おしおきはする側も心が痛い
お久しぶりです。
フィリアス・ミスリルと申します。
城塞都市国家ローラに住まう11歳。
歳の割にはしっかりしているといわれるのは誇らしいのだか己の不幸なのだか。
というのもうちの父が少々特殊でして、私が大人びたのも致しかないのです。
「ふぃりあすっ!」しゅんと頭を下げる私の視線の先には彼の頭が見えます。
表情はちょっとわかりません。彼のほうが私よりずっと小柄ですので。
ミック先生の牧場の馬を勝手に操ってお馬さんに怪我をさせてしまいました。
本当ならそういうお馬さんは馬肉にするそうですが、チーアさんがやってきて癒してくださいました。
ミック先生は馬の扱いが巧みでとてもお馬さんに好かれるんです。
女の人にもてるだけではなくて馬にも人気なんて素敵。
先生が神族の血を引いているのが原因らしいのですが。
「お馬さんは。いきものはだいじにするものなのの」「はい」
「ちいやがいなかったらおいしいステーキになってたの」「なんか俺恨まれてね?」
チーアさんは高司祭の衣装をまとった長く黒い髪の美人さん。
彼女は旧知の私たちの前でだけは男言葉でお話します。
時々持祭のお姉さんがやってきて小言をしていますが。
この国の高司祭様なのですが、とても気さくで優しくてお母さんみたいなんです。
「おしりぺんぺん」そういって定規を持ち出すお父さん。
私は素直にお尻を彼に向けますが。
……あれ?
痛くないのですけど。
おそるおそる振り返ると。
踏み台に登って定規を振り上げた父は勢い余って転落。
チーアさんをつぶして倒れていました。
うちのお父さんは妖精の一族で、幼児の姿のまま歳をとりません。
私の名前はフィリアス・ミスリル。
お父さんの名前はファルコ・ミスリル。
私たち親子の関係は結構いいと思う。