人の話をとっても懐かしそうに語ってくれました。

優しくて強くて。恋に不器用だった一人の女の人のお話を。


 私の名前はフィリアス・ミスリル。

お父さんの名前はファルコ・ミスリル。

私たちの親子仲は、けっこういいと思う。

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