『お父さん。助けて』
神の剣よ。神が与えたその刃よ。
もしあなたに慈悲があるのなら。私の願いを叶えてください。
『翼よ。自由の翼よ。すべての因果を打ち砕け』
エアリスお父さんの声は幻聴だったのでしょうか。
私は目を覚ましました。
眼下に広がる青い青い光を受けて白く白く輝く雲の海を。
私の腕の中、『神の刃』を握る父。ファルコ・ミスリルを。
『とべとべとんじゃえ~』
斥力結界と重力結界を展開して高速移動しつつ、きりもみ飛行で彼と戯れる母の記憶に一瞬触れました。
少しだけ、こわばっていた腕の力が抜けたようです。いい意味で。
「お父さん! いくよ!」
広い広い雲の海の真ん中、大きく大きく広がり、呪いと疫病をまき散らそうとする竜の翼。
私は狙いすまして父の小さな身体を結界の力で吹き飛ばして。
『ふぁるこ・みすりるぅ?』
怨嗟の声とともに放たれる疫病のブレスを切り裂き、『神剣』は光り輝く巨大な柱となって雲を切り裂き、大地を引き裂いていきます。
雲海を覆い尽くさんとする巨大な竜の、縦に割れた瞳孔が見開かれ、その口から悲鳴が漏れます。
竜の声ではなく、少女の声で。
「怖いよ。お父さん怖いよ」
「お母さんを助けられるの。すぐに戻るから」
「お父さん! 助けて! 怖いよ! 怖いよ。 お父さん。助けて」
大きく息を吸いました。
そして吐きだします。思いのたけを込めて。
雲を引き裂き、大地を切り裂き、運命をも変える私の勇者。
『勇者はな。ふぃりあす。うちのお父さんだ。兵士さまなんだ』
『父とは疎遠ですが、向き合ってみます。声なき声を貴女に頂きました』
『ラフィエルはお待ちしております。お嬢様と旦那様の帰還を。この家にて』
「ファルコ・ミスリル!!!!!!!!」
掲げられたその掌。
光りかがやく大きな大きな光の柱と化した『神剣』。
遠くから見ればまるでちょうどいい大きさの剣のよう。
私はその刃を握るように手を伸ばします。
父とともに、こころの内でその剣を握ります。
「躊躇っちゃダメぇっっ! お父さんっ!」
未来を救って。沢渡さんを救って。
私を。みんなを救って。世界だって。
「「うなれ! 『神剣』。運命を切り開け!」」
私の、私と父。ロー・アースさんたち。
街のみんな。世界の人々の声。それが重なり、大きな光の柱と化した『神剣』は雲を切り裂き、大地を砕き、海を沸騰させて、沢渡さんの身体を包んでいきます。
冬の風は穏やかな光とともになりを潜め。
呪いの声は優しい歌声となり、白く輝く積雪は花咲く野に。
もうすぐ春がきます。
ローラは、いまどうなっていますか。
私の名前は。




