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お父さんは『勇者』さま  作者: 鴉野 兄貴
『黄金の鷹』と『真銀の隼』

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ほんとうのこと

31日の更新は元旦分を連続投稿してしまいました。

 おとうさん!

私は走りました。物心つく前から教えられたこと。それは走ることでした。

転んでもすべっても優しく手をさしのばしてくれる。暖かく見守ってくれる瞳。

時には厳しく立って立ち上がることを促すその小さな膝は残酷に見えて情との間で震えていた。

泣いている時も寂しい時もその柔らかい声を聴いたらうれしくなれた。

久しぶりにでた太陽の陽にあてたお洗濯ものやシーツのような香り。

よくわからない食べ物を食べたり、美味しい食べ物を食べてもらおうと黒こげにしても笑っていたひと。


 死兵と化した『サワタリ』たちが幾重にも父に絡みつき、その身を崖に躍らせます。

私の指先は一瞬、一瞬だけお父さんの指先に触れかけて。届かなくて。

「おとうさん」

フィリアス。声が聞こえたのは幻聴ではない。そう。


 やだ。

 やだ。

 やだ。


 フィリアス。

 フィリアス。

 フィリアス。


 私の名前はフィリアス・ミスリルと申します。ローラ市国に住む……歳です。私のお父さんはこの国一番の勇者のファルコ・ミスリル。でもちっとも勇者らしくないのです。泣き虫で子供の容姿で暖かくて変な遊びばかりして。


 傾いだ彼の小さな体が見る見るうちに崖下に消えていきます。

音も匂いも光も闇も喉を突き抜く涙の味も鳥肌の感覚も思い出せず。


『翼が欲しい。翼がほしい』


『翼はオマエの背にある』『翼はあなたの心にある』


『翼を広げろ。フィリアス』『私たちの娘』


 透明な羽根。それが雪のように舞い散ります。

お父さんと見たローラの雪。あの里でお父さんとお母さんが見せてくれた雪。

音もなく広がる力。白い、透明な翼が私の背の大きな傷痕から伸びていくのがわかります。

その翼は力強く、たおやかに暖かく私を包んでいきます。

暖かい。優しい。強くたおやかな。甘い香りと優しい春の力を持ったつばさ。


 私は何も考えず。何も考えられず。

それが当然で、できることだと確信することすらせずに崖下にその身を躍らせました。

強烈な逆風が私の頬を押し上げ、落下する小さな小さな。私の今の父を捕えた瞳を乾かせます。

恐怖と悲しみで焼ける喉を振り絞り、大きな声で私は叫びます。


 今度は。

今度は今度は今度は。

絶対に絶対に絶対に!!


 あたしの目の前で自らの翼をもぎ取り、三人の冒険者に己の力を分け与えた二人の両親の姿。


『ごめんね』


 私の翼をもぎ取って人として生きることを強いる自分たちの無力さを嘆く二人の姿。


『ゆるせ。娘よ』

 触れる指先。次々と里の暖かい記憶を吸い上げられていくのがわかります。


『有翼人は人間の世界では生きられない』『ニンゲンになっても、生きていて』


 『翼の忘却』で忘れていた記憶。


『この場は私たちが引き受けた』



 目の前に大きな魔法陣を展開。

重力魔法陣。後方には斥力魔法陣。

その力をもって崖下を駆け抜けます。

翼を広げて、手放したものを取り戻すために。


 私は、もう忘れない。

忘れるものですか。二人の気持ちを。


『ニンゲンの言葉でいえば。娘よ。私はオマエを愛している』

『ニンゲンに会えてよかった。貴女を特別に思えた』


 縁もゆかりもない私を育ててくれた冒険者たちのことを。


『ぼくが育てる!』


 差し伸べられた小さな指先を。私は手放さない。


「お父さん!!!!!!!!!!!!!!」


 私の伸ばした腕はかろうじて崖下にたたきつけられるはずだった父、ファルコ・ミスリルの手を掴み。


 砕け散る黒いものに目をくれず、私は翼をはためかせて空に。

木々を通して光り輝く陽の光を浴び、びゅうびゅうと流れる風を受け、舌と喉を突き抜ける炎のような歓喜の歌を抑えられず、雨雲に向けて翼をはためかせ。


「おとうさん。だいじょうぶ?」


 その小さな体を抱き上げ、私は翼をゆっくりと動かしつつ、舞い降りました。


「ふぃりあす?」「おとうさん。ただいま」


もう離さないでね。


「ふぃりあす」「なあに。おとうさん」


 私は彼のちいさな身体を抱きしめ、夢を見るように重たい瞼を彼に向けます。

私の不思議な輝く透明な翼。彼を包み、彼の傷をいやしていくのがわかります。

私の小さな。小さな優しいゆうしゃ。私のおとうさん。


「みちゃだめ!」


 真っ赤な顔で私の腕から飛び出した彼によって私の身体は大きく傾ぎ。

気付きました。上着が破れて私の両の乳房が完全に露出している事実に。


「みるなみるなみるな~~~~~~~~~! みんな死刑~~~~~!!!」


 困惑するロー・アースさんたちと胸を抑えて『やっちゃった』な私。

小さな体を盾に大慌てで私に服を着るように促す父。


「ほら。フィリアス。ぼくのマントでいいよな」


 私は伯父にほほ笑みます。

真っ赤な頬をした伯父はちょっとだけ可愛かったです。


 私の名前はフィリアス・ミスリルと申します。

ローラ王国にて勇者にして養父、ファルコ・ミスリルに育てられた15歳。

父エアリス、母フィリアより養父に託された妖精、有翼人フェザーフォルクの生き残りです。

養父との関係ですか? もちろん。とっても良好です。


「だから見るな~! 記憶よ消えろ~! 消してやる~!」


 父は、ファルコ・ミスリルは幼児の姿から成長しない種族の子ですので。

その。


だいすき。

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